王弟転生

3333(トリささみ)

文字の大きさ
上 下
9 / 22

しおりを挟む
 俺は入り組んだ道にあるカフェに、クコリを連れて行く。
 金を渡してでも人払いをするつもりだったが、幸運なことに俺たち以外の客はおらず、カウンターにマスターがひとりいるだけだった。
 若い男女の逢瀬にやに下がるマスターを、二杯の紅茶の注文で奥へと引っ込め、目を据わらせる。

「な、なに?怖いんだけど。」
「お前、俺に何か隠してることは無いか?」
「え?何の話?」
「とぼけるなよ。お前、兄上と付き合ってるんだろ?」

 クコリは大仰な、わざとらしい挙動で驚く。

「…どうして。」
「前にな、鉢合わせたお前の姿を見つけて、ふざけて後をつけたんだよ。そうしたらお前が兄上と親しげに話し合って、抱きついてた。」
「………ごめんなさい。あなたのお兄さんに頼まれてたの。あなたと仲良くしてやってくれって。」

 クコリは申し訳なさそうに頭を下げた。
 よくやれるな、悪いなんて微塵も思ってねえくせに。

「本当の気持ちを聞かせてほしい。兄上と結ばれることを望んでいて、俺とは義理の弟としての付き合いを望んでるのか?」
「そ、そんな…あなたのこともザフィル様のことも大好きだし本気よ?」

 思わず溜め息が漏れる。

「いくら何でもそれは無いだろ……本気で好きなら、他の男に興味なんか湧かない。それともいざってときのためにキープしておきたいのか?」

 クコリは同情を乞うように目を潤ませる。

「そんな言い方ないじゃない……私はただあなたとあの人が仲良くやっていけるように、お手伝いがしたいってだけよ。」
「そのために俺と兄上とで、二股をかけていたってのか?」
「……………」

 クコリは何も言わず俯いているが、その目は恨みがましく光っている。

「自分の本音が分からないってなら、ひとつずつ質問させてもらう。俺と兄上、どっちが好きなんだ?」
「……ザフィル様。」

 搾り出すように呟いたその言葉には、恐らく嘘は無いのだろう。

「兄上とはどれくらい進んだんだ?」
「あなたのことを報告するついでのデートを4回ぐらい。手を繋いだり抱き合ったりで、キスもまだよ。」

 これもまあ、恐らく真実だ。
 兄弟丼ルートでも確かにザフィルとのデートは4回、キスもしていない。

「兄上も本気なんだよな?」
「…多分。私はザフィル様じゃないから分からないけど。一番の心配だったあなたの件がひと段落ついたし、王城で暮らさないかって。」
「それって結婚の約束か?」

 クコリは言い淀む。
 国の要とも呼べる王城に上がり込んでおいて、結婚するつもりはないなんて、流石のコイツも言えないか。

「プロポーズは受けてないけど…って感じか。決断力の高い兄上にしては、なんだか煮え切らない言動だな。」

 まあ俺が恋愛フラグを壊したからだけど。
 心の中でそう付け足して、かぶりを振る。

「俺も本音を話すが……今でもお前にされたことは許せねえ。けどお前のことは愛してる。悔しいけど、俺よりも兄上の方がよっぽどお前のことを幸せにできるし、それは認める。それでも…理屈で感情を抑えきれるほど、大人にはなれねえんだよ…俺は。」
「……………」

 驚愕、感心、喜悦、勝ち誇り、愛情。
 クコリの顔からそんな情動がない混ぜになり、その表情からは思惑が読み取れない。
 しかしコイツからの愛に縋っていたかつての俺が、諸手を挙げて喜べるようなものでは決してないことは、本能に近い部分でさとれた。

「お前が兄上と結ばれるつもりでいて、それでも俺と今後とも仲良くするのは自由だ、怒らねえ。でも俺は自分の気持ちは曲げられねえ。何か問題が起きてもフォローはしねえ。以上だ。」
「う、うん……ごめんね。」

 捨て猫のように縮こまるクコリに、俺は微笑んでみせる。

「気にするなよ。兄上は少々お堅いところはあるが、根は良い人だ。お前が支えてやるまでもねえし、気楽に付き合えばいい。」
「うん…ありがとう。アズラオ。」

 カフェを出ると、空には夕焼けが広がっていた。
 もうすぐ日が落ちて暗くなるだろう。

「早く帰らねえとな。家まで送ってくか?」
「ううん。大丈夫。ありがとう。」

 クコリは先程までとは打って変わって、朗らかな表情で俺に笑いかける。

「今日は本当にありがとうね、アズラオ!それじゃあ、さようなら!また遊ぼうね!」
「おう、じゃあな。」

 俺も笑顔でアイツと別れ、手を振って見送る。
 アイツの背中はだんだんと遠のいていき、やがて完全に見えなくなった。

「……………」

 俺はズカズカと早足で歩き、人気のない禁漁区域に着く。
 そして大きく息を吸い、腹筋に全力を込め…

「ざっけんじゃねえええええぇぇぇぇぇーーーーー!!!!!」

 海に向かって叫んだ。

「俺がテメエを愛してるだぁ!!?んなわけねえだろこのクソアマ!!!!色情ブタ!!!!××××が!!!!」

 一度吹き出てしまった感情を止めることは出来ない。
 俺はそれからもたくさんの罵倒と叫びを母なる海にぶちまけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

ギャルゲー主人公に狙われてます

白兪
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。 自分の役割は主人公の親友ポジ ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結】一緒にいてくれますか?

かのん
BL
 学生の頃は、金はなくても時間があったから友達と集まっては騒いでいた。  それが社会人になると、いつの間にか生活の中心は仕事になっていって、趣味らしい趣味もなくなっていった。  自分は何を楽しみに生きているのだろう。  そんな時、久しぶりに姉の息子が会いに来たと思ったら、家に居座り始めて、、、  不器用な主人公と、主人公を幸せにしたい甥とのラブロマンス。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

処理中です...