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17話 裏切り者のたわごと

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…生きてたんだから、まぁ…これは当然よね。

でもでも…やっぱりこわすぎる…社交会!

15歳になる年の子を集めて、1年に一度行われる特別な舞踏会、デビュタント。

この参加を機に、夕刻から夜にかけて行われる舞踏会への出席が認められるようになる、社交会デビューのための大切な式典。

それまでの年齢の貴族の子どもは、昼間に行われる茶会などに親と連れ立って行き、交流するのが普通だが、私はそもそもお母様に嫌われているから、一緒に連れて行くのはほぼお兄様だけだった。

ただし、何か問題があるのではと周りに思われないようにするためと、それに伴って婚約者として選ばれる際に価値を落とさないために、嫌々ながらも本当にごく稀に連れて行かれることもあったが、そういう日はさっさと切り上げて帰ってしまうので、大勢の貴族に囲まれることにいつまで経っても慣れることができなかった。

だから、王宮でのデビュタントなんて大きな式典で、大勢の煌びやかな貴族子息令嬢の中に自分も混ざるのかと思うと、それだけで息苦しくなる。

でも、絶対デビュタントに生きて参加するんだって強く決意していたから、ろくに家庭教師をつけてもらえない私は、ダンスもうまく踊れなかったので、孤児院での時間でこっそりお兄様に特訓して頂き、踊ることだけはなんとか、少しだけれど自信がついたとは思う。

でもそれは相手がお兄様だからなだけで、他の方となんて…考えるだけでカニのように口から泡をふいて倒れてしまいそうだわ。

などとあれこれ思いながら、戦地に赴く兵士のような、はたまた見知らぬ土地へ流刑されるような、いろんな気持ちがないまぜになりながら今は王宮へ向かう馬車に揺られている。

揺れているのは体なのか緊張でドキドキする心臓なのか

もうどっちなのかわからないけど、あー、緊張する。

何しろやっぱり自己肯定感は育ってませんからね、自信がなくてこわいんですよ。

お母様から疎まれ続けた銀髪紫目

これが稀なことは嫌でも知らしめられてきたため、人の目がやはり恐ろしい。

領地内では小さい頃から孤児院や町に降りていたおかげでこの色は周知され、何も言われることはなかった。

だが、一歩領地の外へ出ればどうだろう。

経験がないので予測もつかず、不安に苛まれていたその時、

さすがにデビュタントの今日は一緒に連れ添ってきた父親が、思わぬことを言い出したのだ。

「ティア、もしかしたらその髪と目の色を気にしているのかい?」

私は急に核心をつかれて目を瞠ると、しかしお父様は気にせず続けた。

「そうなんだね、ティア。
…心配いらないよ。ティアはとてもキレイだしかわいいんだから。お母様もね、デビュタントの日、同じように気にしていたんだ。同じようにというより、お母様の方がひどかったかもしれないね。お母様は実際にその色で小さい頃にからかわれた経験があったから、周りの目に怯えてとてもかわいそうだった。でもね、私はそんなお母様が妖精のように見えて一目惚れしたんだよ。本当に可愛らしかった。だからね、ティアも妖精さんのようでとってもかわいいんだよ。自信を持ってデビュタントを楽しんでおいで。」

何やら切なげな目をして語りはじめた…

私はそれを聞いてワナワナと震えた。

そんな惚気話するくらいなら、どうして、どうしてお母様を大切にしないの⁈
どうして、どうしてお母様を悲しませるの⁈
信じられない!
まるで今でも愛しているかのような口ぶり。そして…眼差し。
ありえない!
今さらそんなこと言うなんて許せない!

「どう…して…なら…どうして…」

思わず口をついて出てしまった。

お父様は、お父様にそっくりなお兄様がよく見せる、あの優しく、でも困ったような笑顔で

「…そうだよね」

とだけ言って、家を出た時からずっとそうしていたようにまた俯いて、だまってしまった。

卑怯者!裏切り者!許さない!

頭の中でその言葉たちがぐるぐる巡る。

「もう私が言ってはいけないのだろうけれど、ティア、15歳おめでとう。愛してるよ」

顔を上げて、しっかりと私の目をみつめて、お父様は悲しげに微笑みながらそう言うと、窓の外へ顔を向けた。

鈍器で殴られたような衝撃。
今すぐ馬車から飛び降りたかった。
一緒にいたくなかった。
裏切り者の口から飛び出たウソとも本当ともわからぬコトバ。
コノヒトハ ナニヲ イッテイルノ
お母様からも子どもからも家からも全部から逃げておいて、今さら、は?愛してる?
こわいこわい、ぞわぞわする。

人がこわいどころか男性不信になりそうだ。

忘れよう、うん

黙ってうつむいて目を閉じた。

違うことを考えよう…
あっ、今朝のパン、ふわふわでおいしかったな…
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