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46話 心は変わるもの

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———コンコン

「誰だ?」

ノックをすると、部屋の中からアークの返事が聞こえた。

「フェリスです」

「ああ、お前か。どうぞ?」

「失礼します」

そう言ってフェリスはアークの執務室に入ると、机で何か書き物をしているアークのそばまで行った。

「兄上、少しお話よろしいでしょうか?」

「なんだ、改まって?」

「……なんだじゃありません!兄上!」

とぼけたような兄の顔に、フェリスは我慢の限界がきて、思わず怒鳴ってしまった。

冷静にならなければと、なんとか自分を抑えて話を続ける。

「エレナのこと、どうお考えなのです?
最近のエレナに対する兄上の態度の冷たさは異常ですよ?

言いたくありませんが、今までのエレナへの対応がそっくりそのまま、いや、それ以上にカトリーナへの態度に代わっていませんか?」

「……そのことか。…そうだな、俺もそろそろ話さないといけないと思ってたんだ。

……ところで、フェリス。お前は昔からやたらエレナにだけ優しいが、エレナを好きなのか?」

「なっ⁈兄上!何を!」

フェリスは狼狽えた。

「いいんだ、本当のことを言ってくれて。
そんな気はずっとしてたんだから…

なぁ、フェリス?…こうしないか?

おれは聖女であるカトリーナを妃に迎える。
代わりにお前がエレナと婚約すればいい」

フェリスはそれを聞いて目の色が変わる。

綺麗な青い目を闇の色に染めて、机越しにアークの胸ぐらを掴むと、

椅子から引き摺り出し、フェリスの目の高さまで立たせると同時に、爪が食い込むほど力を込めた拳で、思い切りアークの頬を殴った。

「…っつ」

「兄上‼︎あなたはどこまで腐ってしまったんですか‼︎」

フェリスはアークの胸ぐらを掴んだまま、ガクガク揺らして叫び、言い終わると床へ乱暴に落とした。

「何とでも言えばいい…人の気持ちなんて変わる。俺はカトリーナと幸せになりたい!あの子が好きなんだ!どうしようもなく!」

切れた口の端から滴り落ちる血を、ぐいっと手で拭いながら、アークは叫んだ。

そしてゆっくり立ち上がると、

「しかしこの気持ちはだけは変わることはない。エレナとの婚約解消は近いうちに申し渡す」

虚ろな目をしたアークはフェリスにそう言い切った。

「…もういい…あなたにはもう何も期待しない!

エレナをこれ以上傷つけるな…
エレナは僕が…僕の手で幸せにする」

フェリスは静かにそう言うと、覚悟を決めてアークの部屋を去った。

1人部屋に残されたアークは、どこか焦点の合わない目をしながら、一筋涙を流していた。
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