王弟転生

3333(トリささみ)

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「えっ!そんな、もう!?」

 夢世界。
 取り乱すセディオムに、俺は頭を下げる。

「後からの報告になって悪い。公開するチャンスはあの場しかないと思ったからな。」
「…弁護士とかはアテがあるの?」
「ない。王家の血筋を冒涜した奴の弁護なんか、誰もやりたがらない。だから自分でなんとかする。」
「………できるの?」

 不安な面持ちのセディオムに、俺は毅然と笑って言ってやる。

「誰に言ってんだよ。王家の血統がなくたって、俺は先代国王の息子だぞ。それにアンタが魔法で送ってくれたコイツらもあるからな。」

 俺は複数個ある魔法道具を、ポケットから取り出す。
 現実では体内に隠した筈なのに、さすがは夢世界。

「ああ、うん……そんなのだけで良かったの?」
「それはもう大助かりだよ。俺がここまでやれたのはコイツらのおかげだ。ありがとうな。」

 感謝の言葉を伝えた俺に、セディオムが小首を傾げた。

「そうなんだ……僕にとっては魔法道具なんて、あって当たり前使えて当たり前だから、感謝するとかあんまりそういう感覚ないなあ…」
「道具があるのなら、それを発明した人間も存在する。そういう方々へのリスペクトもこめられてるんだよ。」

 セディオムはハッとした顔で、俺を見る。
 本当にごくごく日常的な道具なんだろう。

「……君の言う通りだね。先人たちの頑張りがあったから、今のスフィールがある。皇帝である僕がそんなことすら忘れるなんて…」
「あんまり自分を責めるなよ。そんなこと一々考えてたら、時間がいくらあっても足りねえ。ただ魔法を知らずに生きてきた俺にとっては有難いってだけだ。」

 スマホで通話する度にアレクサンダー・グラハム・ベルの功績を思い出して、感謝する奴なんかいない。
 きっとそんな感じなんだろう。

「うん、ありがとう……君は凄いね、アズラオ。魔法に頼りきりの僕では考えもつかないような苦労と発想が、きっと君には沢山あるんだろうね。」
「………」

 クランドルが魔法を扱うスフィールをいとうのと似たように、スフィールもまた魔法を扱えないクランドルを見下す傾向にある。
 隣り合ってないとはいえそう遠くないスフィールとクランドルでは、同じ公用語を扱っている。
 しかし向こうには『蛮族の血が流れた者たち』という意味でクランドルの民たちを揶揄する言語が昔から存在する。
 それくらいスフィールの民たちには、クランドルや他の魔法を使えない国々を軽んじる意識が根付いている筈なのだが。

(まあそんな俗物的な男じゃあ、乙女ゲームの攻略対象は務まらないか。)
「?」

 黙りこくる俺に、セディオムが小首を傾げる。

「いや、ちょっとばかし驚いてるだけだ。スフィールの人間はエリートの選民主義者みたいな勝手なイメージがあったからな。皇帝のアンタはもっとそんな感じなのかと。」

 セディオムは少し悲しげな顔をして、かぶりを振った。

「確かにそういう人たちは大勢いるけど、だからこそ皇帝の僕はそうなってはいけないんだよ。スフィールの民たちが差別をしたら叱って止めさせる、僕はそういう立場なんだ。」

 なるほど、と頷いた。

「それにしても裁判だなんて……王弟の君がクランドルを出ていくためにも必要な準備とはいえ、大きな騒ぎになりそうだね。」
「それも大切な要素なんだよ。それに…俺を中心にここまでクランドルが回ってる光景なんて、二度と拝めるモンじゃねえ。今のうちに楽しんでおかねえとな。」
「まったく、もう…」

 セディオムは呆れたように笑うが、ふと小首を傾げる。

「どうした?」
「クランドル王国の王子である君のことは、前々から知っていたよ。でも僕が聞いたのは…なんというか…マイナスの評価ばかりだったから。もちろん覚悟の上で宮廷魔導師に誘ったんだけど、予想していた人物像とだいぶ違うなって。」
「百聞は一見にしかず。人から話を聞いてても実際に会ってみると違うなんて、よくあることだろ。」
「……うーん、それもそうだね。」

 まあセディオムになら全部打ち明けても良かっただろうが、言ったところで信じてもらえないだろう。
 俺は適当にお茶を濁した。

「…そろそろ空が明るくなるね。それじゃあ君も忙しいだろうし、またね。」

 セディオムと別れ、俺は夢の世界から脱出した。
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