【完結】魔女のおしごと

5話 私の生き方

「どっ、どこへ行かれるのでしょうか？」

本当に、意味がわからなくて、とにかく焦ってミラは聞いた。

「魔王城だけど？」

当然のように歩みを止めることなくカーティスは答える。

「へ？」

「へ？じゃなくて！もう一回魔女の仕事に復帰できるように、俺様が直々にリハビリしてやるって言ってんの！」

歩き続けながら面倒そうに言うカーティスに、ミラはもうわけがわからなくて、

あまり言葉の意味を深く考えないようにしたら、急に冷静になって、鍵を閉め忘れたことに気づいた。

家にはたくさん貴重な薬を置いてあるので、思い出したらとても気になり始める。

「あっ、あの、私家に鍵をかけてこないと…」

「ああ、あの家な。

荷物は今リカルドに整理させてるから、すぐ運んでくれる。

リカルドは、さっき俺と一緒にいたヤツな。

あいつは俺の右腕だから心配ない。

あいつの魔術を使えばあっという間だ。

あとは、こっちで引き払っといてやるから、心配するな」

そう言いながら、どんどん先へ進んで行く。

その間に、もう後ろを振り返っても家が見えないほど、歩いて来てしまった。


「え？あっ、あの！私、困ります！注文を受けたお薬の仕事もまだ残っていますし！あのっ、本当に、お放しくださいっ！帰らないと！すみませんっ、アッ」

ドンッ

ミラは急に止まったカーティスの背中に、思い切り鼻をぶつけてしまった。　


「いったたたっ。…？カーティス様⁇どうなさったんですか？」


手が離されたので、両手で鼻を抑えながら言うミラに、カーティスは前を向いたまま言った。


「お前……これでいいのか？……このままで本当にいいのか？」


「ど、どういうことでしょうか？」


それを聞いて、カーティスは怒った顔でミラを振り返る。


「お前気づかないのか？気づかないフリでもしてるのか⁈

周りを見ろっ！

……お前を見て、コソコソ陰口を叩いてる奴らのあの蔑んだ目を！

俺の耳は何キロ先までも聞こえる、文字通り地獄耳だからな。あっ、魔界耳か？

まぁいい。

あいつらがお前のこと、何て言ってるか教えてやろうか？」


美しい金色の目が、鋭くなって、ミラを見る。


「やっ、やめてください…聞きたく…ない」


そう言って目をギュッと閉じて、両手で耳を塞いだ。


ミラは知っている。充分すぎるくらい知っている。

陰口を言われる前は、もっと直接言われていたから…

『破滅の魔女』！近寄るな！食糧破壊魔女！お前がいると、こっちはみんな殺されちまう！

出てけ！出てけ！……

いっぱい色々言われた。

でも魔界人の寿命は長いし、いつまでか知らないけど、全然姿は消えないから。どこかでどうにか生きるしかないから。

なんとかひっそり生きることを許してくれたこの場所で留まってきた。

陰口くらいは全然良かった。

聞かなければ聞こえない。

見なければどんな目で見られているのかもわからない。

気づかないフリが私の生きる術なんだから。