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9話 裏切り

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いつ頃からだっただろう、リズティアが2歳、ロズウェルが4歳の時くらいだったか

ロイーズが仕事関係で家に帰るのが遅くなる日が続き、何日か家をあけることも増えてきていた。

これまで真面目に政務をこなし家族に愛を注いでくれていたロイーズのことだから、

私は何ひとつ疑うことなく、それどころかお仕事の大変さをねぎらいたくて、

手作りの料理や刺繍入りのものなどを彼に贈れるようにがんばっていた。

がんばるとはいっても、その作業のひとつひとつでさえも幸せだったのだ。

しかし、ある時私は、用事で彼の書斎に入った時、

私が施した刺繍入りのハンカチが折りたたまれたままクズ入れに捨てられていることに気づいてしまった。

どうして…まだ新しいのに…

思わず拾い上げたと同時にたたまれていたハンカチが重力に任せて広がると

アッ!

真っ白なハンカチの内側に、女性用の化粧品を拭いたような跡がくっきりと残っていた

ワナワナとふるえる

どうしよう…浮気…なのかしら
ただの間違い⁇

わからない…問い詰めた方がいいの⁇

でも…問い詰めて本当に浮気だったらどうなるの…

それどころか、相手の方を私や子どもたちよりも愛しているのだとしたら…

とにかく…よく考えなくちゃ…焦ってはダメよ、マリア!

ハンカチを元あったようにクズ入れに戻し、逃げるように書斎から飛び出して自室にこもる。


悩んだ末に子どもたちのためにも揉め事にするわけにはいかないと、

全てを飲み込んでなかったことにした。

けれど、ロイーズが留守にする日が増えるにつれ、いよいよ疑いが真実味を増してくる。

我慢できなくなり、

ロイーズが久しぶりに家に帰ってきたタイミングを待ち、

次に出て行く時にこっそり跡をつけた。

着いていかなければ良かったのかもしれない。
でも、じゃあ一体どうすればよかったの?
どうするのが正解だったの?



彼は見知らぬ小さな平民の家の扉をノックする。

すると中から栗色の髪、緑色の目の笑顔が愛らしい、

私より少し年下に見える女性が満面の笑顔で彼に抱きついて、

そのまま部屋へ招き入れ、そして彼は促されるまま中へ入り後ろ手に扉を閉めた。

彼の顔には、あの日、あの出会った頃の優しい微笑みが浮かんでいた。

久しぶりに見たあの優しい優しい微笑みだった。

呪いの言葉が蘇る。
やっぱり…やっぱりじゃない。
あなたもやっぱり私のこの銀髪紫目が嫌になったんでしょ。気持ち悪いんでしょう。だからその女性を選んだんでしょう。  

魔女と言ったあの子も、妖精と言ったあなたも結局それが本心なのよ。

あの子もあなたも大嫌いよ。
でも…こんな私は…もっと嫌いよ。

涙が溢れてこぼれ落ち、でもまたとめどなく溢れて、

拭く気力もなく出っ放しになった目の中は涙でいっぱいで、

目前のあの恨めしい家がかすんで見えなくなって…

このままあの家も中の人たちも世界も全部なくなればいいと…思った。

ふらふらとして、気がついたら伯爵家の前に帰ってきていた。

私は…私は…子どもたちを…守らないと…

それからの私は無我夢中で子どもを育てた。

もしも相手の女性に子どもでもできて、たまたま男児でたまたま優秀だったりしたら、ロズウェルの立場まで危うくなる。

そんなことはさせない。絶対に!

やれることは全てやらせた。

ロズウェルは彼に似て蜂蜜色の髪に青い瞳、眉目秀麗なだけでなく、何をやらせても優秀だった。

最近目の輝きが消えたような気がしないでもないけれど…気のせいね。

微笑みなんてロイーズそっくり。
この子の微笑みは私だけのものよ。

とにかくロイーズの跡を早々に継げる力をつけさせることと、

後ろ盾として力のある家の令嬢を婚約者に選ばないと。

それより問題は…リズティアね。

あの子を見てるだけで吐き気がするわ。
あの銀髪紫目…本当に嫌だわ、本当に嫌。

ああ嫌だわ、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い…
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