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116話 新たな旅立ち

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———あの悲しい晩餐から、2日後の朝。

私は簡単にまとめた荷物を片手に、心配気なお義母様とお義父様に見送られながら、

門の前に停められた、公爵家の豪華な馬車に、ティアはゆっくりと、乗った。

その後から、ラムも最初に来た時と同じワンピースに手荷物を持って、ティアの後に続いて乗り込む。

リンドの姿はなかった…

政務のため、昨日の夜から泊まりがけで出かけたまま、帰っていないそうだ。

大きな荷物は邸で預かってもらった。

処分してもらうか悩んだが、

せっかく自分のために、リンドやガーネットが選んでくれたものを捨てるには忍びなく、

しかし、これから向かう先に持って行くわけにもいかなかったので、困っていたら、

ガーネットがそのままにしておいて良いと言ってくれたからだ。

もしリンド様の記憶がこのまま戻らなかったり、別の方を好きになってしまったら…

その時は処分してもらうように頼んでおいた。

———走り出した馬車の中で、ティアはラムに声をかけた。

「ラム、本当によかったの?私なんかについてきて…

リンド様にはいらないとお伝えしたのに、結局あまりにたくさんの慰謝料を頂いてしまったから、

ラムへのお給金は、これから先、一生でも私から出すことはできるけれど…

公爵家にこのまま仕えていれば、良い縁談にも恵まれたでしょうし、

お義母様やお義父様も、ラムが公爵家の侍女としてそのまま残っても構わないと、

せっかくおっしゃってくださってたのに…」 

そう言うと、ティアは心配そうにラムを見た。

「私はティア様のそばについていると、ずっと心に誓っていますから。お気になさらないでくださいませ」

照れ隠しに、窓の外を見つめながらラムは言い切る。

「そんな…もう少し自分を大切にした方がいいわよ…ラム。

私が行くところ、わかってるんでしょ?」

「当然です」

「だったら!」

「元に戻るだけです。

いいえ、ティアお姉様がずっと一緒にいるということと、

あの公子やロズウェルお兄様にお姉様をとられる心配もないと思うと、私の完全大勝利です!」

なんだかよくわからないが、勝ち誇ったように言うラムを見ていると、

この先を憂いていた気持ちも少し軽くなって、自然と笑みがこぼれた。

「じゃあ、そういうことにしておきましょうか。
どうぞ、これからも末永くよろしくね、ラム。」

「ハイ!ティア様!こちらこそよろしくお願い致しますわ!」

ふふっとティアは微笑むと、

「はぁあ」

と上を見上げながら大きな溜息をひとつ吐き、顔を真っ直ぐ前に向け、

「よし!大丈夫!私はリンド様を愛してる!」

そう強く言い放つ。

その目から、一筋の涙が流れ、頬を伝わったのを、ティアはぐいっと手で拭くと

「いくらでも待ってやるんだから!
私、しつこいのよ?」

と、ラムに向かってペロッと舌を出してみせた。

しつこいのは本当だ。

何度もこのティアを繰り返しているのだから…
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