王弟転生

3333(トリささみ)

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「いったいどういうことだ!!!」

 ザフィルが握った拳をテーブルに叩きつける。

「こ、国王陛下!どうかお怒りをお鎮めください!」

 大臣や宰相、官僚たちは、王族の混乱を大いに恐れて浮き足立つなか、必死でザフィルを宥める。
 平素から厳しい性分だが冷静で人格者だった彼が、これほどまでに感情を露にするところを見るのは皆初めてだ。

「御託はいい。アズラオが偽の王族とはどういうことだ!?あの子はいったい何時何処でそれを知った!?」
「………」

 クコリはおずおずと、ザフィルに話しかける。

「…あの、ザフィル様。アズラオが何か証拠を掴んだんだとしたら、自室に保管してるのでは?」
「っ!!」

 ザフィルはその言葉を聞いて、急いでアズラオの部屋に向かう。

「あ、待ってください!」
「陛下!!」

 クコリと部下たちも彼の後に続いて走る。
 ザフィルはアズラオの部屋を荒らすかの勢いで証拠を探し、やがて金庫に行き着いた。

「ダイヤルがかけられていますね。」
「アズラオを呼んでこい。開けさせろ。」
「無駄です。あの彼がそう簡単に開けるとは思えません。ダイヤルを忘れたなどと言い張って抵抗するでしょう。」

 クコリの提言に、ザフィルは頭を抱える。

「……金庫の解錠か、もしくは破壊に詳しい者を呼べ。」
「は?」
「早く!!!」

 ザフィルの一喝で、彼の背後で立ち尽くしていた部下たちは慌てて部屋を出る。

「ああ……何故だ、アズラオ……何故兄である私に、何も言わなかった。」
「………」

 クコリは尋ねる。

「もしアズラオが言っていた通り、彼が偽の王族だったとしたら、ザフィル様はどうしたいですか?」
「……………」

 ザフィルは俯いて黙りこくる。
 この沈黙のあいだに、いったいどれほどの感情と理性が鬩ぎ合い、いくつもの選択肢が脳裏を過ぎったのだろうか。

「………私は、これからもアズラオと一緒にいたい。あの子が何者で、何処の生まれなのかは分からない。だがこれまで私の弟として、唯一無二の身内として、過ごしたあの子の十七年は本物だ。信じよう。」
「…そうですか。」

 クコリはザフィルの発言の一言一句を染み入らせたかのように深く頷き、微笑む。

「安心しました。ザフィル様ならそう言うと思っていましたから。」

 クコリはザフィルの手を優しく、けれど力強く取る。

「必ずアズラオを取り戻しましょう。」
「ああ、そうだな……あの子はいま苦しんでいる筈だ。助けなくては。」
「苦しい?…そうなのでしょうか。」
「当然だ。こんな真実が明かされれば、公開処刑は免れない。それを覚悟で明かしたのだ。きっとそれすらもマシと思えるほどに、懊悩の日々を送っていたのだろう。」
「…そうですね。」

 そうこうしているうちに業者が到着し、金庫のカギを開ける。
 中からは一冊の本と紙切れが見つかった。

(先代王の日記と告白状!!)

 クコリはハッと口を手で覆う。
 疑惑はあったが、やっぱり持っていたのか。

「これ、は…父上の日記?」

 ザフィルは呆気に取られつつも、警戒なく本に触れる。
 幼い頃から何度か見かけたことはあるが、読んだ経験は無いのだろう。
 パラパラと捲り件のページに目を通すと、彼は愕然とする。

「………そんな………父上………」
「ザフィル様!!こっちもご覧になって!」

 自分が父親だと信じていた先代王の事実に、愕然とするザフィル。
 クコリはそんな彼に紙切れを手渡した。

「これは?………っ!!!」

 先代王が最期まで打ち明けられなかった罪と葛藤と懺悔がこめられたその紙に、ザフィルは息も忘れて固まる。

「……ザフィル様……この手紙って……」

 これまでの全てをひっくり返すような真実を、更にひっくり返す真実。
 ザフィルは打ちのめされたかのように、茫然自失と立ち尽くしている。

「…………そうか………そういうこと…だったのか………」

 やがて我を取り戻し、クコリに向く。

「アズラオを助けよう。真の王である私の補佐として弁護すれば、処刑は免れられる筈だ。」
「はい!」

 自分の知る兄弟丼ルートと同じ展開の予感に、クコリは微笑む。
 良かった。
 アズラオが血迷った真似をしたときは流石にどうなることかと心配したけれど。
 そうよね。
 アズラオは偽の王族で、ザフィルは真の王。
 この事実はどうなろうと変わらない。
 それが運営の決めたシナリオなんだから。
 自分から罪を告白することで情状酌量を貰おうとしてるのか、それとも本当に処刑されることを望んでるのか。
 あなたの考えてることはわからないけど、そうはさせない。
 なんたって此方にはこの国の最高権力者ザフィルがいるんだから。
 どんな証拠や証人が出てこようが、どんなことを言おうが、無駄なんだから。
 それとも裁判で禊を済ませてから、何も気にかけることのない晴れやかな気持ちで、私たちの元に戻ってくるつもりなのかしら。

(それなら良いのだけれど。)
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