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拷問2日目 〜夜時間〜
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夜が更けた頃。
リーモンは魔王城にある酒場で情報収集をしていた。
(魔王城の連中はどいつもこいつも魔力の高い奴ばかりだ。
シラフのときにうっかりマズイ質問をして、喧嘩売られたりでもしたらたまったモンじゃねえからな。)
リーモンはひとりで飲んでいる魔物に、優先的に声をかける。
「ああ~…?ヒック。
此処は魔王様の家。このドデカい城と、塀に囲まれた領域全部が、あの御方のテリトリーさ。」
酔いどれの魔物は、半ば呂律が回らなくなった舌で語る。
「此処に呼ばれたってことは、アンタは陛下に認められた実力者ってことなんだろ?」
「おおっ!!わかってんじゃねえか!!
俺は幹部の部下にスカウトされてな!
酒場くらいだが、この城に入れる権利を貰えたんだよ!」
リーモンはその話にピクリと反応する。
「幹部?ああ。今大変なんだってな。
この城の地下牢に幽閉されている、伝説の勇者の息子にひとりやられたんだろ?」
「ああー……それもあるけど。」
酔いどれはガシガシと頭を掻く。
「実はついこないだも、幹部のひとりがやられちまってな。
生き残りの幹部たちも魔王様も、もうピリピリしてて話しかけづれえのなんのって。」
「やられた?誰に?
人間でアイツより強い奴がいるのか?」
酔いどれは苦虫を噛み潰したような顔で、声量を落とす。
「実はさ…あの地下牢の男、兄貴がいるみたいでな。
ソイツがやったみたいなんだよ。
倒された幹部の部下の話では、エライ剣幕で詰め寄ってたみたいだぜ。
『弟はどこだ』って。」
リーモンは片眉を跳ね上げる。
(ルタに兄貴がいる?
そんな話、アイツから一度たりとも聞いたことねえぞ…って当たり前か。
アイツが何も話さねえから、俺が今拷問してるんだし。)
リーモンは話の続きを促す。
「俺の直属の上司から聞いた話だよ。
あの地下牢の男が倒した奴は、幹部たちの中でも最弱だったんだけど…
ソイツが倒したのは最強の奴なんだとよ。」
「………は?」
リーモンは頭が真っ白になる。
正気に戻った瞬間、自分が知らない間に生じていた魔界の危機に、総毛立つほどの悍ましさを覚えた。
「いや、まあ、コッチには強い奴がたくさんいるし、何より魔王様がいる。
そんなに気にすることでもねえだろ。
そもそも俺らごときがどうこうして、何とかなる問題でもねえしな。」
「…お、おう。」
「…俺帰るわ。飲みすぎちまったみてえだ。
じゃあな。」
リーモンは気を取り直して、別の魔物に話しかける。
「ムウ…オレサマ 幹部ニ”ていむ”サレル!
イッツモ ヤツラニ コキツカワレル!」
「お、おう…大変なんだな。」
「オマエ ワカッテクレルカ!」
先程の魔物と比べて頭は弱そうだが、魔王や幹部との付き合いは長そうな魔獣だ。
リーモンは何を質問するか迷いながら、口を開く。
「…地下牢に閉じ込められてるあの伝説の勇者の息子。
アイツ、どれくらい前からいるんだ?」
保管庫の記録を読んだときは、恐ろしい拷問の内容にばかり目がいってたせいで、日にちは確かめてなかった。
リーモンは改めて尋ねる。
「ム、ム、ム……数カ月ホド前ダ。
幹部ガ誰モ 城ニイナイ間二 ヤッテキタ。
魔王様 返リ討チニシテ 捕マエタ。
ソレカラ 色々ナ方法デ 拷問シタラシイガ
ソノヘン ヨクシラナイ キョウミナイ。」
「そうか。」
ここでリーモンはふと、ある疑問が沸いたので尋ねる。
「あの伝説の勇者の息子……もし拷問に負けて奴らの居場所を白状したら、陛下はアイツをどうするおつもりなのか知らないか?」
魔獣の顔色がパッと明るくなった。
「魔王様 イッテタ!
アイツ ウタゲノ ゴチソウ!
伝説ノ勇者ト ソノ一族ドモ 倒セタラ
ミンナデ アイツノニク ワケアウ!」
やはりか。
案の定な返答に、リーモンはひとりかぶりを振る。
「そのことを伝説の勇者の息子は知ってるのか?」
「ム?ワカラナイ
イウ必要ナイ イワナクテモ ワカル」
「……」
リーモンは考えた。
ルタがあそこまで意固地に情報を吐かないのは、魔族を憎む気持ちも勿論あるのだろうが、拷問をされてでも自分の死期を伸ばしたいという気持ちもあるのではないだろうか。
もしそうならば、いくら拷問を施してもルタが白状する可能性は薄い。
何とかしなければ。
「オイ!何をやっている!」
ふと背後から怒鳴り声が聞こえて振り向く。
どうやらこの魔獣のテイマーである幹部が迎えに来たようだ。
「バッ…バカ!!お前、誰と飲んでるんだ!
さっさと帰るぞ!!」
幹部はリーモンの顔を見た瞬間、青ざめる。
どうやら彼の活躍は、幹部の耳にも届いてるようだ。
「アオオーン……チクショウ……
マタナ!男ヨ!」
今日はもう遅い。
また明日、朝の拷問を終えた後にでも解決方を考えよう。
そういえば自分はまだ『あのリクエスト』を陛下に言ってない。
リーモンは酒場を去り、自室で床に就いた。
リーモンは魔王城にある酒場で情報収集をしていた。
(魔王城の連中はどいつもこいつも魔力の高い奴ばかりだ。
シラフのときにうっかりマズイ質問をして、喧嘩売られたりでもしたらたまったモンじゃねえからな。)
リーモンはひとりで飲んでいる魔物に、優先的に声をかける。
「ああ~…?ヒック。
此処は魔王様の家。このドデカい城と、塀に囲まれた領域全部が、あの御方のテリトリーさ。」
酔いどれの魔物は、半ば呂律が回らなくなった舌で語る。
「此処に呼ばれたってことは、アンタは陛下に認められた実力者ってことなんだろ?」
「おおっ!!わかってんじゃねえか!!
俺は幹部の部下にスカウトされてな!
酒場くらいだが、この城に入れる権利を貰えたんだよ!」
リーモンはその話にピクリと反応する。
「幹部?ああ。今大変なんだってな。
この城の地下牢に幽閉されている、伝説の勇者の息子にひとりやられたんだろ?」
「ああー……それもあるけど。」
酔いどれはガシガシと頭を掻く。
「実はついこないだも、幹部のひとりがやられちまってな。
生き残りの幹部たちも魔王様も、もうピリピリしてて話しかけづれえのなんのって。」
「やられた?誰に?
人間でアイツより強い奴がいるのか?」
酔いどれは苦虫を噛み潰したような顔で、声量を落とす。
「実はさ…あの地下牢の男、兄貴がいるみたいでな。
ソイツがやったみたいなんだよ。
倒された幹部の部下の話では、エライ剣幕で詰め寄ってたみたいだぜ。
『弟はどこだ』って。」
リーモンは片眉を跳ね上げる。
(ルタに兄貴がいる?
そんな話、アイツから一度たりとも聞いたことねえぞ…って当たり前か。
アイツが何も話さねえから、俺が今拷問してるんだし。)
リーモンは話の続きを促す。
「俺の直属の上司から聞いた話だよ。
あの地下牢の男が倒した奴は、幹部たちの中でも最弱だったんだけど…
ソイツが倒したのは最強の奴なんだとよ。」
「………は?」
リーモンは頭が真っ白になる。
正気に戻った瞬間、自分が知らない間に生じていた魔界の危機に、総毛立つほどの悍ましさを覚えた。
「いや、まあ、コッチには強い奴がたくさんいるし、何より魔王様がいる。
そんなに気にすることでもねえだろ。
そもそも俺らごときがどうこうして、何とかなる問題でもねえしな。」
「…お、おう。」
「…俺帰るわ。飲みすぎちまったみてえだ。
じゃあな。」
リーモンは気を取り直して、別の魔物に話しかける。
「ムウ…オレサマ 幹部ニ”ていむ”サレル!
イッツモ ヤツラニ コキツカワレル!」
「お、おう…大変なんだな。」
「オマエ ワカッテクレルカ!」
先程の魔物と比べて頭は弱そうだが、魔王や幹部との付き合いは長そうな魔獣だ。
リーモンは何を質問するか迷いながら、口を開く。
「…地下牢に閉じ込められてるあの伝説の勇者の息子。
アイツ、どれくらい前からいるんだ?」
保管庫の記録を読んだときは、恐ろしい拷問の内容にばかり目がいってたせいで、日にちは確かめてなかった。
リーモンは改めて尋ねる。
「ム、ム、ム……数カ月ホド前ダ。
幹部ガ誰モ 城ニイナイ間二 ヤッテキタ。
魔王様 返リ討チニシテ 捕マエタ。
ソレカラ 色々ナ方法デ 拷問シタラシイガ
ソノヘン ヨクシラナイ キョウミナイ。」
「そうか。」
ここでリーモンはふと、ある疑問が沸いたので尋ねる。
「あの伝説の勇者の息子……もし拷問に負けて奴らの居場所を白状したら、陛下はアイツをどうするおつもりなのか知らないか?」
魔獣の顔色がパッと明るくなった。
「魔王様 イッテタ!
アイツ ウタゲノ ゴチソウ!
伝説ノ勇者ト ソノ一族ドモ 倒セタラ
ミンナデ アイツノニク ワケアウ!」
やはりか。
案の定な返答に、リーモンはひとりかぶりを振る。
「そのことを伝説の勇者の息子は知ってるのか?」
「ム?ワカラナイ
イウ必要ナイ イワナクテモ ワカル」
「……」
リーモンは考えた。
ルタがあそこまで意固地に情報を吐かないのは、魔族を憎む気持ちも勿論あるのだろうが、拷問をされてでも自分の死期を伸ばしたいという気持ちもあるのではないだろうか。
もしそうならば、いくら拷問を施してもルタが白状する可能性は薄い。
何とかしなければ。
「オイ!何をやっている!」
ふと背後から怒鳴り声が聞こえて振り向く。
どうやらこの魔獣のテイマーである幹部が迎えに来たようだ。
「バッ…バカ!!お前、誰と飲んでるんだ!
さっさと帰るぞ!!」
幹部はリーモンの顔を見た瞬間、青ざめる。
どうやら彼の活躍は、幹部の耳にも届いてるようだ。
「アオオーン……チクショウ……
マタナ!男ヨ!」
今日はもう遅い。
また明日、朝の拷問を終えた後にでも解決方を考えよう。
そういえば自分はまだ『あのリクエスト』を陛下に言ってない。
リーモンは酒場を去り、自室で床に就いた。
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