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23話 溺愛×2
しおりを挟む後ろから足音が聞こえる。
近くまで来て止まると、声がした。
「失礼致します、公子様」
2人は振り返ると、そこには胸に手を当て、美しい礼をみせる兄、ロズウェルがいた。
何やらお兄様の頭の上から黒いモヤが出ている気がするのは…気のせいよね
とティアは目をこすった。
「おお!兄君様!よく来てくださいました!どうぞ、お顔をあげてください!ちょうどご挨拶をしたいと考えていたところでした!
私は、…ご存知かもしれませんが、リンドール=ユークリス。兄君様にはぜひ気軽にリンドとお呼び頂きたい。」
リンドはニコニコして私を抱えたまま、お兄様に声をかけた。
ほんとに、恥ずかしいから降ろしてほしい!
お兄様はゆっくりと顔を上げた。
美しい顔には最上の微笑みが讃えられているのに、青い瞳の奥が何やらドス黒く濁っているような気がして…ヒヤリとした感覚がその場の空気を凍てつかせるようだった。
「お、お兄様⁇」
ロズウェルはティアに優しい笑顔を向け一瞥だけすると、リンドの方を向き一気にまくし立てる。
「お初にお目にかかります。マルセル伯爵家長男、ロズウェル=マルセルにございます。この度は我が妹をお見初めくださり心より感謝申し上げます。しかしながら私共のような家格では、いささか役不足かと恐縮しております。気がお変わりになりましたら、どうぞご遠慮なくおっしゃってください。…それと、リズティアがご迷惑をおかけ致しましたようで、申し訳ございません。」
と言いながら、微笑んでいるのに恐ろしい形相をして、リンドに近づき、ティアを引き剥がす。
リンドはロズウェルの真っ黒なオーラに気圧されティアをしぶしぶ兄に渡す。
お兄様、心なしか小刻みに震えているような?
お寒いのかしら…
「ティア、どこか苦しいのかい?公子様にご迷惑をおかけしちゃダメじゃないか。さっ、調子が良くないなら、今日はもうお暇させて頂こうね。」
ロズウェルはティアに優しくささやく。
抱えられていたから勘違いさせてしまったのね
私体調は良いのですけれど
まぁ、お腹はいっぱいでちょっと胸焼けはしてますけど…てへっ
ティアがそう思っている間にも、ロズウェルはすぐリンドに向き直り、冷たくひと睨みすると、私を抱えたまま、また美しく礼をする。
「ティアの体調が優れないようですので、本日はこれにて失礼させていただきます。」
「えっ?兄君?」
キョトンしたリンドに
「ロズウェルでございます。以後よろしくお願い致します。では」
冷たくロズウェルが言い放つと、
リンドが呆気にとられている間に、もうロズウェルは白地の上着によく映える濃紺のマントを翻し、来た道を戻り始めていた。
「な、なんだなんだ⁈ティア、体調なんて悪くなかったよな⁈」
執事が横目にニヤリと笑う。
「デュオ!なんだよ!」
この執事デュオは、男爵家の次男だが、聖力と武力に長け、且つ知力も優れていたため、その能力を買われ、20歳の時に公爵家に召し抱えられ、25歳の時にリンドが産まれると、世話役として今日まで側で支えてきた、最も信頼のおける頼もしい忠臣だった。
「リンドール様、色々やりすぎでございますよ。あのように美しいお嬢様ですから、浮かれるのはわかりますが、まだ会って間もないのですから大概になさいませんと。嫌われてしまいますよ?」
「なにっ⁈嫌われる⁈それは困る!絶対だめだ!」
悲壮な目でデュオを見る。
まるで捨てられた犬のようだ。
ただしそこは子犬と言いたいところだが、どう見ても大型犬ではある。
くすりとデュオは静かに笑うと
「それと、あの兄君様。なかなかに厄介そうでございましたね。」
「どういうことだ⁈」
いつも何かあれば見える光もあの兄には見えなかったから、問題ないと思っていたが…
「あれは、相当シスコンで面倒そうですよ。うまくやらないと、彼、頭もキレそうな感じでしたから、策略で知らない間に婚約破棄に持っていかれかねませんね、あれは。」
「なんだって⁈デュオ!じゃあどうしたらいい?」
大きな背中を丸めて、縋り付くようにデュオの肩を掴む。
こんなに何でもできて美しさまで兼ね備えているというのに、こと恋愛においては本当におバカで…可愛らしいお方だな、とデュオは自分の子を思うような愛しい気持ちも相まって、小さい子をあやすように話す。
「はいはい、大丈夫ですよ。まぁ、とにかく節度を守ってお兄様に気に入られましょう。あとはそうですね…お兄様にもご婚約者様などいらっしゃれば、少しは変わるのかもしれませんが…」
「なるほど、なるほど!…よしっ!それで行こう!」
リンドは一気に明るい顔になると、部屋に向かって軽い足取りで歩き出した。
「…ほんとにわかったのかな。…心配だ」
執事の心配をよそに、リンドの鼻歌が遠くからでも聴こえてきた。
「はぁ…やれやれ」
あきれながら執事は遅れて後をついて行った。
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