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101話 本当の姿

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ティアは事情を聞いて飲み込んだ。

「そうだったのですね。本当によかった。想い合っている2人が結婚されて、本当によかった。」

フェリスはあの時、自分は愛されなくていいと言った。

愛される喜びを、今はもう知っているティアは、

同じ気持ちを抱いていた過去を持つ身として、フェリスのことをとても心配していたので、

心からよかったと思う。

「セルデューク国の派閥の分裂が一つにまとまるなんて、素晴らしいことですね。

本当によかった。

フェリス様なら、きっと国民も安心して暮らせる国づくりをなさるでしょうし、平和なよい国になるのでしょうね。」

ティアは微笑みながら言うと、さらに続けた。

「でも、リンド様はいつこちらへいらしてくださったんですか?

私とんでもない軍艦に乗せられて…

今思い出しても、ゾッとしますけれど…

あのように速い船は、まだガルティア国は所持していなかったと思うのですが…

私の勉強不足でしょうか?追いつくのが難しかったと思うのですけれど…⁇」

不思議そうにリンドを見つめた。


「…ティア、そのことなんだが…ちょっと見てもらえるか…」

どのみちティアの記憶は消されるだろうし、

リンドもこの先ティアとは人間界でもう2度と会えないのだから、

教えても仕方ないとは思ったが、

それでも、もし人間として記憶が消されてしまっても、精霊界へティアが戻った時に、万が一この記憶が戻ることがあれば、

リンド公子が最上級精霊のリンドだと思い出してくれれば

精霊界でまたティアと関われるかもしれない

俺との愛を知ったティアが、精霊界にその俺がいるとわかれば、ループをやめるかもしれない。

次の自死をしたら、もう2度と俺はティアを冥界から助け出せないんだから…

そう思うと、ほんの一欠片の可能性であっても、その望みは捨てられなかった。

リンドはティアを長椅子に座らせ、立ち上がって、

重い足取りで前へ歩いて行き、部屋の真ん中で立ち止まると、

ゆっくり、ティアの方へ向き直る。

じっとティアを見つめたあと、リンドは静かに目を閉じた。

すると、眩いほどの光にリンドの体は包まれ、すうっと人の姿が消える。

と同時にその光の中に、小さな白金のドラゴンが現れた……

「⁈⁈⁈⁈⁈」

ティアはあまりの驚きに口を手で覆うと声にならない叫び声を上げた。

「まっ、まさか、それって…それって…リンド様、最上級精霊さまのお姿じゃ…?」

驚きながらもティアは聞いた。

ティアは今回記憶を持ってきている。

だから精霊界があることも、精霊は光の存在であることも、最上級精霊のみ姿を持っているということも理解している。

リンドの小さなドラゴンは、また強く光ると人の姿に戻った。

リンドは悲しそうに笑いながら、長椅子に戻ってきて、ティアの隣に座る。

「そうだよ。その通りだ。おれは最上級精霊のリンド」

リンドは前を向き、遠くを見るようにして、静かに認めた。

「えっ?でも確か最上級精霊が下界に降りる場合は器に入ることができないんじゃなかったでしょうか?」

驚きながらも、ティアは疑問をぶつけた。

「そうだな。普通はそうだ。まぁ、そのことも含めて、少し長くなるが、ティアに話さないといけないことがある」

リンドは真面目な顔でティアを見た。


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