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「「「!!!?」」」
硬直する裁判官。
目を剥いて驚くザフィル。
青ざめるクコリ。
ざわつく傍聴席。
「せ、静粛に!!静粛に!!」
ガベルの鳴る音が響く。
「……先程も言いましたが被告人、王族の婚約者に手を出した者は、原則として国外追放の刑に処される。王弟といえど王族の血統を受け継いでいないあなたにも適用されます。それは覚悟の上ですか?」
「はい。」
このような状況にも関わらずキッパリと宣言した俺に、裁判官は言葉に詰まる。
「ま、待ってください!!」
クコリが大声をあげた。
「アズラオとの関係について、私からも証言させてください!」
あれほど黙りこくっていたくせに、今度は証言したいってか。
途方に暮れたのか裁判官は、アイツのそんな提案を受け入れる。
証言台に立ったクコリは、落ち着かない様子のまま口を開く。
「ええと……アズラオとはそう、義理の姉弟として付き合っていたんです!ザフィル様と結婚して王妃になれば、彼とも仲良くしないといけないでしょう?だから彼と同じ学校の同じ教室に通ってる間に、少しでも親睦を深められたらなあって!」
取り繕うように早口で捲し立てるクコリに、王家血統至上主義の男たちが顔を見合わせる。
やがてそのうちのひとりが手を挙げた。
「裁判官。ここで新たな証人を出廷させていただきたいのですが。」
「許可します。」
男たちは法廷の外から、新たな人間を連れてくる。
証言台に立ったのは…
「証人、お名前とご職業を。」
「カフェーノ・マスター。とあるしがないカフェでマスターをしております。」
クコリとの映画デートの後に寄った、あのカフェのマスターだった。
おおう、まったく予想していなかった。
まさかこの男があの話を聞いていて、奴らが証人として呼んでいたとは。
「それでは証人、早速ですが証言をお願いします。」
「…あれは戴冠式から婚約発表までのあいだでしたね。そこのお二人さんが、ウチに来たんです。お客様としてね。」
カフェーノは過去に思いを馳せるような仕草で、勿体ぶりながら証言を続ける。
「わたくしは注文の紅茶を淹れるため、厨房に移動したのですが…その影からコッソリと聞いていたのです。王弟殿下と男爵家のご令嬢、ふたりの会話を。」
お前、俺に何か隠してることは無いか?
え?何の話?
とぼけるなよ。お前、兄上と付き合ってるんだろ?
…どうして。
前にな、鉢合わせたお前の姿を見つけて、ふざけて後をつけたんだよ。そうしたらお前が兄上と親しげに話し合って、抱きついてた。
………ごめんなさい。あなたのお兄さんに頼まれてたの。あなたと仲良くしてやってくれって。
「ふむ。それは先程の被告人と証人の話と、矛盾はありませんな。」
「はい。で・す・が!ここからなのです。」
本当の気持ちを聞かせてほしい。兄上と結ばれることを望んでいて、俺とは義理の弟としての付き合いを望んでるのか?
そ、そんな…あなたのこともザフィル様のことも大好きだし本気よ?
「いかがですかな?裁判官。彼女は王弟殿下を義弟ではなく、ひとりの殿方として認識していたのです。」
「異議あり!」
カフェーノの証言に、クコリが反射のようにそう叫ぶ。
前世の知識から出た発言だろうが、法廷中の全員が何事かと驚いているのが見えないのか?
まあ今のコイツに、それに構ってる余裕は無いのだろうが。
「あ、あれは、冗談です!親しい友達同士だからこそ出来る冗談!」
「…また、こうとも言っていましたね。」
奴は落ち着いた様子で続ける。
そんな言い方ないじゃない……私はただあなたとあの人が仲良くやっていけるように、お手伝いがしたいってだけよ。
そのために俺と兄上とで、二股をかけていたってのか?
……………
「ふむ、なるほど…あなたは被告人に、国王陛下との不貞を詰問されている最中だった。とても冗談で茶化せるような立場ではありませんね。」
「……………」
クコリは何も言わず俯いているが、その目は恨みがましく光っている。
なんだかアイツ、あのときもあんな顔してたなあと、こんな状況でそんな能天気なことを考えてしまう。
「証人、他に目撃したことはありますか?」
「はい。他にもこぉんな、興味深い話が。」
兄上も本気なんだよな?
…多分。私はザフィル様じゃないから分からないけど。一番の心配だったあなたの件がひと段落ついたし、王城で暮らさないかって。
それって結婚の約束か?
「…証人、それは…」
「はい。王弟殿下はふたりが婚約を結ぼうとしていることを、知っていらっしゃいました。」
奴の証言で、クコリはハッと青ざめた顔を上げる。
「それだけではありません。王弟殿下もまた、ご自身のお気持ちをこう話していらっしゃいました。」
俺も本音を話すが……今でもお前にされたことは許せねえ。けどお前のことは愛してる。悔しいけど、俺よりも兄上の方がよっぽどお前のことを幸せにできるし、それは認める。それでも…理屈で感情を抑えきれるほど、大人にはなれねえんだよ…俺は。
お前が兄上と結ばれるつもりでいて、それでも俺と今後とも仲良くするのは自由だ、怒らねえ。でも俺は自分の気持ちは曲げられねえ。何か問題が起きてもフォローはしねえ。以上だ。
う、うん……ごめんね。
「…それは。」
「はい。国王陛下の未来の婚約者である彼女をこれからも慕い続けると宣告し、彼女もまたそれをやむなく承認したのです。」
傍聴席はもはや何も言わない。
全員、理解したのだろう。
これは立場や道理を見失い、感情に走った愚かな男が招いたトラブルなのだと。
この被告人は国外追放の刑に処されるべき罪人なのだと。
この場にいる全員の意見の一致を確信した、そのときだった。
「お待ちいただきたい。」
硬直する裁判官。
目を剥いて驚くザフィル。
青ざめるクコリ。
ざわつく傍聴席。
「せ、静粛に!!静粛に!!」
ガベルの鳴る音が響く。
「……先程も言いましたが被告人、王族の婚約者に手を出した者は、原則として国外追放の刑に処される。王弟といえど王族の血統を受け継いでいないあなたにも適用されます。それは覚悟の上ですか?」
「はい。」
このような状況にも関わらずキッパリと宣言した俺に、裁判官は言葉に詰まる。
「ま、待ってください!!」
クコリが大声をあげた。
「アズラオとの関係について、私からも証言させてください!」
あれほど黙りこくっていたくせに、今度は証言したいってか。
途方に暮れたのか裁判官は、アイツのそんな提案を受け入れる。
証言台に立ったクコリは、落ち着かない様子のまま口を開く。
「ええと……アズラオとはそう、義理の姉弟として付き合っていたんです!ザフィル様と結婚して王妃になれば、彼とも仲良くしないといけないでしょう?だから彼と同じ学校の同じ教室に通ってる間に、少しでも親睦を深められたらなあって!」
取り繕うように早口で捲し立てるクコリに、王家血統至上主義の男たちが顔を見合わせる。
やがてそのうちのひとりが手を挙げた。
「裁判官。ここで新たな証人を出廷させていただきたいのですが。」
「許可します。」
男たちは法廷の外から、新たな人間を連れてくる。
証言台に立ったのは…
「証人、お名前とご職業を。」
「カフェーノ・マスター。とあるしがないカフェでマスターをしております。」
クコリとの映画デートの後に寄った、あのカフェのマスターだった。
おおう、まったく予想していなかった。
まさかこの男があの話を聞いていて、奴らが証人として呼んでいたとは。
「それでは証人、早速ですが証言をお願いします。」
「…あれは戴冠式から婚約発表までのあいだでしたね。そこのお二人さんが、ウチに来たんです。お客様としてね。」
カフェーノは過去に思いを馳せるような仕草で、勿体ぶりながら証言を続ける。
「わたくしは注文の紅茶を淹れるため、厨房に移動したのですが…その影からコッソリと聞いていたのです。王弟殿下と男爵家のご令嬢、ふたりの会話を。」
お前、俺に何か隠してることは無いか?
え?何の話?
とぼけるなよ。お前、兄上と付き合ってるんだろ?
…どうして。
前にな、鉢合わせたお前の姿を見つけて、ふざけて後をつけたんだよ。そうしたらお前が兄上と親しげに話し合って、抱きついてた。
………ごめんなさい。あなたのお兄さんに頼まれてたの。あなたと仲良くしてやってくれって。
「ふむ。それは先程の被告人と証人の話と、矛盾はありませんな。」
「はい。で・す・が!ここからなのです。」
本当の気持ちを聞かせてほしい。兄上と結ばれることを望んでいて、俺とは義理の弟としての付き合いを望んでるのか?
そ、そんな…あなたのこともザフィル様のことも大好きだし本気よ?
「いかがですかな?裁判官。彼女は王弟殿下を義弟ではなく、ひとりの殿方として認識していたのです。」
「異議あり!」
カフェーノの証言に、クコリが反射のようにそう叫ぶ。
前世の知識から出た発言だろうが、法廷中の全員が何事かと驚いているのが見えないのか?
まあ今のコイツに、それに構ってる余裕は無いのだろうが。
「あ、あれは、冗談です!親しい友達同士だからこそ出来る冗談!」
「…また、こうとも言っていましたね。」
奴は落ち着いた様子で続ける。
そんな言い方ないじゃない……私はただあなたとあの人が仲良くやっていけるように、お手伝いがしたいってだけよ。
そのために俺と兄上とで、二股をかけていたってのか?
……………
「ふむ、なるほど…あなたは被告人に、国王陛下との不貞を詰問されている最中だった。とても冗談で茶化せるような立場ではありませんね。」
「……………」
クコリは何も言わず俯いているが、その目は恨みがましく光っている。
なんだかアイツ、あのときもあんな顔してたなあと、こんな状況でそんな能天気なことを考えてしまう。
「証人、他に目撃したことはありますか?」
「はい。他にもこぉんな、興味深い話が。」
兄上も本気なんだよな?
…多分。私はザフィル様じゃないから分からないけど。一番の心配だったあなたの件がひと段落ついたし、王城で暮らさないかって。
それって結婚の約束か?
「…証人、それは…」
「はい。王弟殿下はふたりが婚約を結ぼうとしていることを、知っていらっしゃいました。」
奴の証言で、クコリはハッと青ざめた顔を上げる。
「それだけではありません。王弟殿下もまた、ご自身のお気持ちをこう話していらっしゃいました。」
俺も本音を話すが……今でもお前にされたことは許せねえ。けどお前のことは愛してる。悔しいけど、俺よりも兄上の方がよっぽどお前のことを幸せにできるし、それは認める。それでも…理屈で感情を抑えきれるほど、大人にはなれねえんだよ…俺は。
お前が兄上と結ばれるつもりでいて、それでも俺と今後とも仲良くするのは自由だ、怒らねえ。でも俺は自分の気持ちは曲げられねえ。何か問題が起きてもフォローはしねえ。以上だ。
う、うん……ごめんね。
「…それは。」
「はい。国王陛下の未来の婚約者である彼女をこれからも慕い続けると宣告し、彼女もまたそれをやむなく承認したのです。」
傍聴席はもはや何も言わない。
全員、理解したのだろう。
これは立場や道理を見失い、感情に走った愚かな男が招いたトラブルなのだと。
この被告人は国外追放の刑に処されるべき罪人なのだと。
この場にいる全員の意見の一致を確信した、そのときだった。
「お待ちいただきたい。」
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