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80話 この国では…違う

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「ねぇ、アリア?」

「なぁに?」

仕事終わりにアリアの自室に寄ったルシードは、

ソファに座るアリアの膝に頭を置いて寝そべっていた。

アリアは、そのサラサラした黒髪を、愛しそうに撫でながら聞き返す。


「何かマルシェに教えたの?」

「何を?」

「さあ?それがよくわからないんだけど、

何か、クロード様がアリアに礼を言っといてほしいって言ってたから。

結婚して湯浴みすればわかる、とか?

あとは、アリアの国の文化はすごい、とか?

何?その文化って、どんなの?

何かすごく素晴らしいって、クロード様がぼーっとしながら言ってたから、どんなにすごいのか…すごく…気になって…」


アリアの太腿の柔らかさと温かさに包まれて、

その上頭まで触られて気持ち良くなったルシードは、質問しながらうとうとし始めた。


ふふっ、疲れてるのね?
なんだか、懐いた黒猫みたいで可愛い。


そう思って、アリアはルシードを見つめながら優しく微笑んだ。


それにしても…
なんのことかしら?

結婚して湯浴みすればわかる…?

マルシェが初夜についてどうしたらいいか聞いてきたアレかしら?

私もこの世界の初夜のことまではよくわからないけど、

みんな人間やることは同じでしょって思って、日本人だった記憶で教えたのが、

何かこっちと違うところがあったってこと?


「…えっと、結婚して湯浴みと言えば、

一緒に湯浴みするってことでしょ?

何か、違ってた?」


自分がその日を迎えた時に間違えたくないので、思い当たることを聞いてみた。


ガバッ


「⁈⁈⁈一緒に入る⁈湯に⁈一緒に⁈裸で⁈」


眠りかけていたルシードは、一気に目が覚め、

あまりのことに起き上がって、アリアに向き直って聞いた。


「ええ、そうよ?」


日本だと、結婚すればよくあることだし、結婚前からでもよくあることでしょ?と思っていたが、あまりの反応に自信がなくなり、アリアは聞き返した。


「…違った?」


そういうことか‼︎クロード様‼︎
…やったんですね?
この国では絶対やらない、それを。
マルシェと⁈


一瞬ルシードの目は吊り上がる
しかし、次の瞬間はっとして、何か気づいた目に変わった。


ちょっと待て?
今アリアに、この国ではそんな事しないなんて教えたら、俺たちはどうなる?

何でかはわからないけど、アリアはそれを当たり前だと思ってるんだ。だったら…

……当たり前のままにしておこう…

うん、…絶対それ、当たり前がいい……

まずい…想像したらだめだ。…落ち着け…


「…いや、あってる。全くその通りだ。

クロード様は何をおっしゃってたんだろうな?

また詳しく聞いておくよ。

ごめんごめん、もう忘れて。」


ルシードの目の奥が怪しく光っていることにアリアは気づかなかった。

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