王弟転生

3333(トリささみ)

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「…ふむう。」

 裁判所の最奥に座る裁判官は、呆気にとられて俺を凝視する。

「ここまで近い期間に法廷で二度も顔を合わせた人間は…被告人、あなたが初めてですよ。」
「はい。ですがこれで最後になるかと。」
「と、言いますと?」
「裁判を始めましょう。」

 裁判官のひとりごとにそう返してしまい、少し焦って裁判の開始を申し出る。

「では…これより裁判を開始いたします。」

 裁判官はガベルを鳴らす。
 事前告知もなく開かれた裁判で、傍聴席にはクコリとザフィルを含めたほんの少人数しかいない静寂な状態なのだが、これが裁判での様式なのだろうか。

「先ずは被告人…あなたは以前、国王陛下の婚約者であるクコリ・ローリさんとふたりきりで薔薇園にまで出かけた。これは事実ですか?」
「はい。」

 俺が頷くと、裁判官も頷いて話を続ける。

「そこで貴方はクコリさんに思いを告白した…間違いありませんか?」

 傍聴席がざわつく。

「はい。間違いありません。」

 あのときの出来事は思い出すだけでまた吐き気が込み上げてくるが、願ったとおりの結果が見えて肯定する。

「彼女は国王陛下の婚約者です。それを承知のうえで、そのようなことをなさったのですか?」
「はい。」

 キッパリと言い放つ俺に、傍聴席は更なる動揺を見せる。

「ふむ…王族の婚約者に手を出すという行為は、本来ならば違法。国外追放に処される罪です。」

 そうだ。
 戴冠式のあの日に読んだ本で、そのことについては知っている。
 だからこそ、あのクソ忌々しいクコリとの逢瀬を、やらざるを得なかった。

「ただ客観的事実だけでは、当人同士の考えは分かりません。証人として国王陛下とクコリさんの出廷をお願いします。」
「はっ。」

 裁判官に命じられた係官は奴らに声をかけ、先ずはクコリを証言台に立たせた。

「では証人、先ずはお名前とご職業を。」
「……クコリ・ローリ。ローリ男爵家の娘で、今は学生をやってます。」
「ふむ、では…あなたはいつごろから、被告人と関係があったのですか?」
「……………」
「証人!」

 裁判官の喝にも応じず、クコリは沈黙を続ける。
 たしか俺の前世の母国に黙秘権というものがあったように、この世界にもあった筈だ。

「…黙秘するのは自由ですが、このような序盤でされても困ります。」
「裁判官、ここはもうひとりの証人に証言をしてもらうべきかと…」
「ええ。それでは国王陛下、証言台にお越し願います。」

 裁判官はガベルを鳴らして、ザフィルを証言台に出させる。

「ザフィル・ランダ・ロザ・クランドル。このクランドル王国の国王をしております。」

 もはやここにいる誰もが知っていることだが、ザフィルはあえて名前と職業を告げる。

「ふ、ふむ……それでは証人、あなたはクコリさんと被告人の関係をご存じだったのですか?」
「……いいえ。そこまで深い仲だとは、存じ上げませんでした。」

 ザフィルは少し考えた後、そう告げた。

「ふたりがいつどこで、何をきっかけにして知り合ったかなど、ご存じの点はありますか?」
「……ふたりが入学して間もない頃、わたくしが彼女を呼んで頼んだのです。どうか弟と仲良くしてあげてほしいと。」

 そうだ。
 俺とクコリがクラスメイトになったのは偶々だが、クコリが俺に近づいてきたのはザフィルに言われてのことだった。

「ふむ…ふたりが入学した当時というのは、今から一年ほど前。当時のあなたとクコリさんの関係は、どういったものでしたか?」
「弟を通じて知り合う程度の仲でした。毎月彼についての報告を受け、良い傾向が見えたときはお礼として高級な場所へ連れて行ったりなどはありましたが…」
「ふむ、となると……被告人。あなたは婚約の報告を受けるあの日まで、御二方の関係を知らなかったということですか?」
「いいえ。」

 俺は首を横に振った。

「は?ではいったいいつ知ったのですか?」
「戴冠式よりも少し前に、ふたりが密会をしているところを偶然見かけて知りました。」

 俺は正直に告げた。
 元を辿れば、クコリとの恋で成長しかけていた俺が再び荒くれだしたのも、あのふたりの逢瀬を目撃したからだ。

「そのことを知ってから、あなたの中で彼女への気持ちはどのように変わったのですか?」

 裁判官はやや面食らった様子で尋ねる。
 ……とうとう来たか、この質問が。
 何も怯えることはない。
 俺ははっきりと言い放つ。

「何も変わっていません。俺は以前と同じように、クコリのことを愛しています。」
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