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97話 女帝の宣言
しおりを挟むナターシャはナイフを首に強く食い込ませ、命をかけて、叫んだ。
そのナイフを持つ手が、そっと温かいぬくもりに包まれる。
フェリスの手だった。
フェリスは、ナターシャの手を取って、ナイフをそっと離させると、
「ナターシャ、自分をこれ以上傷つけるのはやめてください。
あなたがここまで考えていたなんて…正直驚きを隠せません。
ですが、あなたの考えは素晴らしい…
この国を憂う優しさ、あなたが女帝ならばどんな未来が開けるのかと…
一緒にその先を見たくなりました。
本当に私のような者でよろしいのですか?
お側に仕えさせて頂き、一緒に国のために働いてよろしいのですか?
あなたを…愛していいのですか?」
フェリスは言った。
————フェリスは幼い頃、よくナターシャと遊んでいた。
幼い頃からナターシャは優しく強い子で、フェリスの憧れでもあり、初恋の相手でもあった。
しかし、仲の良すぎた2人を危険視したお互いの派閥が、2人を離れさせ、
フェリスには、その後ナターシャへの気持ちを忘れさせる為にと、
父が散々クーデターの歴史とリズティアについて聞かせ、
必ずリズティアを妻にし、女帝に君臨させるのだ、と呪いのように聞かされ続けていた。
恋心など、意味のないものだと思わされ、治世のために必要な婚姻を結ぶのだと自分に言い聞かせて、今まで生きてきた。
ずっと胸の中の箱にナターシャへの気持ちを閉じ込めながら…。
そのナターシャと手を取り合い、一緒に国を守る機会を与えてくれるなんて…
信じられない気持ちでいっぱいだったが、
ナターシャの様子を見て、全ての忌まわしい呪いを捨て、
ナターシャと生きたいと強く願った。
「仕えるだなんて…私は本当は…お恥ずかしいことですが、ただあなたのおそばにいたいだけの、ただの女にすぎません…」
それを聞いてフェリスは優しい目をしてそっとナターシャを抱きしめ落ち着かせると、
「少しお待ちください」
と、ゆっくり引き離すと、ミーシャの前で片膝をつき、胸に手を当て礼の姿勢をとった。
「女帝ミーシャ様。
どうか私からもお願い致します。
私フェリスと、ナターシャ様との結婚をお認めください。
そして玉座の引き渡しを求めます。
ナターシャ様のお苦しみ、どうかお察しください」
「……」
ミーシャは少し考えた後、
「…わかりました。言う通りにしましょう。
これ以上抵抗したところで、私につくものもいないでしょうし…
私は皆から嫌われるバカな女帝だということくらいわかっています。
群がる連中が、私をどのような目で見ながら利用してきたかも。
それでも、こんな私でも、子供は大事だった。
愛していたからこそ、派閥を強くし、守る必要があった。
でも、そんな必要、もうないのね。
私なんかよりずっと賢いこの子なら、
私が退く方がよっぽどこの子が幸せになりそうだもの。
…邪魔者はこれにて退散することに致します。」
そう言うと、周りを取り囲んでいた兵士に向き直り大声を張り上げる。
「皆のもの!よく聞きなさい!
私、女帝ミーシャは、このナターシャとフェリスの婚姻を認め、ナターシャに今この時をもって、女帝の座を引き渡します!
異論は認めません‼︎
これからは、こちら側もフェリス側も手を取り合って、争わず、2人が国を治める手伝いをするのです‼︎」
そう言って、胸元の女帝を表す勲章をもぎ取り、ナターシャの胸につけてやる。
それを見た兵士たちから、オオオオオ!と地響きが起きるような歓声が湧き上がる。
その歓声の中、ナターシャはフェリスの温かい腕に抱かれて、嬉しさのあまりまた泣きじゃくっていた。
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