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「アズラオ!」
王都に隣接する都市フェビューのある場所で待ち合わせる俺に、クコリが手を振りながら駆け寄ってくる。
「遅くなってごめんね。待った?」
「いいや、今来たところだ。」
余計な会話を挟みたくないので流そうとしたが、クコリがポカンと俺の顔を見つめる。
「何だよ。」
「いや…前だったら一分遅刻しただけでも『遅い』って怒り散らかしてたじゃない。」
「そうだな。でももうそのくらいのことで腹を立てたりしねえよ。なんたって俺はもう、王弟なんだからな。」
クコリは大袈裟に驚くと、ヨヨヨと泣き真似をしだす。
「まさかアズラオの口からそんな言葉が出るなんて……私、感動したよ。」
「バカなこと言ってねえで、ホラ。」
俺が手を差し伸べると、クコリは戸惑い、恥ずかしそうに手を取った。
その白々しい演技に、俺は内心で唾棄する。
だが我慢だ。
やがてくる『あの断罪』のときまで、一切勘付かれずに、この女と以前と同様に接して好感度を維持しなければならない。
(残念だったな。ザフィルの手じゃなくて。)
さて、なぜ俺がこのフェビューでクコリと落ち合ったのかというと、端的に言えばデートだ。
この兄弟丼ルートではクライマックスの戴冠式イベントから先は、バッドエンドを除いたトゥルーエンドまでの一本道しかなく、デートイベントはすべて消化済み。
しかし本ルートは俺とザフィルふたりの攻略というだけあって、その数は少ない。
俺単体での攻略ルートでは、此処フェビューにまで足を伸ばしていた。
(この場所を指定すれば、デートに誘っても怪しまれない。完全にシナリオから外れた行動ではないからな。)
俺は自分単体のルートを思い出しながら、行き先を思案する。
あのルートでの俺は女性どころか男友達と遊びに行ったことすらない身だったから、クコリにほぼ全部任せていた。
しかし今の自分は兄弟丼ルートである程度のデートをこなし、知恵をつけた身だ。
単独ルート通りのふるまいは不自然に思われるだろう。
ゲーム世界の常識と現実世界の常識のダブルスタンダード。
これへの対応力もまた、この『攻略』に求められる要素だ。
「そうだな…クコリは何処に行きたい?」
試しに要望を聞いてみると…
「何処でも良いよ。あなたの好きなところに連れて行って。」
ウインクとともにそれだけ言われた。
ウッッッッッッッザ!!!
明らかに何処でも良くない『何処でも良い』宣言をされ、内心で辟易する。
仕方ない。
「それじゃあ、映画館に行かないか?」
あのルートで始めて俺から提示したデート先を志願してみた。
「へえ。アズラオって映画館に興味あったんだ。」
「ああ。前々から行ってみたいと思ってたんだよ。」
俺はあのときと同じ、格闘映画のポスターを見る。
「ねえ、ちょっといい?」
するとクコリが話しかけてきた。
「どうした?」
「せっかく女の子と来てるんだから、こういう激しいのじゃなくて、ラブロマンスにしない?」
おう、ビックリだ。
まさかコイツがルートの横槍を入れてくるとは。
ちょっとしたスパイスのつもりか?
まあいい、やりたいってんならやらせてやる。
「そうだな。ラブロマンスにするか。」
俺はラブロマンスのポスターをザッと見た。
ストーリーは周囲から見下されていた出来損ないの男が、あるひとりの少女と出会い、愛を知り成長していくというものだ。
(……………)
俺はチケットを2枚購入し、シアターに入って席に着いた。
『おお愛してるよ…モナ・ムール。』
『私もよ…ジュ・テーム。』
何だこりゃ。
これならアクション映画の方が遥かにマシだっただろう。
そう思ってクコリに目を向けたが、アイツはスクリーンに釘付けだ。
乙女ゲームなんてするくらいだから、こういうのが大好きなんだろうな。
まあ前世の俺が見たとしても、感想は『何だこりゃ』しか出ないだろうが。
(……………)
俺は振り返る。
物心つく前に母が他界し、信じていたクコリに裏切られ、学校にも王城にも親しい女性はいない。
今の俺にとっての女性の隣人と言ったら、前世の彼女しかいない。
兄を蹴落とすこととクコリへの愛で盲目になっていた俺に、この世界の真理を教えてくれた彼女。
逃れられない運命の輪から逃れさせたり、セディオムに惹かれたりと、今も俺を翻弄する彼女。
(前世での自分に思いを馳せるのは、ナルシズムのうちに入るのか?)
そんなたわい無いことを考えている内に、上映が終わった。
「はぁ~~~すっごい良かったぁっ…♡」
熱い溜め息を吐くクコリに、俺は呆れる。
「楽しめたか?」
「うん!逆境に立たされて挫ける主人公を、ヒロインがキスで救うシーンが特に一番良かった!あのシーンはね…」
クコリは聞いてもいない感想を長々と喋り始める。
何を話せばいいのか悩んでいたが、ちょうど良い。
このまま喋らせておけば満足するだろう。
「っていうかアズラオはどうなの?あの映画を見て何とも思わなかったの?」
「ん?うーん……俺は男だし、お前以外の女子とは遊んだ経験すら無いからな。なんだか絵空事というか、自分と無関係な世界の話みたいな視点で見てしまうと、どうしてもな。」
「……ふぅん、そうなの。」
クコリは吟味するかのように、俺を見つめる。
恐らくさっきのラブロマンスに興味を示さないことから、俺に乙女ゲームプレイヤーとしての記憶が無いものと推察したのだろう………浅慮にも。
「それよりちょっと、ふたりきりになれるところに行かねえか?」
熱も冷めてきたであろうところで、俺は切り出す。
クコリはナニを想像したのか、顔を赤らめて取り乱した。
「え?な、何?ヘンなことは駄目よ。私たちまだ学生なんだから。」
「違えよ。周囲に誰もいないところで話がしたい。」
「?…まあいいけど。」
よしよし、警戒はされてないみたいだな。
俺は席から立ち上がり、下調べしたある場所へと踵を向けた。
王都に隣接する都市フェビューのある場所で待ち合わせる俺に、クコリが手を振りながら駆け寄ってくる。
「遅くなってごめんね。待った?」
「いいや、今来たところだ。」
余計な会話を挟みたくないので流そうとしたが、クコリがポカンと俺の顔を見つめる。
「何だよ。」
「いや…前だったら一分遅刻しただけでも『遅い』って怒り散らかしてたじゃない。」
「そうだな。でももうそのくらいのことで腹を立てたりしねえよ。なんたって俺はもう、王弟なんだからな。」
クコリは大袈裟に驚くと、ヨヨヨと泣き真似をしだす。
「まさかアズラオの口からそんな言葉が出るなんて……私、感動したよ。」
「バカなこと言ってねえで、ホラ。」
俺が手を差し伸べると、クコリは戸惑い、恥ずかしそうに手を取った。
その白々しい演技に、俺は内心で唾棄する。
だが我慢だ。
やがてくる『あの断罪』のときまで、一切勘付かれずに、この女と以前と同様に接して好感度を維持しなければならない。
(残念だったな。ザフィルの手じゃなくて。)
さて、なぜ俺がこのフェビューでクコリと落ち合ったのかというと、端的に言えばデートだ。
この兄弟丼ルートではクライマックスの戴冠式イベントから先は、バッドエンドを除いたトゥルーエンドまでの一本道しかなく、デートイベントはすべて消化済み。
しかし本ルートは俺とザフィルふたりの攻略というだけあって、その数は少ない。
俺単体での攻略ルートでは、此処フェビューにまで足を伸ばしていた。
(この場所を指定すれば、デートに誘っても怪しまれない。完全にシナリオから外れた行動ではないからな。)
俺は自分単体のルートを思い出しながら、行き先を思案する。
あのルートでの俺は女性どころか男友達と遊びに行ったことすらない身だったから、クコリにほぼ全部任せていた。
しかし今の自分は兄弟丼ルートである程度のデートをこなし、知恵をつけた身だ。
単独ルート通りのふるまいは不自然に思われるだろう。
ゲーム世界の常識と現実世界の常識のダブルスタンダード。
これへの対応力もまた、この『攻略』に求められる要素だ。
「そうだな…クコリは何処に行きたい?」
試しに要望を聞いてみると…
「何処でも良いよ。あなたの好きなところに連れて行って。」
ウインクとともにそれだけ言われた。
ウッッッッッッッザ!!!
明らかに何処でも良くない『何処でも良い』宣言をされ、内心で辟易する。
仕方ない。
「それじゃあ、映画館に行かないか?」
あのルートで始めて俺から提示したデート先を志願してみた。
「へえ。アズラオって映画館に興味あったんだ。」
「ああ。前々から行ってみたいと思ってたんだよ。」
俺はあのときと同じ、格闘映画のポスターを見る。
「ねえ、ちょっといい?」
するとクコリが話しかけてきた。
「どうした?」
「せっかく女の子と来てるんだから、こういう激しいのじゃなくて、ラブロマンスにしない?」
おう、ビックリだ。
まさかコイツがルートの横槍を入れてくるとは。
ちょっとしたスパイスのつもりか?
まあいい、やりたいってんならやらせてやる。
「そうだな。ラブロマンスにするか。」
俺はラブロマンスのポスターをザッと見た。
ストーリーは周囲から見下されていた出来損ないの男が、あるひとりの少女と出会い、愛を知り成長していくというものだ。
(……………)
俺はチケットを2枚購入し、シアターに入って席に着いた。
『おお愛してるよ…モナ・ムール。』
『私もよ…ジュ・テーム。』
何だこりゃ。
これならアクション映画の方が遥かにマシだっただろう。
そう思ってクコリに目を向けたが、アイツはスクリーンに釘付けだ。
乙女ゲームなんてするくらいだから、こういうのが大好きなんだろうな。
まあ前世の俺が見たとしても、感想は『何だこりゃ』しか出ないだろうが。
(……………)
俺は振り返る。
物心つく前に母が他界し、信じていたクコリに裏切られ、学校にも王城にも親しい女性はいない。
今の俺にとっての女性の隣人と言ったら、前世の彼女しかいない。
兄を蹴落とすこととクコリへの愛で盲目になっていた俺に、この世界の真理を教えてくれた彼女。
逃れられない運命の輪から逃れさせたり、セディオムに惹かれたりと、今も俺を翻弄する彼女。
(前世での自分に思いを馳せるのは、ナルシズムのうちに入るのか?)
そんなたわい無いことを考えている内に、上映が終わった。
「はぁ~~~すっごい良かったぁっ…♡」
熱い溜め息を吐くクコリに、俺は呆れる。
「楽しめたか?」
「うん!逆境に立たされて挫ける主人公を、ヒロインがキスで救うシーンが特に一番良かった!あのシーンはね…」
クコリは聞いてもいない感想を長々と喋り始める。
何を話せばいいのか悩んでいたが、ちょうど良い。
このまま喋らせておけば満足するだろう。
「っていうかアズラオはどうなの?あの映画を見て何とも思わなかったの?」
「ん?うーん……俺は男だし、お前以外の女子とは遊んだ経験すら無いからな。なんだか絵空事というか、自分と無関係な世界の話みたいな視点で見てしまうと、どうしてもな。」
「……ふぅん、そうなの。」
クコリは吟味するかのように、俺を見つめる。
恐らくさっきのラブロマンスに興味を示さないことから、俺に乙女ゲームプレイヤーとしての記憶が無いものと推察したのだろう………浅慮にも。
「それよりちょっと、ふたりきりになれるところに行かねえか?」
熱も冷めてきたであろうところで、俺は切り出す。
クコリはナニを想像したのか、顔を赤らめて取り乱した。
「え?な、何?ヘンなことは駄目よ。私たちまだ学生なんだから。」
「違えよ。周囲に誰もいないところで話がしたい。」
「?…まあいいけど。」
よしよし、警戒はされてないみたいだな。
俺は席から立ち上がり、下調べしたある場所へと踵を向けた。
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