13 / 22
13
しおりを挟む
「えっ!そんな、もう!?」
夢世界。
取り乱すセディオムに、俺は頭を下げる。
「後からの報告になって悪い。公開するチャンスはあの場しかないと思ったからな。」
「…弁護士とかはアテがあるの?」
「ない。王家の血筋を冒涜した奴の弁護なんか、誰もやりたがらない。だから自分でなんとかする。」
「………できるの?」
不安な面持ちのセディオムに、俺は毅然と笑って言ってやる。
「誰に言ってんだよ。王家の血統がなくたって、俺は先代国王の息子だぞ。それにアンタが魔法で送ってくれたコイツらもあるからな。」
俺は複数個ある魔法道具を、ポケットから取り出す。
現実では体内に隠した筈なのに、さすがは夢世界。
「ああ、うん……そんなのだけで良かったの?」
「それはもう大助かりだよ。俺がここまでやれたのはコイツらのおかげだ。ありがとうな。」
感謝の言葉を伝えた俺に、セディオムが小首を傾げた。
「そうなんだ……僕にとっては魔法道具なんて、あって当たり前使えて当たり前だから、感謝するとかあんまりそういう感覚ないなあ…」
「道具があるのなら、それを発明した人間も存在する。そういう方々へのリスペクトもこめられてるんだよ。」
セディオムはハッとした顔で、俺を見る。
本当にごくごく日常的な道具なんだろう。
「……君の言う通りだね。先人たちの頑張りがあったから、今のスフィールがある。皇帝である僕がそんなことすら忘れるなんて…」
「あんまり自分を責めるなよ。そんなこと一々考えてたら、時間がいくらあっても足りねえ。ただ魔法を知らずに生きてきた俺にとっては有難いってだけだ。」
スマホで通話する度にアレクサンダー・グラハム・ベルの功績を思い出して、感謝する奴なんかいない。
きっとそんな感じなんだろう。
「うん、ありがとう……君は凄いね、アズラオ。魔法に頼りきりの僕では考えもつかないような苦労と発想が、きっと君には沢山あるんだろうね。」
「………」
クランドルが魔法を扱うスフィールを厭うのと似たように、スフィールもまた魔法を扱えないクランドルを見下す傾向にある。
隣り合ってないとはいえそう遠くないスフィールとクランドルでは、同じ公用語を扱っている。
しかし向こうには『蛮族の血が流れた者たち』という意味でクランドルの民たちを揶揄する言語が昔から存在する。
それくらいスフィールの民たちには、クランドルや他の魔法を使えない国々を軽んじる意識が根付いている筈なのだが。
(まあそんな俗物的な男じゃあ、乙女ゲームの攻略対象は務まらないか。)
「?」
黙りこくる俺に、セディオムが小首を傾げる。
「いや、ちょっとばかし驚いてるだけだ。スフィールの人間はエリートの選民主義者みたいな勝手なイメージがあったからな。皇帝のアンタはもっとそんな感じなのかと。」
セディオムは少し悲しげな顔をして、かぶりを振った。
「確かにそういう人たちは大勢いるけど、だからこそ皇帝の僕はそうなってはいけないんだよ。スフィールの民たちが差別をしたら叱って止めさせる、僕はそういう立場なんだ。」
なるほど、と頷いた。
「それにしても裁判だなんて……王弟の君がクランドルを出ていくためにも必要な準備とはいえ、大きな騒ぎになりそうだね。」
「それも大切な要素なんだよ。それに…俺を中心にここまでクランドルが回ってる光景なんて、二度と拝めるモンじゃねえ。今のうちに楽しんでおかねえとな。」
「まったく、もう…」
セディオムは呆れたように笑うが、ふと小首を傾げる。
「どうした?」
「クランドル王国の王子である君のことは、前々から知っていたよ。でも僕が聞いたのは…なんというか…マイナスの評価ばかりだったから。もちろん覚悟の上で宮廷魔導師に誘ったんだけど、予想していた人物像とだいぶ違うなって。」
「百聞は一見にしかず。人から話を聞いてても実際に会ってみると違うなんて、よくあることだろ。」
「……うーん、それもそうだね。」
まあセディオムになら全部打ち明けても良かっただろうが、言ったところで信じてもらえないだろう。
俺は適当にお茶を濁した。
「…そろそろ空が明るくなるね。それじゃあ君も忙しいだろうし、またね。」
セディオムと別れ、俺は夢の世界から脱出した。
夢世界。
取り乱すセディオムに、俺は頭を下げる。
「後からの報告になって悪い。公開するチャンスはあの場しかないと思ったからな。」
「…弁護士とかはアテがあるの?」
「ない。王家の血筋を冒涜した奴の弁護なんか、誰もやりたがらない。だから自分でなんとかする。」
「………できるの?」
不安な面持ちのセディオムに、俺は毅然と笑って言ってやる。
「誰に言ってんだよ。王家の血統がなくたって、俺は先代国王の息子だぞ。それにアンタが魔法で送ってくれたコイツらもあるからな。」
俺は複数個ある魔法道具を、ポケットから取り出す。
現実では体内に隠した筈なのに、さすがは夢世界。
「ああ、うん……そんなのだけで良かったの?」
「それはもう大助かりだよ。俺がここまでやれたのはコイツらのおかげだ。ありがとうな。」
感謝の言葉を伝えた俺に、セディオムが小首を傾げた。
「そうなんだ……僕にとっては魔法道具なんて、あって当たり前使えて当たり前だから、感謝するとかあんまりそういう感覚ないなあ…」
「道具があるのなら、それを発明した人間も存在する。そういう方々へのリスペクトもこめられてるんだよ。」
セディオムはハッとした顔で、俺を見る。
本当にごくごく日常的な道具なんだろう。
「……君の言う通りだね。先人たちの頑張りがあったから、今のスフィールがある。皇帝である僕がそんなことすら忘れるなんて…」
「あんまり自分を責めるなよ。そんなこと一々考えてたら、時間がいくらあっても足りねえ。ただ魔法を知らずに生きてきた俺にとっては有難いってだけだ。」
スマホで通話する度にアレクサンダー・グラハム・ベルの功績を思い出して、感謝する奴なんかいない。
きっとそんな感じなんだろう。
「うん、ありがとう……君は凄いね、アズラオ。魔法に頼りきりの僕では考えもつかないような苦労と発想が、きっと君には沢山あるんだろうね。」
「………」
クランドルが魔法を扱うスフィールを厭うのと似たように、スフィールもまた魔法を扱えないクランドルを見下す傾向にある。
隣り合ってないとはいえそう遠くないスフィールとクランドルでは、同じ公用語を扱っている。
しかし向こうには『蛮族の血が流れた者たち』という意味でクランドルの民たちを揶揄する言語が昔から存在する。
それくらいスフィールの民たちには、クランドルや他の魔法を使えない国々を軽んじる意識が根付いている筈なのだが。
(まあそんな俗物的な男じゃあ、乙女ゲームの攻略対象は務まらないか。)
「?」
黙りこくる俺に、セディオムが小首を傾げる。
「いや、ちょっとばかし驚いてるだけだ。スフィールの人間はエリートの選民主義者みたいな勝手なイメージがあったからな。皇帝のアンタはもっとそんな感じなのかと。」
セディオムは少し悲しげな顔をして、かぶりを振った。
「確かにそういう人たちは大勢いるけど、だからこそ皇帝の僕はそうなってはいけないんだよ。スフィールの民たちが差別をしたら叱って止めさせる、僕はそういう立場なんだ。」
なるほど、と頷いた。
「それにしても裁判だなんて……王弟の君がクランドルを出ていくためにも必要な準備とはいえ、大きな騒ぎになりそうだね。」
「それも大切な要素なんだよ。それに…俺を中心にここまでクランドルが回ってる光景なんて、二度と拝めるモンじゃねえ。今のうちに楽しんでおかねえとな。」
「まったく、もう…」
セディオムは呆れたように笑うが、ふと小首を傾げる。
「どうした?」
「クランドル王国の王子である君のことは、前々から知っていたよ。でも僕が聞いたのは…なんというか…マイナスの評価ばかりだったから。もちろん覚悟の上で宮廷魔導師に誘ったんだけど、予想していた人物像とだいぶ違うなって。」
「百聞は一見にしかず。人から話を聞いてても実際に会ってみると違うなんて、よくあることだろ。」
「……うーん、それもそうだね。」
まあセディオムになら全部打ち明けても良かっただろうが、言ったところで信じてもらえないだろう。
俺は適当にお茶を濁した。
「…そろそろ空が明るくなるね。それじゃあ君も忙しいだろうし、またね。」
セディオムと別れ、俺は夢の世界から脱出した。
39
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
彼の至宝
まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
華麗に素敵な俺様最高!
モカ
BL
俺は天才だ。
これは驕りでも、自惚れでもなく、紛れも無い事実だ。決してナルシストなどではない!
そんな俺に、成し遂げられないことなど、ないと思っていた。
……けれど、
「好きだよ、史彦」
何で、よりよってあんたがそんなこと言うんだ…!
ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
理香は俺のカノジョじゃねえ
中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる