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31話 久しぶりのプレゼン

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「それでですね」

と、アリアは話を続ける。

クロードは頷くと、黙って次の言葉を待った。


「10年以内に、

光魔術師をガルティアへ帰還させても大丈夫な状態を作るには、

治癒を薬に頼る以外ありません。」


この世界では、聖力か薬に頼っていて、手術ができるような医師はいなかった。


「薬を自国で生み出すには、研究や材料が必要です。

ただ今のこの国の状態では、材料の生産は無理でしょう。

ならば、他国からの薬や材料を買い付けるお金や研究費用が必要です。

それをクロード様も分かっていたからこそ、

あの事件に発展してしまったのだとお察ししますが…」


「あ、ああ、まぁ、そういうことだ。

それで薬物を売り捌くなど、本当に考えが浅はかで面目ない…」


クロードは肩を落とした。


あー、ちがうのちがうのっ

クロード様を責めてるんじゃないのよっ

あー!推しを悲しませてどうするのよ!私!


「いえ、そうなってしまうのは当然!当然です!気を落とさないでください!」


「ははっ、ありがとう」 


クロードは力なく笑った。


「あの、ところでですね。

昨日湯浴みで湯船に浸かった時に良い香りがして、

石けんにも使われていましたが、

あれは何の香りですか?」


「ああ、あれね。いい香りだよね?

あれは、こんな不安定な気候の国でも、

至る所に年中自生する野草でね。

食用にも薬にもならないんだが、良い香りがするから、

この国では当たり前に芳香剤などに利用されているんだよ。

貴族は加工した入浴剤や石鹸、化粧品にもよく使っているし

平民でも、そのまま摘んで部屋に飾ると良い香りがすると言って、

よく視察で町を見て回った時に摘んでいる姿を目にするよ」


「それ!それですよ!それでいきましょう‼︎」


「え?それ?」


「はい!それです!

私は昨日その香りのお湯に浸かって、

湯船から出たくないほどの良い香りでした。」


長湯のせいでとんでもないことになったことを思い出し、少し顔が熱くなる。


クロードは不思議そうな顔をしてアリアを見たが、気にせず、話を続けた。


「しかも、この香りは嗅いだことのない香り!

少なくともガルティアでは誰も知らないでしょう。

国で2番目に物知りな私が言うのですから、

間違いありません。

それに、

かけられたお酒の匂いもすっかり消えて、

体が良い香りになりましたから、

消臭効果もあるかもしれません!

これは、絶対国外に売れます‼︎」


「ええ?そうかなぁ?

この国では有り余っているし、

本当にどうでもいい扱いをされているものなんだよ?」


「この国ではそうでも他国は違います!

あとは、売り方次第ですね…

価値を下げるような売り方をしては単価が下がってしまい、

大人数に売らないと儲けられなくなります。

今は一刻の猶予もありませんから、

お金持ち相手に、高額商品として売れるものを作り、

プレゼン…あっ、えっと、売れるように上手く宣伝もしないといけません」

アリアは社畜な自分が蘇ってきて、

まるで部長にプレゼンしている気分になっていた。

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