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38話 不思議なモヤモヤ

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それから、ついに私の宰相としての仕事は

本格的に始まった。


今日はその最初の1日目。


ガルティア王国からもらった気候変動に強い苗や種に

光魔術師の聖力で活力を与えてもらうと

成長を早められないか確かめる実験をする予定だ。

これがもし成功すれば、この国の食糧問題が、

かなり急ピッチで解消されることになる、

とても重要な実験だった。


だから、今日の実験には、

私や光魔術師だけでなく、

王族である、クロード様、ルシード様、マルシェも参加していた。

まずはひとつだけ、できるかどうか試してみて、

もし成功なら、畑にたくさん植え、

一度にどれくらい成長させられるのかを確かめる。


私は前世の記憶で

植え方などはそれなりにわかるので、

あとで聖力によって大きくなることを見越して、

少し大きめの植木鉢に、

大きい玉の土に、栄養を混ぜた土と、順番に入れたあと、土に穴を開けると

まずひとつ苗を取り出して、

ささっと植え変えた。

それを見たマルシェが、

「アリ…いえ、トレイル様、すごいですわ!

公爵家ご出身の方が、

苗をそんなに簡単に植えられるなんて!」


と、目をキラキラさせてアリアを見た。


「あっ、ああ、これは庭師の仕事が面白そうで、

よく見ていたからね」


前世の時に、

趣味動画でよく見ていたとは説明できないアリアは、適当にごまかした。


「すごいですわ!私もひとつだけやらせて頂いても?」

マルシェは相手がアリアだとわかっているので、

積極的になれた。


「ええ、どうぞ」


「どうやるんですの?」


「ああ、こうやって、土を鉢にいれて、

それから土に穴をあけて…

あっ、手が汚れてしまいますよ?

私がやりましょうか?」


「いえ、手なんて後で洗えば済みますわ。

それより、こうやっていることが、

いつか少しでも国のみんなのためになるならと思うと、

なんでもやりたいんです!」


そう言うと、きれな白い手を土で真っ黒にしながら、マルシェは笑顔で作業をした。

なんだかんだ言っているが、

結局2人は友達同士で遊んでいるような感覚で、

そうやって植えることさえ、楽しい時間だった。


それを見ていたルシードは、

全てわかっているため、微笑ましく2人を眺めていたが、

何も知らないクロードは驚いていた。

今までマルシェはあまり外に出ないで、

暗い表情ばかりしていたし、

誰のことも信用していないので、

ルシード以外誰かと仲良くしているのも見たことがない。

クロードに会っても、

昔からルシードの影に隠れて逃げ惑うばかりで

妹と仲良くしたいと思っても、

どうやって近づいたら良いのかわからず、

今日までずっと、

距離の取り方がわからなかったから…


あんなにトレイル殿に親しげにして…

王宮では女性にさえ

心をあまり開かなかったマルシェが

見知らぬ男性に自ら近寄るとは…


なんだかクロードはその光景を見ているとモヤモヤしたが、

マルシェが楽しそうなら良かったと、

そのおかしなモヤモヤを打ち消した。

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