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「…国王陛下?」
立ち上がったのは、ザフィルだった。
「裁判官、証言の許可を。」
「は、はい。どうぞ。」
ザフィルは証言台に上がる。
「たしかにふたりの間にそういった事情はあったのでしょう。ですがわたくしはアズラオを咎めるつもりはございません。」
奴は発言を続ける。
「元を正せば、わたくしがふたりを引き合わせたことが原因です。それだけではなく家族でありながら、これまでアズラオの胸中に気付けなかった落ち度もわたくしにはあります。裁判官、どうか寛大な処置を。」
「……被告人。国王陛下はこのように仰っています。何か言うことはありますか?」
目前の大罪と王意の板挟みに悩んでいるのであろう裁判官は、助けを求めるかのごとく此方に顔を向ける。
そんな彼に、俺はきっぱりと言ってやった。
「慈悲深きはからい、痛み入ります。ですがわたくしは譲歩するつもりはありません。」
裁判官は皆に聞こえるくらい大きなため息を吐き、眉間のシワを指で摘む。
ザフィルは目を白黒させながら口を挟んできた。
「よく考えなさい。このまま強情を張り続けていれば、お前は国外追放の罰を受ける。住んでいた城からは追い出され、何もかもを失い、私とクコリに二度と会えなくなるんだぞ。」
「はい。すべて重々承知の上です。ですがわたくしは彼女への思いを曲げて迎合するくらいなら、この国を追われる未来を選びます。」
「……」
頑なにクコリへの愛を貫く俺を、ザフィルは信じられないといった風な顔で見つめている。
…まあ、お前ならそういうリアクションをとるだろう。
前世の記憶の無いかつての俺がクコリに夢中になっていたように、いまザフィルはアイツに夢中になっている。
クコリとの恋愛に浸っていた日々はとても甘美で、これまでにないくらい充実していた。
奴もきっとそれと同じ状態なのだろう。
これまでの態度やプレイヤーの前世で得た情報から鑑みて、ザフィルは俺のことを『自分には到底並び立てない未熟者』と認識している。
自分がクコリとの恋愛で経験した複雑な情緒や心の機微を、俺には会得できないものと見なして信じ切っている。
要するにザフィルは、かつて存在した俺のクコリへの恋心を、ただの思春期特有の気の迷い程度にしか思っていなかったのだ。
「分かった。ならばクコリはお前に譲ろう。私は彼女との婚約を破棄する。それでよろしいでしょう?裁判官。」
「…陛下、僭越ながら申し上げさせてもらいます。」
裁判官は依然として懊悩のまま、発言する。
「貴方様もご承知のとおり、王族の婚約は口約束や書類一枚を通せばそれで完了、とはならないのです。婚約を解消すれば良いという訳ではない、国王の婚約者に手を出したという事実が問題なのです。」
「……」
ザフィルは悲哀に顔を寄せて押し黙る。
どうやらこれで、コイツの異議を完封することに成功したようだ。
俺は勝利に近づいた確信に、内心でガッツポーズを決めた。
さてと、それじゃあ最後の相手は…
「その、ま、待ってください。」
コイツだ。
このゲーム世界のヒロインであり、すべての元凶クコリ。
「確かに私はふたりと付き合いがありました。でも私は既に、国王陛下と永遠の愛を誓った身です。王弟殿下に何を言われようが、何と思われようが、絆されたりはしません。」
「…カフェーノさんの証言では、あなたは国王陛下にも王弟殿下にも恋慕しているとの話でしたが?」
「……………」
クコリは黙りこくる。
この世界のシナリオやフラグのことを持ち出すことは流石に出来ないから、何か整合性のとれた言い分を脳内で作り上げて纏めているのだろう。
やがて口を開いた。
「アズラオのこと、最初は単なるクラスメイトとしか見ていませんでした。ですがそれから長い時間をかけて接している内に、だんだんと彼に惹かれてしまって。いけないことだと分かっていたのですけれど…そのうえ彼からアプローチを受けて、もうどうしたらいいのかますますわからなくなって…」
「ふむう…国王陛下のご命により友人として接するうちに…ですか。男女の間に友情はないと一部では言われておりますが…」
俺への心象が悪かった裁判官が悩みだした。
まずいな。
ゲームのシナリオを明かせないから、コイツの嘘を暴く証拠がない。
そもそも恋愛というのは感情が大きく絡んでくる問題で、それゆえに嘘をつきやすい。
クコリがザフィルの付属品にどれだけ愛情を注いでいたかなんて、当人のアイツにしかわからない。
このままだと最悪、俺とクコリ両方の責任というところでカタがついてしまい、国外追放の刑はなくなってしまう。
(どうすればいい?どうすれば…)
もはや打つ手がなく、諦めかけていたそのときだった。
立ち上がったのは、ザフィルだった。
「裁判官、証言の許可を。」
「は、はい。どうぞ。」
ザフィルは証言台に上がる。
「たしかにふたりの間にそういった事情はあったのでしょう。ですがわたくしはアズラオを咎めるつもりはございません。」
奴は発言を続ける。
「元を正せば、わたくしがふたりを引き合わせたことが原因です。それだけではなく家族でありながら、これまでアズラオの胸中に気付けなかった落ち度もわたくしにはあります。裁判官、どうか寛大な処置を。」
「……被告人。国王陛下はこのように仰っています。何か言うことはありますか?」
目前の大罪と王意の板挟みに悩んでいるのであろう裁判官は、助けを求めるかのごとく此方に顔を向ける。
そんな彼に、俺はきっぱりと言ってやった。
「慈悲深きはからい、痛み入ります。ですがわたくしは譲歩するつもりはありません。」
裁判官は皆に聞こえるくらい大きなため息を吐き、眉間のシワを指で摘む。
ザフィルは目を白黒させながら口を挟んできた。
「よく考えなさい。このまま強情を張り続けていれば、お前は国外追放の罰を受ける。住んでいた城からは追い出され、何もかもを失い、私とクコリに二度と会えなくなるんだぞ。」
「はい。すべて重々承知の上です。ですがわたくしは彼女への思いを曲げて迎合するくらいなら、この国を追われる未来を選びます。」
「……」
頑なにクコリへの愛を貫く俺を、ザフィルは信じられないといった風な顔で見つめている。
…まあ、お前ならそういうリアクションをとるだろう。
前世の記憶の無いかつての俺がクコリに夢中になっていたように、いまザフィルはアイツに夢中になっている。
クコリとの恋愛に浸っていた日々はとても甘美で、これまでにないくらい充実していた。
奴もきっとそれと同じ状態なのだろう。
これまでの態度やプレイヤーの前世で得た情報から鑑みて、ザフィルは俺のことを『自分には到底並び立てない未熟者』と認識している。
自分がクコリとの恋愛で経験した複雑な情緒や心の機微を、俺には会得できないものと見なして信じ切っている。
要するにザフィルは、かつて存在した俺のクコリへの恋心を、ただの思春期特有の気の迷い程度にしか思っていなかったのだ。
「分かった。ならばクコリはお前に譲ろう。私は彼女との婚約を破棄する。それでよろしいでしょう?裁判官。」
「…陛下、僭越ながら申し上げさせてもらいます。」
裁判官は依然として懊悩のまま、発言する。
「貴方様もご承知のとおり、王族の婚約は口約束や書類一枚を通せばそれで完了、とはならないのです。婚約を解消すれば良いという訳ではない、国王の婚約者に手を出したという事実が問題なのです。」
「……」
ザフィルは悲哀に顔を寄せて押し黙る。
どうやらこれで、コイツの異議を完封することに成功したようだ。
俺は勝利に近づいた確信に、内心でガッツポーズを決めた。
さてと、それじゃあ最後の相手は…
「その、ま、待ってください。」
コイツだ。
このゲーム世界のヒロインであり、すべての元凶クコリ。
「確かに私はふたりと付き合いがありました。でも私は既に、国王陛下と永遠の愛を誓った身です。王弟殿下に何を言われようが、何と思われようが、絆されたりはしません。」
「…カフェーノさんの証言では、あなたは国王陛下にも王弟殿下にも恋慕しているとの話でしたが?」
「……………」
クコリは黙りこくる。
この世界のシナリオやフラグのことを持ち出すことは流石に出来ないから、何か整合性のとれた言い分を脳内で作り上げて纏めているのだろう。
やがて口を開いた。
「アズラオのこと、最初は単なるクラスメイトとしか見ていませんでした。ですがそれから長い時間をかけて接している内に、だんだんと彼に惹かれてしまって。いけないことだと分かっていたのですけれど…そのうえ彼からアプローチを受けて、もうどうしたらいいのかますますわからなくなって…」
「ふむう…国王陛下のご命により友人として接するうちに…ですか。男女の間に友情はないと一部では言われておりますが…」
俺への心象が悪かった裁判官が悩みだした。
まずいな。
ゲームのシナリオを明かせないから、コイツの嘘を暴く証拠がない。
そもそも恋愛というのは感情が大きく絡んでくる問題で、それゆえに嘘をつきやすい。
クコリがザフィルの付属品にどれだけ愛情を注いでいたかなんて、当人のアイツにしかわからない。
このままだと最悪、俺とクコリ両方の責任というところでカタがついてしまい、国外追放の刑はなくなってしまう。
(どうすればいい?どうすれば…)
もはや打つ手がなく、諦めかけていたそのときだった。
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