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5話 ダンスのお誘い

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舞踏会はまるで映画の撮影現場でも見ているようだった。


物語で美しいと書かれていた公子は本当に美しく、

主人公のティアは滑らかな銀髪に、

紫の瞳なんて、吸い込まれそうなほどだった。

まぁ、私も一応公爵家のレディとして、

王族の血を少なからず継いでいるおかげで、

王族ゆずりのキレイなブロンドの髪は、

日本人だった私にとっては、珍しいから嬉しかった。

目の色はこの国ではよくある緑色。

エメラルドグリーンかな?私はこの色、好きなんだけどね。



…あっ!いたわ!

絶対あの人がクロード王子よね!

整った顔立ちに、目が離せなくなる青い澄んだ瞳!

身のこなしに気品があって、ずっと見ていたくなる!

金髪が私と同じでおこがましいっ!

一緒で申し訳ありません!

はぁ~、ここに生まれてよかった!

実物を見れるなんて、もうほんとにたまらない!


そんなことを考えながら口に手を当てて1人壁際でモジモジしていると、

「お嬢さん?お一人ですか?」

と見たことのない男性に手を差し出されて驚いた。

「いっ、いえ、あのっ、私兄と来ておりますので…」

クロードに見惚れいて、

自分がまるで物語を遠くから見ているような気持ちだったため、

突然声をかけられ、

現実に生きているんだと思い出させられて戸惑って、

わけのわからない答えをしてしまった。

『婚約者と来ておりますので』と断るならまだしも、

『兄と来ておりますので』では断る理由にはならない

つまり相手がいないのだから、誰と踊ってもいいということになる。

しかし、その男性は優しく微笑んで、

「お兄様は、今はいらっしゃらないようですし、

よかったら僕と一曲だけでも一緒に踊ってくださいませんか?」

と、さらに押してきた。

「えっ、ええ…」

クロード王子を見ていたいんだけど…

と思いながらも、

その男性が、この国にはいない、

黒髪でブラウンの瞳をしていて、

日本人を思い出して、懐かしくなってしまったのと、

王子もまだティアとダンス中だし、

次にバルコニーへ移動するのはわかってるから、まあいいかと思って、

「は、はい…私でよろしければ、…どうぞよろしくお願い致します…」

と、ついつい、そのお誘いを受けてしまった。

その男性はニコっと微笑むと

「ありがとうございます。では、どうぞ」

と、手をさらにこちらへ差し出したので、そこへ私は手を添えて、

ダンス会場まで一緒に歩いていく。

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