上 下
19 / 92

19話 飛獣

しおりを挟む
「さあ、そろそろ魔法研究所へ向かおう」

アークはそう言って、踵を返した…

まさにその時!

「あっ‼︎」

と、何人かの生徒たちが空を指差して青ざめた。

何事かとそちらの方を全員振り向くと、

「あれは…⁈…まさか飛獣⁉︎

しかもかなり大きい‼︎」

「こっちに向かって来てるぞ‼︎ 早く逃げろ‼︎」

「キャー!!」

生徒たちは恐怖の中、悲鳴を上げながら散り散りに逃げ始めた。

この国で飛獣は今まで一度も出たことはない。

資料で学ぶだけで、この国では陸上に現れる魔物の討伐しかしていなかった。

そのため、下の魔道士たちは飛獣の存在に気づいていない。

山二つを覆うほどの巨大なその飛獣が飛ぶ方向は、王都の方角を向いている。

このまま取り逃せば大変なことになると思ったアークは、覚悟を決めた目になる。

「フェリス、…やれるか?」

「はい、大丈夫だと思います」

2人の王子は鋭い目で飛獣を見ながらも、冷静に判断した。

「エレナ!マーガレット!離れるな!俺たちが何とかする!」

アークは、飛獣から目を離さないよう、2人にそう叫ぶと、

「は、はいっ」

と、2人は同時に返事をし、固唾を飲んで見守った。

アークはエレナとマーガレットに聞こえないよう、静かにフェリスに声をかける。

「フェリス…あれ、レベル5だよな?見た事ないから多分だけど…」

「ええ…恐らく、そうでしょうね」

フェリスはここに飛獣がいることに疑問を覚えながらも、冷静に答えた。

「じゃあ、お互い全力だな?

俺が雷で撃ち落とすから、電気を帯びているうちにお前の水か氷で頼む」

「わかりました」

「よし、じゃあ、いくぞ!」

アークは目を閉じて、祈るように上を見上げた。

すると、空が急に真っ暗になり、ビカビカと空で電流がぶつかり始める。

飛獣の真上が真っ暗になった時、

ドオオオオオオン

と地面を割るような音を鳴り響かせながら、
巨大な稲妻の柱が飛獣の上に落ち、

莫大な電流の衝撃を受けて意識を失った飛獣が、真っ逆さまに落ち始めた。

あちこちから生徒の叫び声が聞こえ、

下の魔道士も音に気付いて、呆気にとられながらこちらを見ている。

落ちながらもまだ息はありそうな飛獣を、

フェリスが手の先から噴出させた大きな水の塊の中に閉じ込め、

未だ電流が全身を包む飛獣を感電させながら、ゆっくりと下に降ろす。

降ろした頃には息絶えた飛獣を、フェリスは氷の中に閉じ込めると、魔道士にあとは頼むと言うように、手を振って合図をした。

魔道士たちは王子たちに礼をし、飛獣を受け取ると、研究所へ運ぶ準備をした。

「ふうっ、何とかなったな。かなり魔力は使い果たしたが、とりあえずみんなが無事で何よりだ」

と、アークはほっとした。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~

甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。 その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。 そんな折、気がついた。 「悪役令嬢になればいいじゃない?」 悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。 貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。 よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。 これで万事解決。 ……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの? ※全12話で完結です。

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

処理中です...