LAST TORTURE 〜魔界の拷問吏と捕虜勇者〜

拷問２日目 〜夕の部〜

「来い。散歩の時間だ。」

地下牢。
魔王が独房の鍵を開けて入る。

「……」

ルタは何も言わず静謐なまなざしを向ける。
以前の反抗的な態度からの変わりように内心驚きながらも、魔王は押し倒す。
そして腕と脚を折り曲げた形で拘束し、彼の肉体を四つ足に変えた。

「猿轡も付けておくぞ。
今朝のように食いちぎられても困るだろう。」
「お心遣い、痛み入ります。」

魔王は更に口を封じ、ルタを抱えて独房の外へと出る。

「これで良いか。」
「はい。有難う御座います。」

魔王とリーモンはルタを連れて、城の庭園へと移動する。

「陛下もご同行願えますか？
拘束つきとはいえ、彼奴を外へと出してしまっておりますゆえ。」
「……うむ。」

魔王は首を縦に振ったが、その顔はげんなりとしている。
リーモンはルタに首輪をかけ、鎖で繋げた。

「どうだルタ、外の空気は！
お前、あの独房から出るのは久しぶりなんじゃねえのか！？
俺様と陛下に感謝しかねえなあ！
つっても犬としての外出だけどな！」
「……」

ルタは猿轡を噛み締めながら、リーモンを睨みつける。

「あ？なんだその目は。
不満なら今からでもトイレに行って、口で便器の掃除をさせてやってもいいんだぞ？」
「…！！」

ルタは首を激しく横に振り、視線を逸らしてうつむく。

「ケッ！やっと分かったか。ホラ行くぞ。」

3人は歩く。
庭園は魔界のものとは思えないほど艶やかに彩られており、魔族のリーモンでも見たことのない珍しい花がたくさんある。

「…ルタの散歩のためだけにお借りしたのですが、壮観な景色でいらっしゃいますね。」
「うむ。大まかなデザインを考案したのは我だが、ほぼ全て庭師の腕だ。」

ふたりは世間話をしながら、予めかけておいた結界魔法の様子をチェックする。

（城の内からも外からも、視線は感じない。
どうやら問題ないようだ。）
（はい。こんなところを見られれば、陛下の品位が下がってしまわれますゆえ。）
（…う、うむ。）

魔王は憐れむような目で、ルタを見下ろした。

「……」

しばらく歩いていると、何やらルタの様子がおかしくなる。
足取りが鈍り、もじもじと身を捩る。
その挙動を見て、リーモンは彼の異変を察し、鞄からあるものを取り出した。

「犬猫のションベンを吸収する、ペット用のトイレシートだ。
出すならここに出せ。
陛下のお庭は決して汚すなよ。」
「……」

ルタはトイレシートの上に乗ると、ショロショロと小水を漏らす。

「まったく…陛下がご覧の前でまで排泄なんざ、とんだワンコだな。」
「……」

困ったように笑い頭を撫でるリーモンの手に、ルタはすりすりと自らの頭をすり寄せる。

「へへ、可愛いところあるじゃねえか。
そうそう、俺様や陛下に歯向かいさえしなければ、何も酷いことはしねえ。
もっとも自白のための拷問は続けるがな。」
「……」

ルタはリーモンの瞳をじっと見据えている。
彼の真意を読み取ろうとしているのだろうか。
はたまた彼に魅入られかけているのだろうか。

「…そろそろ帰るぞ。」
「畏まりました。
此度はお庭の借用のみならず、貴重なお時間を割いて頂き、誠に有難う御座いました。」
「うむ。」

魔王が結界魔法が切れそうになっていることを暗に伝えると、3人は地下牢の独房へと引き返した。