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15話 優しい侍女
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翌朝
コンコン、とノックの音がして、
「おはようございます、エリーゼ王女様、支度のお手伝いに参りました」
とフィリップがエリーゼのお付きとして寄越してくれた侍女の優しい声が扉の外から聞こえた。
「どうぞ、入って」
ガチャ
「失礼致します」
「おはよう。お世話かけるわね。よろしくお願いします」
「とんでもございません。私のような者に勿体ないお言葉でございます」
侍女は王女の丁寧な挨拶に恐縮したが、エリーゼはバリスタ国で過ごしていた時から、王女としての威厳はある程度保ちつつも身分を気にせず誰とでも仲良くしてきた名残りで、ここでもそのように振る舞っていた。
「あなたのお名前を伺っても?」
「はい、もちろんです。私はポーラと申します。ここで侍女として召抱えられてそろそろ5年になります」
ポーラもエリーゼの柔らかい人柄を感じ取って、緊張が解けると、にこやかに話し始めた。
「まぁ、お若そうに見えましたのに、もう5年も?今おいくつですの?」
「今は20歳ですから、陛下と同じ歳ですね。私の家はしがない男爵家なので、こういうところで働かせて頂くと貰い手が見つかり易いからと15歳の頃からツテを頼ってこちらでお世話になっているのですが、結局この歳まで相手が見つからず仕舞いなんですよ」
ポーラは困ったような顔をして柔らかく笑った。
「まぁ、そうなの?ポーラさんのように優しそうな方、きっと引く手あまただと思うけど、この国の男性はどこに目を付けていらっしゃるのかしら」
エリーゼは髪を結って貰いながら、腕組みして難しい顔をする。
「ふふふっ、王女様は面白い方なのですね。陛下も王女様のような方と巡り会えてきっとお幸せですわ」
「…?この国の方はみな陛下のことを恐れているとお聞きしましたけど、ポーラさんは平気なのね?」
フィリップの話とは随分違うポーラの様子にエリーゼは不思議そうな顔をして聞いた。
「もちろんです。たしかに悪い噂を信じる者もおりますが、この王宮では全員がそうではありません。ただ、少数派なので陛下はあまりご存知ないかもしれませんが。
でも、あんなにお優しい方は見た事がありません。髪の色くらいで誤解されているのはとても残念です」
エリーゼは鏡越しにそう言ったポーラを見ると、とても悲しそうな顔をして残念がっていたので、その言葉に嘘がないことがよくわかった。
「私も陛下とお話しさせて頂いて、本当の陛下と噂の陛下が違い過ぎることがよくわかりました。
こんなに理不尽なことはないと心配していましたが、おそばに仕えている方の中にも、あなたのように理解されている方がいることを知って安心しましたわ。
本当の陛下の優しさが、この国だけでなく、世界にも広がると良いのですけれどね」
「本当にそう思います。けれど、それが策略と言うなら、私は主君に従うまででございますが」
ポーラはニコリと笑ってそう言った。
フィリップに全幅の信頼を預けているのだろう。そういう者がこの宮殿の中にいると思うと、エリーゼも嬉しくなった。
「ではお支度が整いましたので、朝食の会場へご案内致します」
「ありがとう。この髪型素敵ね。こちらで流行っているのかしら?初めてのスタイルだわ」
美しく結い上げられた髪型を見て、エリーゼはポーラの器用さに感心した。
「いつかこういう日のためにと、各国のヘアスタイルをたくさん特訓しておいたんです。
今日はこのアドロス帝国の高位貴族の間で最近流行りの髪型なんですよ。
陛下がなかなか正妃様を娶られませんでしたから、覚えたアレンジの数が増えていく一方で。腕が鳴りますわ」
ポーラは袖を捲って力こぶを見せながら笑った。
「まぁ、それは毎日楽しみね、ふふっ」
エリーゼは明るく優しいポーラに和まされ、ポーラにはもちろん、お付きの侍女に選んでくれたフィリップにも心から感謝した。
コンコン、とノックの音がして、
「おはようございます、エリーゼ王女様、支度のお手伝いに参りました」
とフィリップがエリーゼのお付きとして寄越してくれた侍女の優しい声が扉の外から聞こえた。
「どうぞ、入って」
ガチャ
「失礼致します」
「おはよう。お世話かけるわね。よろしくお願いします」
「とんでもございません。私のような者に勿体ないお言葉でございます」
侍女は王女の丁寧な挨拶に恐縮したが、エリーゼはバリスタ国で過ごしていた時から、王女としての威厳はある程度保ちつつも身分を気にせず誰とでも仲良くしてきた名残りで、ここでもそのように振る舞っていた。
「あなたのお名前を伺っても?」
「はい、もちろんです。私はポーラと申します。ここで侍女として召抱えられてそろそろ5年になります」
ポーラもエリーゼの柔らかい人柄を感じ取って、緊張が解けると、にこやかに話し始めた。
「まぁ、お若そうに見えましたのに、もう5年も?今おいくつですの?」
「今は20歳ですから、陛下と同じ歳ですね。私の家はしがない男爵家なので、こういうところで働かせて頂くと貰い手が見つかり易いからと15歳の頃からツテを頼ってこちらでお世話になっているのですが、結局この歳まで相手が見つからず仕舞いなんですよ」
ポーラは困ったような顔をして柔らかく笑った。
「まぁ、そうなの?ポーラさんのように優しそうな方、きっと引く手あまただと思うけど、この国の男性はどこに目を付けていらっしゃるのかしら」
エリーゼは髪を結って貰いながら、腕組みして難しい顔をする。
「ふふふっ、王女様は面白い方なのですね。陛下も王女様のような方と巡り会えてきっとお幸せですわ」
「…?この国の方はみな陛下のことを恐れているとお聞きしましたけど、ポーラさんは平気なのね?」
フィリップの話とは随分違うポーラの様子にエリーゼは不思議そうな顔をして聞いた。
「もちろんです。たしかに悪い噂を信じる者もおりますが、この王宮では全員がそうではありません。ただ、少数派なので陛下はあまりご存知ないかもしれませんが。
でも、あんなにお優しい方は見た事がありません。髪の色くらいで誤解されているのはとても残念です」
エリーゼは鏡越しにそう言ったポーラを見ると、とても悲しそうな顔をして残念がっていたので、その言葉に嘘がないことがよくわかった。
「私も陛下とお話しさせて頂いて、本当の陛下と噂の陛下が違い過ぎることがよくわかりました。
こんなに理不尽なことはないと心配していましたが、おそばに仕えている方の中にも、あなたのように理解されている方がいることを知って安心しましたわ。
本当の陛下の優しさが、この国だけでなく、世界にも広がると良いのですけれどね」
「本当にそう思います。けれど、それが策略と言うなら、私は主君に従うまででございますが」
ポーラはニコリと笑ってそう言った。
フィリップに全幅の信頼を預けているのだろう。そういう者がこの宮殿の中にいると思うと、エリーゼも嬉しくなった。
「ではお支度が整いましたので、朝食の会場へご案内致します」
「ありがとう。この髪型素敵ね。こちらで流行っているのかしら?初めてのスタイルだわ」
美しく結い上げられた髪型を見て、エリーゼはポーラの器用さに感心した。
「いつかこういう日のためにと、各国のヘアスタイルをたくさん特訓しておいたんです。
今日はこのアドロス帝国の高位貴族の間で最近流行りの髪型なんですよ。
陛下がなかなか正妃様を娶られませんでしたから、覚えたアレンジの数が増えていく一方で。腕が鳴りますわ」
ポーラは袖を捲って力こぶを見せながら笑った。
「まぁ、それは毎日楽しみね、ふふっ」
エリーゼは明るく優しいポーラに和まされ、ポーラにはもちろん、お付きの侍女に選んでくれたフィリップにも心から感謝した。
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