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29話 元気になりました!

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「ふあああ、よく寝たー」

と、すっかり体調が戻ったアリアは、

ベッドから上半身を起こして思い切り伸びをする。

もう窓の外は日が落ち始め、夕方に差し掛かりそうな景色だった。

すると、

ハラリ

と、シャツの中に違和感があり、

そのまま体を起こしていると、サラシがスルスルッと下に落ちていく。

あれ?寝てるのにサラシ?

そう思いながら、気持ち悪いのでシャツの中に手を入れて抜き取った。


あっ!そうだ!


クロード様と話していて、私なんだかすごく寒気がしてて、そのあとなんだか熱くなってきたと思ってて…

あれ?もしかして熱で倒れちゃったのかな。

クロード様が抱きしめてくれてた夢って、

もしかしてベッドに抱いて運んでくれてたりして…

もしそうだったら…

きゃー!起きてたかった!

でも起きてたら死んじゃってたかも!

きゃー!

などと思いながら赤面して、顔を手で覆いながら頭をぶんぶん振ると、

長い髪がバサバサと揺れて顔にあたる。

…え?…えっ?えっ?カツラは⁈

と、頭を触って確かめるが、もちろんない。

キョロキョロすると、ベッドの端に置かれている。

まさか…クロード様に…バレた⁈

頭を抱えて青ざめていると、

目の端にソファでこっくりこっくりと、

うたた寝しているルシードが目に入った。


なーんだ、ルシード様だったのね。

よかった!

見つからないようにそばに居てくれたのかしら…?

…見かけによらず、優しい人なのね。


アリアはそう思うと嬉しくなった。

この見知らぬ地で、いくらクロード様のためとはいえ、心細くないわけではなかったので、

心強い味方を得たような気分だった。

鋭い目をしていたり、昨日の夜以外はとてもクールだったので、

そんな風な優しさがあるのはとても意外だったが…


そういえば、あの舞踏会の夜は優しかったかしら。

どっちが本当なのかな。


そう思いながら、アリアはソファでうたた寝するルシードの前に立ち、

微笑みながら、その顔を覗き込んだ。


しかし、ルシードもそれなりの騎士で…

目の前に気配を察知したルシードはすぐに目を覚まし鋭い目をして身構える


だが、目の前には微笑むアリアの顔があって、

一転、表情が慌て始めた。


「あっ、アリア、もう起きて大丈夫なのかい?」


「もちろんっ!ほらっ、全然元気よ! 

もしかして、こんなに早く復活するなんて、

光魔術師に治癒してもらったのかなぁ?」


そう言って、

どうだ!と言わんばかりに胸を張って目の前に立つアリアを見て、

ルシードは目を大きく見開いて、赤面すると、

口を手のひらで覆いながら、顔を背けた。


アリアは、何をしてるんだろう?と思い、

ルシードが見た胸のあたりに視線を落とすと、

サラシのとった胸が、薄手のシャツに思い切り浮き出ていたのを見てしまった!


「きゃっ」


と、アリアは胸を両手で隠してとっさにうずくまる。


それを見たルシードは我に返って、

自分の上着をアリアにそっとかけた。


アリアは、その大きくて、ルシードのぬくもりが残る上着に包まれると、少し落ち着いた。


「元気になったならよかった。クロード様も心配していたから、呼んでくる。

それまでに着替えておくといい」


そう言うと、できるだけアリアを見ないようにして、

ルシードは部屋を後にした。
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