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42話 初めての反抗

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コンコン

「はい、どうぞ」

女子トークに花を咲かせて、

すっかり女性に戻った感覚になっていたアリアは、

そのままマルシェを抱いて、

背中を撫でたまま返事をした。


ガチャ


「失礼するよ、トレ…  

え…?トレイル…殿?マ、マルシェ?」


入ってくるなり、抱き合った男女、

トレイルとマルシェの姿を見てしまったクロードは、

…固まってしまった。


マルシェ?どうなってるの?

なぜ泣いてるの?

トレイル殿のせい?


クロードはそう思うと、

頭に血が上るのを感じながら、

急いで2人の方へ歩みを進めた。


「トレイル殿!マルシェをお離し頂けますか?

年頃のお二人ゆえ、あらぬ誤解を招きますよ?」


いつになく鋭い目でアリアを見ると、

2人をグイっと引き剥がした。


それでようやくアリアは自分が男姿で、

女性に気軽に触れてはいけなかったことに気づく。


「あっ、あの、クロード様、これはその、誤解でして」


アリアは焦ったが、

推しを前にすると言い訳が思いつかない。


「ああ、君に限ってそんな間違いは起こさないと思ってはいるが、

女性と2人きりでこのようなことをするというのは、

その後の責任もお考えの上でのことなのかな?」


クロードの綺麗な青い目に闇の色が広がる。


「あっ、あの…その」


と怒られて言葉に詰まっていると、


「クロード様!違うんです!

私がいけないの、

だからトレイル様を怒らないでください。」 


トレイルをかばうマルシェに、

なぜか余計腹立たしくなってしまったクロードは、


「どういうことだ?」


と、さらに恐い目でアリアを見た。


今話したのはマルシェなのに、どうしてこっちを睨むのよー


と、アリアは射抜かれるような目にゾっとした。


「私がちょっと、困っていたことを相談させてもらって、

それを親身になって助けてくださるとおっしゃって頂けたので、

ほっとしたら泣いてしまったのを慰めてくださっただけなんです!

だから、何もやましいことなんてしてません!」


…マルシェに強く言われたクロードは、

目から覇気が消え、呆然としてしまった。

クロードは、

今まで感情的になるマルシェを見たことがなかったので、

あまりに驚いたのだ。



マルシェがあんなに怒っている…

私に対して…

しかもトレイル殿をかばって…

それに、困っていたことを兄の私やルシードにではなく、

トレイル殿にだけ話せたというのか?

それは…マルシェがトレイル殿を…好きだということか…?



クロードは頭を鈍器で叩きつけられたような衝撃を受けていた。

何でこんなにショックなのかわからなかった。

兄としての嫉妬なのかなんなのか…

モヤモヤしたまま、ぼうっとして、

そのまま部屋を出て行ってしまった。

アリアは、これ以上怒られなくて済みほっとしたが、

何の用事だったんだろうと気になった…


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