14 / 22
14
しおりを挟む
裁判当日。
「被告人、前へ。」
裁判官の指図で、俺は被告人の席に立つ。
元から粗末な作りであったろううえに年季の入った椅子に座らされる王弟の姿は、王室や貴族に縁遠い民衆の目から見ても異様な光景だろう、ざわざわとした声が響く。
「ああ…おいたわしや。先代王と先々代王と王妃に望まれて生まれた筈のあの御方が。」
「いや…それもどうだか。本人が言うには、俺たちが知ってるのとは事情が違うみたいだぜ?」
「静粛に!!」
裁判官はガベルを鳴らして場を静める。
「それではこれよりアズラオ・ランダ・ロザ・クランドルの裁判を始めます。被告人、準備はよろしいですか?」
「はい。」
俺は疾しいことなど何もないと態度で表現すべく、背筋を伸ばして真っ直ぐに見据える。
裁判官は大きくかぶりを振って、話を切り出した。
「では、先ず……あなたはご自身のことを偽物の王族と自称しましたね?そのことについての真意をお聞かせ願いましょう。」
「お待ちください。」
裁判官は声のした方角に振り向くと、微かに目を見開く。
「あ、あなたは…国王陛下?」
傍聴席にいたザフィルがクコリを連れて、俺たちのすぐ近くまで足を運ぶ。
「それについてはわたくしがお話しします。」
ザフィルはクコリと目を合わせて軽く頷き、懐から『あれら』を取り出す。
「それは…?」
「先代王の日記と告白状です。」
ふたりは高々と掲げた証拠品ふたつを手渡す。
「………おお!!なんと、これは…」
裁判官はそれらに目を通すと、眉間を指でつまみ大きく息を吐く。
「アズラオは王家の血を継いでいない身でありながら、今日まで王弟としての恩恵を不当に搾取し続けた。それは確かです。ですがわたくしは彼の罪を許します。」
ザフィルが厳しい顔をふっと緩める。
「兄弟の縁が無いならば、アズラオを新たにわたくしの補佐として任命いたします。それでよろしいでしょう。」
「……………」
「被告人、何か言うことは?」
裁判官から発言の許可を得た俺は、吊り上がりそうになる口角を堪えて告げる。
「ご厚意痛み入ります。ですがその証拠品、果たして本物ですか?」
「は?」
「たしか先々代王がご存命の頃からこの王城に勤めていた人間が複数いますよね?その方々に証拠品の筆跡などを確認していただけませんか?」
俺の指摘でハッとしたのか、裁判官が鑑識に回す。
「……何を言ってる?……これはお前が……」
小声でボソボソと喋るザフィルに、俺は聞こえないフリで無視を続ける。
普段から機敏で発言力の高い国王とは思えない愚図な醜態だ。
だがまあそれも当然のこと。
こんな状況でも普段と変わらずにいられる奴の方がどうかしてる。
「裁判官、判明しました!この証拠品はどちらも偽物です!」
「何ですって!?」
鑑識係の発言に全員が驚く。
(クックック…よしよし。)
セディオムから借りた『複製』の魔法道具が大いに役に立ったようで、俺は心の奥でほくそ笑む。
「陛下…わたくしを陥れたいのかは存じ上げませんが、厳正なる裁判の場で紛い物の証拠品を提示するなど、あってはなりません。」
「そ、そんな、バカ言わないでよ!!」
ここで声を荒げたのはクコリ。
「これはあなたが所有してる金庫の中から取り出したものよ!!私とザフィル様で確認したんだから間違いないわ!!」
「国の象徴たる陛下が、他人の金庫を抉じ開け、剰えその中身を持ち出した?いくら婚約者といえど、その発言は不敬にあたりますよ。」
「…っ!!」
完全に言葉を失ったザフィルとクコリ。
そんな2人に反して、傍聴席は大いにざわついていた。
よし!これで一番の関門は突破できた。
この断罪イベントにおいてやらなければならないのは、ザフィルと、出来れば不安要素も黙らせること。
正史ルートでは偽物の王族を暴かれた俺を救うために、ふたりは補佐の座を与えた。
それによって民衆の納得を得ることができ騒ぎは収まったが、その瞬間から俺の立ち位置は『ふたりの慈悲によって生かされる存在』に決定づけられた。
その未来にだけは絶対にいきついてはいけない。
偽の王族を打ち明けたうえで、なおかつ生殺与奪の権をふたりに握られず、独立した形で国から認められなければ。
そうでなければ意味がない。
………たまたま運良く王族として生まれただけの存在で、運命に振り回された俺を『許す』立場に立とうとするアイツらと共存するなど、あってはならない。
「裁判官、わたくしから証拠品を提示致します。」
俺は本物の先代王の日記と告白状を差し出す。
『収納』の魔法道具のおかげで、投獄の際のチェックから免れたブツだ。
「ふむう……どうなのですか?鑑識係。」
「失礼致します……………本物とのことです。」
鑑識の言葉で、場の空気が完全に俺の掌へと流れてきた。
つまり今こそ攻めるチャンスだ。
「被告人、前へ。」
裁判官の指図で、俺は被告人の席に立つ。
元から粗末な作りであったろううえに年季の入った椅子に座らされる王弟の姿は、王室や貴族に縁遠い民衆の目から見ても異様な光景だろう、ざわざわとした声が響く。
「ああ…おいたわしや。先代王と先々代王と王妃に望まれて生まれた筈のあの御方が。」
「いや…それもどうだか。本人が言うには、俺たちが知ってるのとは事情が違うみたいだぜ?」
「静粛に!!」
裁判官はガベルを鳴らして場を静める。
「それではこれよりアズラオ・ランダ・ロザ・クランドルの裁判を始めます。被告人、準備はよろしいですか?」
「はい。」
俺は疾しいことなど何もないと態度で表現すべく、背筋を伸ばして真っ直ぐに見据える。
裁判官は大きくかぶりを振って、話を切り出した。
「では、先ず……あなたはご自身のことを偽物の王族と自称しましたね?そのことについての真意をお聞かせ願いましょう。」
「お待ちください。」
裁判官は声のした方角に振り向くと、微かに目を見開く。
「あ、あなたは…国王陛下?」
傍聴席にいたザフィルがクコリを連れて、俺たちのすぐ近くまで足を運ぶ。
「それについてはわたくしがお話しします。」
ザフィルはクコリと目を合わせて軽く頷き、懐から『あれら』を取り出す。
「それは…?」
「先代王の日記と告白状です。」
ふたりは高々と掲げた証拠品ふたつを手渡す。
「………おお!!なんと、これは…」
裁判官はそれらに目を通すと、眉間を指でつまみ大きく息を吐く。
「アズラオは王家の血を継いでいない身でありながら、今日まで王弟としての恩恵を不当に搾取し続けた。それは確かです。ですがわたくしは彼の罪を許します。」
ザフィルが厳しい顔をふっと緩める。
「兄弟の縁が無いならば、アズラオを新たにわたくしの補佐として任命いたします。それでよろしいでしょう。」
「……………」
「被告人、何か言うことは?」
裁判官から発言の許可を得た俺は、吊り上がりそうになる口角を堪えて告げる。
「ご厚意痛み入ります。ですがその証拠品、果たして本物ですか?」
「は?」
「たしか先々代王がご存命の頃からこの王城に勤めていた人間が複数いますよね?その方々に証拠品の筆跡などを確認していただけませんか?」
俺の指摘でハッとしたのか、裁判官が鑑識に回す。
「……何を言ってる?……これはお前が……」
小声でボソボソと喋るザフィルに、俺は聞こえないフリで無視を続ける。
普段から機敏で発言力の高い国王とは思えない愚図な醜態だ。
だがまあそれも当然のこと。
こんな状況でも普段と変わらずにいられる奴の方がどうかしてる。
「裁判官、判明しました!この証拠品はどちらも偽物です!」
「何ですって!?」
鑑識係の発言に全員が驚く。
(クックック…よしよし。)
セディオムから借りた『複製』の魔法道具が大いに役に立ったようで、俺は心の奥でほくそ笑む。
「陛下…わたくしを陥れたいのかは存じ上げませんが、厳正なる裁判の場で紛い物の証拠品を提示するなど、あってはなりません。」
「そ、そんな、バカ言わないでよ!!」
ここで声を荒げたのはクコリ。
「これはあなたが所有してる金庫の中から取り出したものよ!!私とザフィル様で確認したんだから間違いないわ!!」
「国の象徴たる陛下が、他人の金庫を抉じ開け、剰えその中身を持ち出した?いくら婚約者といえど、その発言は不敬にあたりますよ。」
「…っ!!」
完全に言葉を失ったザフィルとクコリ。
そんな2人に反して、傍聴席は大いにざわついていた。
よし!これで一番の関門は突破できた。
この断罪イベントにおいてやらなければならないのは、ザフィルと、出来れば不安要素も黙らせること。
正史ルートでは偽物の王族を暴かれた俺を救うために、ふたりは補佐の座を与えた。
それによって民衆の納得を得ることができ騒ぎは収まったが、その瞬間から俺の立ち位置は『ふたりの慈悲によって生かされる存在』に決定づけられた。
その未来にだけは絶対にいきついてはいけない。
偽の王族を打ち明けたうえで、なおかつ生殺与奪の権をふたりに握られず、独立した形で国から認められなければ。
そうでなければ意味がない。
………たまたま運良く王族として生まれただけの存在で、運命に振り回された俺を『許す』立場に立とうとするアイツらと共存するなど、あってはならない。
「裁判官、わたくしから証拠品を提示致します。」
俺は本物の先代王の日記と告白状を差し出す。
『収納』の魔法道具のおかげで、投獄の際のチェックから免れたブツだ。
「ふむう……どうなのですか?鑑識係。」
「失礼致します……………本物とのことです。」
鑑識の言葉で、場の空気が完全に俺の掌へと流れてきた。
つまり今こそ攻めるチャンスだ。
39
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
彼の至宝
まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
華麗に素敵な俺様最高!
モカ
BL
俺は天才だ。
これは驕りでも、自惚れでもなく、紛れも無い事実だ。決してナルシストなどではない!
そんな俺に、成し遂げられないことなど、ないと思っていた。
……けれど、
「好きだよ、史彦」
何で、よりよってあんたがそんなこと言うんだ…!
ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
理香は俺のカノジョじゃねえ
中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる