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40話 親の愛情
しおりを挟む公爵邸の大きな正門が、衛兵によって開かれると、そのまま馬と馬車は進入する。
正門から邸までの間は白く輝く代理石のタイルで造られた広い道が敷かれ、
その両脇にはシンメトリーの美しい庭園があり、噴水から出る水しぶきには小さな虹がかかってみえた。
王宮に勝るとも劣らないあまりにすごい光景に、こんなすごいところで暮らすことになると思うと、身もすくむ思いだった。
「大丈夫だよ」
またリンドはティアの機微を感じ取り、頬を頭に寄せてくれた。
「は、はい、がんばります」
緊張するティアに、
「ははっ、がんばらないで?俺のそばにいればいいだけだよ」
笑ってリンドが優しくたしなめる。
そんなことを言ってる間に、邸の前で手を振って立っている2人…そう、リンドの両親の前までやってきた。
「どうどう!」
と、リンドが手綱を引いて、馬を停め、飛び降りると、
ティアをそっと抱きかかえて降ろす。
おかえりなさいませ、おぼっちゃま!と敬礼してから近づいてきた衛兵に、ああ、頼むと言ってリンドは馬を預けた。
「ありがとうございました」
とティアは微笑んで伝えると、
「いや、体は大丈夫?」
とリンドも微笑み返す。
すごくいい雰囲気の2人に、後ろで停まった馬車から降りてきたラムは、急いで駆け寄ってくる。
でも、今度はもう睨んでいなかった。
馬車から見ている2人はとても穏やかで、ティアがあまりに幸せな顔をしているのが見えたから、
私のティアお姉様が幸せなのが一番よね
まぁ、表情が曇ることがあれば、その時は覚悟してもらうけど!
そう思いながら、ティアの少し後ろに大人しく控えた。
3人はリンドの両親の前に歩み始めると、両親の方からも駆け寄ってきて…
ドンッガシッ
「ティアちゃーん!いらっしゃーい‼︎待ってたのよ!まぁ、ほんとにリンドの言う通りだわ!可愛い!」
ティアに飛びつき、思い切り抱きついてきたのはお義母様だった!
抱きつくと同時にふわりとした白い光がティアの体を覆い体の力が抜けて軽くなるのを感じた。
ティアは驚いて棒立ちになり、なされるがまま固まってしまう。
「おいおい、ガーネット、ティアちゃん固まっちゃったじゃない。次は僕の番、はい、どいてね。」
とお義母様を引き離して、次はお義父様がふわっと軽くハグしてくれた。
「いらっしゃい、ティアちゃん。」
また体の周りが、今度は薄い金色の光に発光して、先程の力が抜ける感覚とは違い、力がみなぎってくるような感覚があった。
リンドの父マークは、ティアからハグを解いて、優しくティアの目を見る。
「婚約したし、どうせもうすぐ正式に僕の娘になってくれるなら、ティアって呼んでいいかい?僕のことも、もうお父さまって呼んでくれたら嬉しい」
と言って、ニコニコしながらティアの手をとり、ぶんぶん振った。
「はいはい、2人とももういいだろ!ティアにさわるなよ!びっくりしてるだろ、…はぁ」
とリンドは溜め息を吐きながら、父の手をティアから払い除けた。
「なによー、ちょっとくらい、いいじゃないの!ヒールかけただけだし⁇
こんな可愛い子をあんたが独り占めなんてズルすぎじゃない⁈ね?あなた⁇」
そう言うと、ガーネットはグルンっとマークを振り返った。
「うむ、全くだな。」
腕組みしてマークは頷いた。
騒ぐ両親にやれやれと呆れながら
「疲れてるし、いったん部屋で休んでから一緒に夕食にしよう。」
と言って、リンドは早々に退散しようとする。
「えー⁈もう⁉︎せっかくヒーリングしたのにぃ。
でも、まぁ…そうよね!がまんするわ。じゃあお2人とも、ごゆっくり。ふふふ」
とニヤニヤしながらこちらを見ているが、リンドはそんな両親にイライラする気持ちを抑え、ラムの紹介もしておく。
「こちらの彼女は、これからティア付きの侍女として、ティアのそばで見の周りのことをしてくれる、ラムだ」
ラムは一歩前に出てカーテシーをすると
「ラムです。以後よろしくお願い致します」
と、簡単に挨拶した。
ラムもまた、親に赤ん坊の頃捨てられた身で、兄やみんなに囲まれて寂しくはなかったが、親の愛というものを知らないため、「両親」というものを見て、やや戸惑っていた。
「あら~、ラムちゃんも可愛いわぁ」
とガーネットはまたラムを抱きしめ白い光を出し、
「ふむふむ、ほんどだな」
とマークもニコニコして、交代でハグし、白金の光を出す。
ラムは温かい大人の愛情に包まれて戸惑いが増した。
「あっ、あのっ…」
と動けないでいると
「はいはい、可愛いのはわかったから、やめろってば!」
とリンドは呆れ顔で引き離し、
「じゃあ行こう」
とティアの手をとって中に入る。
後ろから追いかけたラムの膝は少し震えていた。
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