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「お待ちください。」
王家血統至上主義の男たちの内ひとりが挙手した。
「はい、なんですか?」
「我々はそれに関して、新たなる証拠を提示します。」
「なんと!」
これ以上証拠があったのかと呆然する裁判官の許可を得て、男は懐から録音機を取り出してスイッチを入れた。
……離れられない……
え?
やっぱり俺、お前のことが好きだ。お前が兄上の婚約者でも、本当は兄上のことが好きだとしても、俺はお前を諦められない。
ダメッ!!…聞いて、アズラオ。私はザフィル様…国王陛下の婚約者。あなたはその陛下の弟なの。
クコリ……クコリッ!!!
んむっ!!………っ!!!
もうっ!!本当にやめて!!私にはあの人がいるんだから!!
クコリッ!!!
ついてこないで!!!
「いかがですかな?裁判官。彼女は被告人から愛を迫られたとき、自分が陛下の婚約者であることを理由に断っているのです。しかし被告人はその忠告を無視し、剰え強引に彼女の唇を奪いました。」
おおっ!!それだ、それそれ!
身を切る思いで演じた告白、ここで切り札になるとは。
ナイスだお前ら!
「む、む、む……これは……言い逃れようないですぞ、被告人。」
「異議あり!」
クコリが噛み付く。
「ちょっ…ちょっとアズラオ!あなたからも何か言い訳とかしてよ!お願いだから!」
「言っただろ?俺は自分の気持ちは曲げられない。何か問題が起きてもフォローしないって。」
「っ!!ア、アンタ…!!!」
思わず歪んだ笑みが溢れる。
そこでようやく俺の目論見が見えてきたようで、クコリは愕然としたかと思うと歯を食いしばる。
「ザフィル様の単独ルートだとアンタは破滅するから、助けてあげようとしていたのに…信じらんない!!私のことが好きだのなんだの言っといて、今までの苦労を無下にするなんて最低!!この恩知らず!!」
「俺のため?自分のためじゃねえか。」
「はあっ!!?」
ヒロインとは思えない鬼の形相で睨め付けるアイツに、俺は言ってやる。
「本当に俺とザフィルのことを考えているのなら、やることはひとつ。真実を打ち明けて俺たちを説得することだろう。」
「っ…そ…それは…」
「すべてを知っている身で、俺たち兄弟の仲を取り戻したいと言いながら、そんなことすらしなかった。正体を知られたら、攻略どころではなくなっちまうからな。要するにお前は、ザフィルよりも俺よりも、自分が一番可愛かったんだよ。」
「もうっ、やめてよっ!!!」
クコリの悲鳴が響き渡る。
なんだよ、うっせえな。
皆がビックリしてるだろ。
そう思って法廷中をぐるりと見回してみると、全員俺とクコリが何を話し合っているのか分かっておらず、ポカンと開口していた。
「あの、被告人?あなたはいったい何をお話しで…?」
「ああ、いえ、申し訳ございません。それよりも、証人はまだ何か言いたいことが?」
俺の先導で裁判官がはたとクコリに目を向ける。
だがアイツは黙ったまま、膝から崩れ落ちた。
どうやら完全に心が折れたようだ。
「ふむ…被告人。あなたは国王陛下とクコリさんが交際する前から彼女と知り合い、恋に落ちた。御二方の関係を知ってもなお、変わらず彼女を慕い続けた。その愛は素晴らしいことでしょう。ですがこの国においてその一途さは、脅威と見なされます。」
「……」
悲しげな表情を装い、下を向いて黙る。
「では…これより被告人に、判決を下す。」
裁判官はガベルを鳴らし、大きな声で宣告する。
有 罪
「猶予は15日。被告人は直ちに自身の財産と所有物をまとめ、この国から出ていくように。それでは、閉廷!!」
裁判官の号令を皮切りに、法廷内にいた人々がめいめい退出する。
勝訴を喜び、お互いを讃えあう王家血統至上主義の男たち。
王弟の国外追放の判決という、人生どころか歴史上でも初めてとなるであろう裁判に沸き立つ傍聴人。
そして…
「アズラオ!!」
一仕事終えて疲れ切った俺のもとに、アイツらが駆け寄ってくる。
「本当にこれで良かったのか?お前が望んでいたのは、クコリとの幸せなのだろう?」
ザフィルの縋るような問いに、俺は大きく頷く。
「良いのです。クコリとのこれまでを、自分の素直な気持ちを、あの裁判で全て白状しました。その結果がこの罰ならば、喜んでお受けしましょう。」
「……何処の国に行こうが、お前は私の弟だ。安住の地を見つけて落ち着いたなら、手紙を送りなさい。私はいつまでも待っている。」
「大変恐縮ですが…わたくしは王族はおろか貴族藉すら抹消され、この国の民ではなくなるのです。余所者などに時間と労力を使わず、ご自身の責務にご尽力ください……クランドル国王陛下。」
俺がそう言い切った途端、ザフィルは絶望したかのように愕然と立ち尽くす。
その様はまるで自分が追放を宣告されたかのようで、少し滑稽だった。
「………」
「ん?」
ザフィルの背後から此方を見ていたクコリが、唐突に深く頭を下げる。
「お願いします!帰ってきてください!今までのこと全部謝るし、あなたのことも大切にするよう努力する!だから…」
「ローリ男爵令嬢。わたくしは裁判官から国外追放の刑を言い渡された。判決はどうあっても覆らないのです。」
「……」
「他にご用が無いのでしたら、わたくしはこれで。失礼致します。」
とうとう何も言わなくなったふたりを放置して俺は自室…否、王城にある個人部屋へと移動した。
王家血統至上主義の男たちの内ひとりが挙手した。
「はい、なんですか?」
「我々はそれに関して、新たなる証拠を提示します。」
「なんと!」
これ以上証拠があったのかと呆然する裁判官の許可を得て、男は懐から録音機を取り出してスイッチを入れた。
……離れられない……
え?
やっぱり俺、お前のことが好きだ。お前が兄上の婚約者でも、本当は兄上のことが好きだとしても、俺はお前を諦められない。
ダメッ!!…聞いて、アズラオ。私はザフィル様…国王陛下の婚約者。あなたはその陛下の弟なの。
クコリ……クコリッ!!!
んむっ!!………っ!!!
もうっ!!本当にやめて!!私にはあの人がいるんだから!!
クコリッ!!!
ついてこないで!!!
「いかがですかな?裁判官。彼女は被告人から愛を迫られたとき、自分が陛下の婚約者であることを理由に断っているのです。しかし被告人はその忠告を無視し、剰え強引に彼女の唇を奪いました。」
おおっ!!それだ、それそれ!
身を切る思いで演じた告白、ここで切り札になるとは。
ナイスだお前ら!
「む、む、む……これは……言い逃れようないですぞ、被告人。」
「異議あり!」
クコリが噛み付く。
「ちょっ…ちょっとアズラオ!あなたからも何か言い訳とかしてよ!お願いだから!」
「言っただろ?俺は自分の気持ちは曲げられない。何か問題が起きてもフォローしないって。」
「っ!!ア、アンタ…!!!」
思わず歪んだ笑みが溢れる。
そこでようやく俺の目論見が見えてきたようで、クコリは愕然としたかと思うと歯を食いしばる。
「ザフィル様の単独ルートだとアンタは破滅するから、助けてあげようとしていたのに…信じらんない!!私のことが好きだのなんだの言っといて、今までの苦労を無下にするなんて最低!!この恩知らず!!」
「俺のため?自分のためじゃねえか。」
「はあっ!!?」
ヒロインとは思えない鬼の形相で睨め付けるアイツに、俺は言ってやる。
「本当に俺とザフィルのことを考えているのなら、やることはひとつ。真実を打ち明けて俺たちを説得することだろう。」
「っ…そ…それは…」
「すべてを知っている身で、俺たち兄弟の仲を取り戻したいと言いながら、そんなことすらしなかった。正体を知られたら、攻略どころではなくなっちまうからな。要するにお前は、ザフィルよりも俺よりも、自分が一番可愛かったんだよ。」
「もうっ、やめてよっ!!!」
クコリの悲鳴が響き渡る。
なんだよ、うっせえな。
皆がビックリしてるだろ。
そう思って法廷中をぐるりと見回してみると、全員俺とクコリが何を話し合っているのか分かっておらず、ポカンと開口していた。
「あの、被告人?あなたはいったい何をお話しで…?」
「ああ、いえ、申し訳ございません。それよりも、証人はまだ何か言いたいことが?」
俺の先導で裁判官がはたとクコリに目を向ける。
だがアイツは黙ったまま、膝から崩れ落ちた。
どうやら完全に心が折れたようだ。
「ふむ…被告人。あなたは国王陛下とクコリさんが交際する前から彼女と知り合い、恋に落ちた。御二方の関係を知ってもなお、変わらず彼女を慕い続けた。その愛は素晴らしいことでしょう。ですがこの国においてその一途さは、脅威と見なされます。」
「……」
悲しげな表情を装い、下を向いて黙る。
「では…これより被告人に、判決を下す。」
裁判官はガベルを鳴らし、大きな声で宣告する。
有 罪
「猶予は15日。被告人は直ちに自身の財産と所有物をまとめ、この国から出ていくように。それでは、閉廷!!」
裁判官の号令を皮切りに、法廷内にいた人々がめいめい退出する。
勝訴を喜び、お互いを讃えあう王家血統至上主義の男たち。
王弟の国外追放の判決という、人生どころか歴史上でも初めてとなるであろう裁判に沸き立つ傍聴人。
そして…
「アズラオ!!」
一仕事終えて疲れ切った俺のもとに、アイツらが駆け寄ってくる。
「本当にこれで良かったのか?お前が望んでいたのは、クコリとの幸せなのだろう?」
ザフィルの縋るような問いに、俺は大きく頷く。
「良いのです。クコリとのこれまでを、自分の素直な気持ちを、あの裁判で全て白状しました。その結果がこの罰ならば、喜んでお受けしましょう。」
「……何処の国に行こうが、お前は私の弟だ。安住の地を見つけて落ち着いたなら、手紙を送りなさい。私はいつまでも待っている。」
「大変恐縮ですが…わたくしは王族はおろか貴族藉すら抹消され、この国の民ではなくなるのです。余所者などに時間と労力を使わず、ご自身の責務にご尽力ください……クランドル国王陛下。」
俺がそう言い切った途端、ザフィルは絶望したかのように愕然と立ち尽くす。
その様はまるで自分が追放を宣告されたかのようで、少し滑稽だった。
「………」
「ん?」
ザフィルの背後から此方を見ていたクコリが、唐突に深く頭を下げる。
「お願いします!帰ってきてください!今までのこと全部謝るし、あなたのことも大切にするよう努力する!だから…」
「ローリ男爵令嬢。わたくしは裁判官から国外追放の刑を言い渡された。判決はどうあっても覆らないのです。」
「……」
「他にご用が無いのでしたら、わたくしはこれで。失礼致します。」
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