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53話 秘密のブローチ
しおりを挟むミラは聖女の巡業中、王都から遠い地ではいったん帰ることができないので、現地で何泊かすることもあった。
その間は、王宮の自室に新しく作ってもらったゲートも使えず、カーティスに会えない日も増えていた。
しかし、そんな時はあのカーティスから貰った真っ赤なブローチを握りしめて、頭の中で話しかけると、カーティスはすぐに出てくれた。
一度、疲れて話しかけなかった日があって、次の日に話しかけた時に、必ず毎日連絡しろと怒られたことがあったので、
今回の旅でも、そのブローチを忘れずに付けて来ていた。
夜、広い個室に1人になったミラは、1日目が終わる前にカーティスに連絡を取ろうと、そのブローチに手をかけようとした時、
コンコン
と、ノックの音がした。
「はい、どなた様でしょうか?」
と、手を止めて返事をすると、
「僕だよ、アレス」
と、もう夜も遅いので、声が響かないように小さな声でアレスが言った。
ミラは部屋のドアを開けると、どうぞ、と中へアレスを招き入れようとした。
しかし、アレスは入ってこない。
よくわからなくて、ミラは小首を傾げた。
「…入ってもいいの?」
「え?はい、どうぞ?」
何か用事なら入ればいいに決まっているだろう。わざわざ来ておいて何を言っているのかと、全く意味が分からず、ぽかんとした表情でミラは答える。
その表情で全てを悟ったアレスは、少し悔しくなった。
「はぁ…ねぇ、僕たちさ、夜、部屋に2人きりになったことないって知ってた?」
「ええと…?はい、そう言われてみればそうでしたね?」
「……夜2人になるってどういうことかわかる?」
「?ご用事でしたら、いつの時間でも仕方ないんじゃ?」
「…あのね?用事がなくても、夜一人で寂しくなると、好きな人に会いたくなるものなの。ミリアはならない?」
…たしかに…カーティス様と夜お話ができないと寂しいですね。
そのことでしょうか?
「アレスはお寂しいということですか?」
カーティスのことは話せないので、ひとまず聞き返したが、
「ミリアは寂しくないの?」
と、結局また聞かれてしまった。
「これがあるから大丈夫です」
と、ミラは思わず胸に付けた真っ赤なブローチを愛しそうに握りしめた。
「…何それ?…そういえば、いつも付けてるよね?自分で買ったもの?……誰かから…貰ったの?」
アレスの目が珍しくミラに対して鋭くなった。
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