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122話 精霊王の話
しおりを挟む精霊王は暇だった。
毎日毎日、毎日毎日
光の玉が映す世界を眺めていた。
誰が、何かが、死のうが
誰が、何かが、生きていようが
誰が、何かが、
殺されようが、踏み潰されようが、もがこうが
誰が、何かを、
殺そうが、踏み潰そうが、生かそうが
そんなことは精霊王にとって、あまりに些末な、退屈極まりない出来事だ。
精霊王が干渉するのは、
世界が終末に導かれるほどの、大きな出来事が起きる時だけ。
そんな機会は十万年近く見ていても、数えるほどしか巡ってこない。
でも、もし何か起きているのを見逃せば、世界の大惨事だ。
サボるわけにもいかない。
退屈で退屈でどうしようもなく、精霊界で案内人でもやれば、少しは気が紛れるだろうかと、仮の姿で下へ降りた。
そろそろ精霊王交代の周期も近づいていたし、交代できそうな精霊をみつけるのにもちょうどよかった。
そんな時、おかしな下級精霊を案内する中級精霊を見かけた。
どうやら、その下級精霊は、珍しく同じ人物を何周も何周もしているらしい。
そのうち、さらに珍しいことに、
あまりに同じ下級精霊と対峙するものだから、
その中級精霊は、ついにその下級精霊に恋心を抱き始めた。
———通常精霊は恋などしない。
自分の位をあげるための修練で、色々な器に入り、記憶も浄化されてしまう。
また、位を上げるごとに欲を欲する気持ちがなくなっていき、
最上級精霊にまでなると、無欲になる。
恋だの愛だのは欲のひとつで、そんなものはどうでもよくなるのだ。
だから、退屈だった精霊王は、まるで面白いおもちゃを見つけたかのように、その中級精霊の観察を始めた。
そうこうしているうちに、下級精霊は冥界へ堕ちた。
そんな情報は精霊王だけ知っていることだが、
精霊王は色々考えた。
あんな恋をするような珍しい中級精霊は、ちょっと育てがいがあるな…
もし、条件付きの方法を与えて、
それでも立ち向かえる気概があるなら
或いは…後継者に望めるかもしれんな…
そう思った精霊王は案内人の姿のまま中級精霊に近づくと、冥界での助け方を教えた。
最上級精霊になれ、と
もしも精霊王になるなら、最上級精霊のひとつ上の修行が必要だ。
ここで最上級精霊になれないようでは、どのみち精霊王にはなれない。
だから、最上級精霊になるという条件を付与した。
本当は精霊王の力があれば簡単に冥界から出せるが、それではなんの意味もない。
中級精霊は、やると言った。
しかし何千年とかかる修練に耐えられるか?
口先では何とでもいえる。
そう思って様子を見ていると、本当に最上級精霊にまで辿り着き、あの冥界に入って、ついに下級精霊を救い出した。
あまりに大変な事を、あの下級精霊ひとりのためにやってのけた。
間違いない。
精霊王の器だ。
次の精霊王はこの中級、いや、今は最上級のあの精霊しかいない。
確信した精霊王は、
あの下級精霊がループを終わらせない限り、
あの最上級精霊もまた精霊王への修練は始めることはないだろうし、
そもそも精霊王になりたがらないかもしれない。
あの下級精霊を救う方が先決か…
ならば、
出会うまで記憶は戻らないというペナルティーを与えて、
本当はやってはならない最上級精霊を器に入れるという、干渉を与えた。
本当はやってはいけないことなんだから、少しのペナルティーくらいは楽しませてもらうことにした。
精霊に善悪の感覚などない。
そうしたいからそうした。それだけだ。
しかし、偶然など本当はない。
必ず出会う相手に入れておいてやった。
人間界では、その下級精霊の入った人間を狙う組織があったため、
降ろした最上級精霊の助けになればと、精霊王は自分の側近の最上級精霊をその近くの人間の器に入れてやった。
ここまでお膳立てしてやったのに、まさか姿を現して早々に戻ってくるとは…
精霊王は、すぐに自分のもとへ呼び寄せ、
次期精霊王に必ず就任させるため、
下級精霊と幸せになろうとする最上級精霊の手伝いを、
仕方ないからもう一度してやることにした。
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