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30話 魔女のペット
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アレスは目を丸くした。
自分を選ばなかった女性を初めて見たから。
それに、自分を無表情な目で見る女性も。
それは、ショックなようでいて、反面新鮮で面白くもあった。
今までアレスを見た女性は、皆顔を赤く染めるか、目を潤ませながら憧れの目を向けてくるかだった。それはそれで可愛いらしいけれど、アレスは初めての冷遇に、かなり興味を持った。
「ふふっ、じゃあこっちでもいいかな?」
と言いながら、アレスは馬にヒラリと飛び乗り、
「さぁ、どうぞ」
と、ニコニコしながらミラに手を差し出した。
「はい、よろしくお願いします」
乗馬の練習はしていなかったので、2人乗りもどう乗るのかよくわからなかったが、とりあえず差し出された手を取ればいいのだろうと、ミラは手を出した。
「きゃっ!」
アレスに急に手を引かれ、驚いてしまった。
見た目とは裏腹に、軽々しく、ひょいっと上に持ち上げ、自分が座っている前にミラを横乗りにして座らせた。
「はいっ、じゃあ、僕の腰にしっかり掴まっててね?」
と、手を掴まれたのだが、ミラはそれを振り払った。
「どうしたの?やっぱり僕じゃ嫌だった?」
アレスは少し悲し気に聞く。
ミラは、人間に触れると、その感情が伝わってくる能力が嫌いだった。
色々な感情が渦巻く人間たちのそれが流れ込んでくるのは、本当に疲れる。
だから、エネルギー採集のための仕事で利用しなければならない時にだけ使うようにしていた。
この教会での仕事も、家畜の状態なら今までそれなりに経験して見てきているし、触らなくても見ればわかる。それに合った薬を渡して飲ませるだけで治るのだから、ほとんど触れずにこなせていた。
だから、到着するまで腕を相手の腰に回して密着するなど、以ての外だ。
ミラは俯いていた。
「困ったなぁ。でも、掴んでいてくれないと、馬から落ちちゃうんだよ?
じゃあ、あっちのセラフィにする?」
どっちの男だろうと同じこと。
…お仕事、これはお仕事です!
がんばらないと!カーティス様が守りたいもののために!
ミラはそう思い直して、
「いえ、すみません、大丈夫です。少し驚いたものですから。では、失礼します…」
そう言うと、ミラはアレスの腰に恐る恐る腕を回して掴まった。
しかし、不思議なことに、アレスからは何の感情も伝わってこない。
驚いて顔を見上げると、アレスは優しい笑顔でミラを見ていた。
「じゃあ、しっかり掴まっててね、行くよっ!…はっ!」
と言うと、馬を走らせ始めた。
アレスは、ミラが結局自分にしっかり掴まったので、恥ずかしいと無表情になるのかな?と都合の良いように捉えていた。
「そう言えば、まだミリアに名前を教えてなかったよね?僕はアレス、あっちはセラフィだ。
よろしくね?
途中で休憩しながら行くけど、辛くなったら声を掛けて」
そう言ってチラッとミラを見てニコっと微笑んだ。
「はい、アレスさん、よろしくお願いします」
ミラは相変わらず無表情だ。
こんなことってあるんですね…
最近の人間界のことなんて、全然わからないから、新種が生まれていても別に不思議ではないですけど…
それにしても、カーティス様以外とこんなに密着するのは初めてで、変な感じです…ね
ミラは意外と心地良く感じ、ぴとっと頬をアレスの胸に付けてみる。
温かい。
カーティス相手にドキドキするのとは違い、相手が人間なので大きなペットのような感じだろうか。前から当たる風が少し寒いと思っていたので、その温もりが丁度良かった。
しかしアレスの方は少し困惑していた。
僕のことが嫌いなのかと思ったのに、結局やたらくっついてくるなぁ…
でも無表情だし…やっぱり僕を好きというわけじゃなさそうだよね?
なんなんだろう、この子。
よくわからないけど、…柔らかくて気持ちいいから、まぁいいか。
そしてそれを見ていたセラフィも
なんだ?あの2人。
ちょっと引っ付きすぎてやしないか?
アレスは女を邪険にするような奴でもないが、下心丸出しの女には、いつも怒らせないようにして上手く躱してるから、ああいうのは珍しい…
ふむ…
と首を傾げていた。
自分を選ばなかった女性を初めて見たから。
それに、自分を無表情な目で見る女性も。
それは、ショックなようでいて、反面新鮮で面白くもあった。
今までアレスを見た女性は、皆顔を赤く染めるか、目を潤ませながら憧れの目を向けてくるかだった。それはそれで可愛いらしいけれど、アレスは初めての冷遇に、かなり興味を持った。
「ふふっ、じゃあこっちでもいいかな?」
と言いながら、アレスは馬にヒラリと飛び乗り、
「さぁ、どうぞ」
と、ニコニコしながらミラに手を差し出した。
「はい、よろしくお願いします」
乗馬の練習はしていなかったので、2人乗りもどう乗るのかよくわからなかったが、とりあえず差し出された手を取ればいいのだろうと、ミラは手を出した。
「きゃっ!」
アレスに急に手を引かれ、驚いてしまった。
見た目とは裏腹に、軽々しく、ひょいっと上に持ち上げ、自分が座っている前にミラを横乗りにして座らせた。
「はいっ、じゃあ、僕の腰にしっかり掴まっててね?」
と、手を掴まれたのだが、ミラはそれを振り払った。
「どうしたの?やっぱり僕じゃ嫌だった?」
アレスは少し悲し気に聞く。
ミラは、人間に触れると、その感情が伝わってくる能力が嫌いだった。
色々な感情が渦巻く人間たちのそれが流れ込んでくるのは、本当に疲れる。
だから、エネルギー採集のための仕事で利用しなければならない時にだけ使うようにしていた。
この教会での仕事も、家畜の状態なら今までそれなりに経験して見てきているし、触らなくても見ればわかる。それに合った薬を渡して飲ませるだけで治るのだから、ほとんど触れずにこなせていた。
だから、到着するまで腕を相手の腰に回して密着するなど、以ての外だ。
ミラは俯いていた。
「困ったなぁ。でも、掴んでいてくれないと、馬から落ちちゃうんだよ?
じゃあ、あっちのセラフィにする?」
どっちの男だろうと同じこと。
…お仕事、これはお仕事です!
がんばらないと!カーティス様が守りたいもののために!
ミラはそう思い直して、
「いえ、すみません、大丈夫です。少し驚いたものですから。では、失礼します…」
そう言うと、ミラはアレスの腰に恐る恐る腕を回して掴まった。
しかし、不思議なことに、アレスからは何の感情も伝わってこない。
驚いて顔を見上げると、アレスは優しい笑顔でミラを見ていた。
「じゃあ、しっかり掴まっててね、行くよっ!…はっ!」
と言うと、馬を走らせ始めた。
アレスは、ミラが結局自分にしっかり掴まったので、恥ずかしいと無表情になるのかな?と都合の良いように捉えていた。
「そう言えば、まだミリアに名前を教えてなかったよね?僕はアレス、あっちはセラフィだ。
よろしくね?
途中で休憩しながら行くけど、辛くなったら声を掛けて」
そう言ってチラッとミラを見てニコっと微笑んだ。
「はい、アレスさん、よろしくお願いします」
ミラは相変わらず無表情だ。
こんなことってあるんですね…
最近の人間界のことなんて、全然わからないから、新種が生まれていても別に不思議ではないですけど…
それにしても、カーティス様以外とこんなに密着するのは初めてで、変な感じです…ね
ミラは意外と心地良く感じ、ぴとっと頬をアレスの胸に付けてみる。
温かい。
カーティス相手にドキドキするのとは違い、相手が人間なので大きなペットのような感じだろうか。前から当たる風が少し寒いと思っていたので、その温もりが丁度良かった。
しかしアレスの方は少し困惑していた。
僕のことが嫌いなのかと思ったのに、結局やたらくっついてくるなぁ…
でも無表情だし…やっぱり僕を好きというわけじゃなさそうだよね?
なんなんだろう、この子。
よくわからないけど、…柔らかくて気持ちいいから、まぁいいか。
そしてそれを見ていたセラフィも
なんだ?あの2人。
ちょっと引っ付きすぎてやしないか?
アレスは女を邪険にするような奴でもないが、下心丸出しの女には、いつも怒らせないようにして上手く躱してるから、ああいうのは珍しい…
ふむ…
と首を傾げていた。
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