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90話 エレナを幸せにしたいんだ

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「そんな声であたしを呼ぶな!
気になってしょうがないじゃないか!」

「ベル!…ありがとう。助けてくれるの?」

「嫌だね!

別にあの魔法を取り上げなくても、また死に戻ればいいじゃないか!

そのための寿命ならまだ残ってるんだから!」

ベルは怒った顔でフェリスを見た。


「それじゃだめなんだよ…ベル。

だって、戻ってもカトリーナが魔法を持っていれば必ずこうなってしまうし、

魔法を与えられる前に戻ることは、たぶんもう僕の残りの寿命では…無理なんだ」

フェリスは悲し気に微笑んだ。
ベルは恐い顔をして黙っている。

「だから…ね?ベル。どうかお願いだ。僕の最後の頼みを聞いてほしい」

「はぁ…本当にいいのかい?
後悔しようったって、それすらできないよ?」

「いいよ、後悔なんてしない。エレナの幸せな顔はベルが見届けて。ね?エレナの侍女のベルナさん?」

「っ⁉︎…あんた…知ってたのかい」

「ふふっ、いつも気にしてくれてたんだろ?ベルの方こそお人好し過ぎだよ?」

「はぁ…お人好しついでに、あの子の魔法も消しといてやるよ」

「え?」

「無効化の魔法だよ」

「どういうこと?」

「はぁ…本当はね、

無効化の魔法であの子が怖がられるようになれば、きっと王妃になれないだろうから、

そしたらお前と一緒に駆け落ちでもして幸せになればいいと思って植え付けてやったのさ。

うまくいったのに…それをお前は棒にふるなんて、…馬鹿だよ、ほんとに。

もう意味がないから、それも取っといてやる。

あの子の笑顔があんたの幸せなんだろう?」

「よくわかってるね、ベル。ありがとう。じゃあせっかくだから、もう一つお願い。

…あのメイサって魔女を、もう2度とカトリーナに近づけないようにして欲しいんだけど、できる?」


「次々と面倒なこと言う子だねぇ。

まぁ、それくらいなら簡単だからやっといてやるよ。

あの子は私のところで修行してた子でね、私とは反りが合わなくて出て行ったんだが、

山程弱味を握ってるから、いくらでも脅して言うことを聞かせられる」

「よかった。じゃあこれで僕の心配することは何一つなくなった」

清々しい顔をしたフェリスを見て、大魔女はもう諦めるしかなかった。

「はぁ……じゃあ……覚悟はいいかい?」

「いつでも?」

フェリスは満面の笑みで答えた。

ベルはその顔を見て大きく溜め息を吐くと、

反対を向いて、動きが止まったカトリーナとエレナを宙に浮かせた。

手をかざすと2人の体は強く光り、その光が球になって頭の上に集まると、爆発するように飛散して消えた。

ベルは2人を元の位置に戻した。

魔女が後ろを振り向くと、

フェリスの姿は…もう跡形もなく…消えていた。

「ほんと、馬鹿だよ……あんたは。

馬鹿ほどお人好しで、…優しい、
あたしの大好きな死神だったよ。

あーあ、…さみしくなるねぇ」

何もない場所に向かって言ったベルの目には、涙が光っていた。
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