【完結】転生令嬢はハッピーエンドを目指します！

1話 不幸な現実

私リズティア＝マルセルは、

ガルティア王国の東の海に面した、

海外との貿易で賑わうポーネットを領地とする、

マルセル伯爵家の元に長女として生まれた。

長女といっても私の2歳上には兄が1人いて、

母はこの兄を恐いくらいに溺愛していた。

一方その裏では、

なぜか私だけが疎まれ、

物心ついた時には既にぞんざいに扱われることが当たり前になっていた。

体への虐待こそなかったが、

母親の極度な無関心というのは精神を薄弱させた。

母はとても美しい人で、

この国では珍しい銀色に輝く髪と紫の瞳を持ち、

社交会でもその美しさは有名だった。

私はそんな母ゆずりの容姿をしていて、

髪も目も母と同じ。

たとえ母の愛が得られなくても、

母が自分の中にいるようで誇らしく思っていたが、

母に同じ容姿であることを気持ち悪がられ続け、

いつしか自分自身もその見た目を否定するようになっていた。

母方の祖母だけは、

自分の娘の子供の頃を思い出すようだと言ってとてもかわいがってくれていたが、

そんな優しかった祖母も、

私が6歳の冬に死んでしまったため、

私の小さな幸せもそこまでだった。

父にはどうやら外に愛人がいるらしく、

私が2歳だった頃から徐々に家に帰らない日が増え、

私が4歳になる頃には母はますます父似の兄に執着し、

反対に私のことをこれまで以上に見えない空気のように扱った。

兄は昔は私をたくさん可愛がってくれていたような気もするが、

母親の愛を根こそぎ奪う存在を私は受け入れ難く、

自分から離れてしまったように思う。

兄もそんな私に気づいて近寄ることもなくなったが、

それでいいと思っていた。

祖母という心の拠り所を失って、

それでもなんとか14歳まで耐えてきた。

でも14歳ともなれば、生きる意味や愛について少しずつ深く考えるようになり、

押し寄せてくる絶望感を振り払うのにも、そろそろ限界が近づいていた。



私なんで生まれてきちゃったんだろう。

誰にも必要とされていないのに、　

なんでまだ生きてるんだろう…





毎日そう問いかけてくる心の声にあらがいながら、

ついに今日、15歳の誕生日の前日を迎えた。


この国では15歳を成人としていて、

その年のデビュタントに参加すると、

その後からの社交界への出席が認められるという

大事な節目の年齢でもあった。

自信のかけら一つもなく、

生きていることの意味を感じることのできない自分が、

外にさらされる恐怖に負け、

悲壮な自分の姿を嫌でも見せつけてくる自室の大きな姿見の前に立つと


ガシャーンッ

と、勢いよく砕き、

その一片を喉元に突き立て、


自らの時を終わらせた。

ドクドクと喉が脈打ち、

こんなに体の中には血が入っているものなのかと思いながら、

冷静に血だまりを眺め、

次第に呼吸が浅くなり、心臓の動きがゆっくりになり…

静かに目を閉じて…

真っ暗な中へ吸い込まれるように意識が消失する。