王弟転生

3333(トリささみ)

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 裁判当日。

「被告人、前へ。」

 裁判官の指図で、俺は被告人の席に立つ。
 元から粗末な作りであったろううえに年季の入った椅子に座らされる王弟の姿は、王室や貴族に縁遠い民衆の目から見ても異様な光景だろう、ざわざわとした声が響く。

「ああ…おいたわしや。先代王と先々代王と王妃に望まれて生まれた筈のあの御方が。」
「いや…それもどうだか。本人が言うには、俺たちが知ってるのとは事情が違うみたいだぜ?」
「静粛に!!」

 裁判官はガベルを鳴らして場を静める。

「それではこれよりアズラオ・ランダ・ロザ・クランドルの裁判を始めます。被告人、準備はよろしいですか?」
「はい。」

 俺は疾しいことなど何もないと態度で表現すべく、背筋を伸ばして真っ直ぐに見据える。
 裁判官は大きくかぶりを振って、話を切り出した。

「では、先ず……あなたはご自身のことを偽物の王族と自称しましたね?そのことについての真意をお聞かせ願いましょう。」
「お待ちください。」

 裁判官は声のした方角に振り向くと、微かに目を見開く。

「あ、あなたは…国王陛下?」

 傍聴席にいたザフィルがクコリを連れて、俺たちのすぐ近くまで足を運ぶ。

「それについてはわたくしがお話しします。」

 ザフィルはクコリと目を合わせて軽く頷き、懐から『あれら』を取り出す。

「それは…?」
「先代王の日記と告白状です。」

 ふたりは高々と掲げた証拠品ふたつを手渡す。

「………おお!!なんと、これは…」

 裁判官はそれらに目を通すと、眉間を指でつまみ大きく息を吐く。

「アズラオは王家の血を継いでいない身でありながら、今日こんにちまで王弟としての恩恵を不当に搾取し続けた。それは確かです。ですがわたくしは彼の罪を許します。」

 ザフィルが厳しい顔をふっと緩める。

「兄弟の縁が無いならば、アズラオを新たにわたくしの補佐として任命いたします。それでよろしいでしょう。」
「……………」
「被告人、何か言うことは?」

 裁判官から発言の許可を得た俺は、吊り上がりそうになる口角を堪えて告げる。

「ご厚意痛み入ります。ですがその証拠品、果たして本物ですか?」
「は?」
「たしか先々代王がご存命の頃からこの王城に勤めていた人間が複数いますよね?その方々に証拠品の筆跡などを確認していただけませんか?」

 俺の指摘でハッとしたのか、裁判官が鑑識に回す。

「……何を言ってる?……これはお前が……」

 小声でボソボソと喋るザフィルに、俺は聞こえないフリで無視を続ける。
 普段から機敏で発言力の高い国王とは思えない愚図な醜態だ。
 だがまあそれも当然のこと。
 こんな状況でも普段と変わらずにいられる奴の方がどうかしてる。

「裁判官、判明しました!この証拠品はどちらもです!」

「何ですって!?」

 鑑識係の発言に全員が驚く。

(クックック…よしよし。)

 セディオムから借りた『複製』の魔法道具が大いに役に立ったようで、俺は心の奥でほくそ笑む。

「陛下…わたくしを陥れたいのかは存じ上げませんが、厳正なる裁判の場で紛い物の証拠品を提示するなど、あってはなりません。」
「そ、そんな、バカ言わないでよ!!」

 ここで声を荒げたのはクコリ。

「これはあなたが所有してる金庫の中から取り出したものよ!!私とザフィル様で確認したんだから間違いないわ!!」
「国の象徴たる陛下が、他人の金庫を抉じ開け、あまつさえその中身を持ち出した?いくら婚約者といえど、その発言は不敬にあたりますよ。」
「…っ!!」

 完全に言葉を失ったザフィルとクコリ。
 そんな2人に反して、傍聴席は大いにざわついていた。
 よし!これで一番の関門は突破できた。
 この断罪イベントにおいてやらなければならないのは、ザフィルと、出来れば不安要素クコリも黙らせること。
 正史ルートでは偽物の王族を暴かれた俺を救うために、ふたりは補佐の座を与えた。
 それによって民衆の納得を得ることができ騒ぎは収まったが、その瞬間から俺の立ち位置は『ふたりの慈悲によって生かされる存在』に決定づけられた。
 その未来にだけは絶対にいきついてはいけない。
 偽の王族を打ち明けたうえで、なおかつ生殺与奪の権をふたりに握られず、独立した形で国から認められなければ。
 そうでなければ意味がない。
 ………たまたま運良く王族として生まれただけの存在で、運命に振り回された俺を『許す』立場に立とうとするアイツらと共存するなど、あってはならない。

「裁判官、わたくしから証拠品を提示致します。」

 俺は本物の先代王の日記と告白状を差し出す。
 『収納』の魔法道具のおかげで、投獄の際のチェックから免れたブツだ。

「ふむう……どうなのですか?鑑識係。」
「失礼致します……………本物とのことです。」

 鑑識の言葉で、場の空気が完全に俺の掌へと流れてきた。
 つまり
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