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14話 勘違い

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ルシードの後に続いて歩く私は、

これから使わせてもらう部屋まで案内されている途中だった。

他の派遣者たちも、

それぞれ担う仕事や担当区域が決まるまでは、

しばらく王宮で部屋を借りて過ごすことになる。

私の場合は宰相だから、この王宮にずっと残るため、

仮の部屋ではなく、

国の立て直しがかなうまで、過ごすための、

豪勢な部屋へ案内された。


「トレイル殿、こちらでございます」

ルシードは部屋の前に立ち、扉を開けて、横に立つと、

アリアに中へ入るよう促した。

「あっ、どうもすみません」

言葉は日本人だった時の自分の言葉を使えば、

令嬢らしさが消えて雑になり、ちょうどいいと思ったアリアは、

昔を思い出しながらそう言った。


「では、すぐに侍女を呼びますので、

何か用事がございましたら、そちらにお申し付けください。

よろしければ、お付きの者もご用意させて頂きますが?」


ルシードは部屋のカーテンを開けて、窓を開放し、

空気を入れ替えながらそう言うと、


「あっ、ああ、いらないですっ。

私は1人でなんでもできますからっ。

お気になさらないでください。

それに、少し神経質なところがあるものですから、

お付きの方も必要ありません。

お気遣いありがとうございますっ」

お付きなんかにそばにいられたら、カツラのひとつも外せないじゃない!

それは困る!

頭が蒸れちゃいます!

アリアはそう思って、焦って断ると、

ルシードは、

「…そうですか。わかりました。

では、もし必要になればいつでもお声がけください。

宴の時にまたお迎えに上がりますので、

しばらくおくつろぎになってお待ちください。

それでは、失礼致します」


と言って出て行ってくれたので、アリアはホッとして、

ベッドを見るや否や、飛び込んで身を投げ出した。

あー!男って最高!

これ、もし見られても、男なら大丈夫よね!

と、さらにベッドの上でゴロゴロする。


…いや、男でもそれは良くないのだが、

しかし、アリアは男ならなんでもできると、

勘違いの暴走は始まっていた…


——案内を終えたルシードは、廊下を歩きながら考えていた。


……すごい方がいらしてくれたな。

21歳の私より若いと聞いていたから、

宰相になどとそんな大役を任せて、

大丈夫なのだろうかと不安になっていたが…

あんなに遠慮なさって!

地位や見識を武器にふんぞり返ることもない。

ガルティアの重鎮とは、皆ああなのか?

王子の交渉相手だったあの財力の公爵も、

国を守るためにと、

あの薬物で儲けようとはしなかった…

……まったく、素晴らしい国と人材だな。

この国とは、……あの王とは大違いだ…

あのトレイル宰相様のお力で、

なんとかなることを祈るばかりだな。


アリアはただ男装がバレたくなかっただけだし、

態度に関しては、元一般人の

それも社畜だった感覚が抜けないだけなのだが、

ルシードのポジティブな勘違いは深まるばかりだった…
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