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「ゲートハイルの次男とはあまりいい関係ではなかったのか?」
リーヌスの気を逸らすためか、テオフィルが尋ねた。
「たぶん、良くはなかった。優しくしてもらったのが申し訳なくて、遠ざけていたと思う」
「優しい?あれが?」
「普段はあんなに強引なことをする人じゃない。親切にしてくれた」
アルブレヒトの切羽詰まった表情を思い出し、気分が沈む。もっと向き合って話をするべきだった。彼はいつもリーヌスを気遣ってくれていたのに、自分は何もしなかった。ただ逃げるのみだった。
「親切は金貸しと同じだ」
はっとして俯いていた顔を持ち上げる。テオフィルは暖炉の火を見つめているようだったが、リーヌスには彼がひどく遠くを眺めているように思えた。
「負債は返済しなければならない」
「……」
「……そろそろ馴染んだか?」
長い沈黙の末、テオフィルがまたリーヌスを見下ろす。
リーヌスは言葉の続きを待っているつもりだったが、テオフィルがそれ以上を語ることはなかった。張型に指先が触れ、左右に揺すられる。
「っ……う」
鎮まりかけていた情欲を再び呼び起こされ、リーヌスはぐっと奥歯を噛み締めた。
「あ、あああ……!」
張型はすでに三つめ。リーヌスは泣き濡れた悲鳴をあげて、体の奥を無慈悲にこねくり回す張型の先端から逃れようと体を捩った。
「動くな」
「むり……っ、う、うう……!」
おそらく子宮に近い、触れられたこともない場所をぐいぐいと押し広げられる。擦られるたび頭が真っ白になるほどの快感が生じて、リーヌスの体を熱くする。
これ以上刺激されては果ててしまう。もう絶頂はすぐそばまで近づいていた。一本目と二本目で昂った体は限界を迎えかけている。
「い、いっちゃう、」
「いま気を遣るとあとが苦しいぞ」
「ん……ぐ……っ、うう」
仰け反った腰を押さえられる。テオフィルは手を休めることなく張型でリーヌスの中を押し広げ続けた。
枕に縋りついて背を這い上がる快感をこらえるも、波のように押し寄せる悦楽はリーヌスの自制心をためらいもなく押し流していく。
「だめ、だめだ……っ、もう、あああ……ッ」
陶然とした感覚に身を任せ、体の浮くような快感を貪る。
意識が舞い戻ると、こめかみでどくどくと血液が脈打つ音と自分の乱れた息が聞こえてきた。深呼吸を繰り返し、テオフィルの顔を見上げる。
「まだ広げきれていない」
「ごめん……」
怒ってはいないが呆れた様子で、テオフィルがふたたび張型に触れる。
「え?」
「気を遣るとあとが苦しいと忠告したはずだ」
拒む間もなく、張型の先が体の奥を擦る。敏感になった体への刺激はあまりにも強く、リーヌスは怖気付いて腰を引いた。
「ひっ、あ、や、やめて」
初日は果てさせてはくれなかったことを思い出す。結局、リーヌスが絶頂に達しようが達しまいが、解すことだけが目的なのだ。テオフィルは表情を変えないまま、張型を動かす。
痛いわけではないが、刺激が強すぎてつらい。勝手に体が暴れて、涙があふれる。
「っひ、や、やめっ……ぐ、うう……ッ!」
「……」
張型の動きが止まり、ため息が降る。
テオフィルは両手をあげると口を開いた。
「……悪かった。もう終わる」
そう言ってリーヌスの後穴から張型を引き抜く。
戸惑いを隠せないリーヌスを気まずそうに見下ろして、テオフィルは身を引いた。
思わず引き止めかけて、やめた。何を言えばいいのかわからなかった。
寝室に一人残されたリーヌスは、体を丸め掛け布を引き寄せた。責め苦から解放された体は宙に浮いているようで落ち着かない。快感の残滓が体から抜けなかった。
翌朝。ついに式は明日に迫っていた。
初夏に行われる披露宴のほうが盛大になるとは言われたものの、邸内の装飾はあまりに美しく煌びやかで、やはり眩しいほどだった。ここからさらに、当日の朝になると生花も飾られるらしい。
中庭では使用人たちが忙しなく動き回っている。リーヌスものんびりしてはいられなかった。来賓への挨拶の作法の復習、玄関から中庭への客の動線の確認を行う。
「公子さまからご指示をいただく局面はございませんが、旦那さまから把握していただくようにとお言付けを預かっております」
「わかった」
使用人に巻かれた羊皮紙を手渡される。
把握していただくように、など、テオフィルは言わないだろう。頭に入れさせておけと言い放つ姿が容易に想像できた。
客の入場順の書かれた羊皮紙を広げると、爵位の序列が低い家から順に名前が並んでいた。一つ一つ目を通し、問題がないことを確認する。
「__順調か?」
当日のための資料が広げられた応接室に、テオフィルが顔を出した。リーヌスは紙を置いて、椅子から立ち上がった。
「明日の流れは覚えた。招待した家も大体は」
「それはいい。当主か嫡子の顔を知っている家は何割だ?」
「七割くらいかな」
「悪くない」
テオフィルが眉を持ち上げ、昨日のことなどさっぱり忘れたように頷く。リーヌスはテオフィルの顔から目を逸らし、机上の紙を見つめた。自分だけ気にしているのが情けなくもあり、癪でもあった。
リーヌスの気を逸らすためか、テオフィルが尋ねた。
「たぶん、良くはなかった。優しくしてもらったのが申し訳なくて、遠ざけていたと思う」
「優しい?あれが?」
「普段はあんなに強引なことをする人じゃない。親切にしてくれた」
アルブレヒトの切羽詰まった表情を思い出し、気分が沈む。もっと向き合って話をするべきだった。彼はいつもリーヌスを気遣ってくれていたのに、自分は何もしなかった。ただ逃げるのみだった。
「親切は金貸しと同じだ」
はっとして俯いていた顔を持ち上げる。テオフィルは暖炉の火を見つめているようだったが、リーヌスには彼がひどく遠くを眺めているように思えた。
「負債は返済しなければならない」
「……」
「……そろそろ馴染んだか?」
長い沈黙の末、テオフィルがまたリーヌスを見下ろす。
リーヌスは言葉の続きを待っているつもりだったが、テオフィルがそれ以上を語ることはなかった。張型に指先が触れ、左右に揺すられる。
「っ……う」
鎮まりかけていた情欲を再び呼び起こされ、リーヌスはぐっと奥歯を噛み締めた。
「あ、あああ……!」
張型はすでに三つめ。リーヌスは泣き濡れた悲鳴をあげて、体の奥を無慈悲にこねくり回す張型の先端から逃れようと体を捩った。
「動くな」
「むり……っ、う、うう……!」
おそらく子宮に近い、触れられたこともない場所をぐいぐいと押し広げられる。擦られるたび頭が真っ白になるほどの快感が生じて、リーヌスの体を熱くする。
これ以上刺激されては果ててしまう。もう絶頂はすぐそばまで近づいていた。一本目と二本目で昂った体は限界を迎えかけている。
「い、いっちゃう、」
「いま気を遣るとあとが苦しいぞ」
「ん……ぐ……っ、うう」
仰け反った腰を押さえられる。テオフィルは手を休めることなく張型でリーヌスの中を押し広げ続けた。
枕に縋りついて背を這い上がる快感をこらえるも、波のように押し寄せる悦楽はリーヌスの自制心をためらいもなく押し流していく。
「だめ、だめだ……っ、もう、あああ……ッ」
陶然とした感覚に身を任せ、体の浮くような快感を貪る。
意識が舞い戻ると、こめかみでどくどくと血液が脈打つ音と自分の乱れた息が聞こえてきた。深呼吸を繰り返し、テオフィルの顔を見上げる。
「まだ広げきれていない」
「ごめん……」
怒ってはいないが呆れた様子で、テオフィルがふたたび張型に触れる。
「え?」
「気を遣るとあとが苦しいと忠告したはずだ」
拒む間もなく、張型の先が体の奥を擦る。敏感になった体への刺激はあまりにも強く、リーヌスは怖気付いて腰を引いた。
「ひっ、あ、や、やめて」
初日は果てさせてはくれなかったことを思い出す。結局、リーヌスが絶頂に達しようが達しまいが、解すことだけが目的なのだ。テオフィルは表情を変えないまま、張型を動かす。
痛いわけではないが、刺激が強すぎてつらい。勝手に体が暴れて、涙があふれる。
「っひ、や、やめっ……ぐ、うう……ッ!」
「……」
張型の動きが止まり、ため息が降る。
テオフィルは両手をあげると口を開いた。
「……悪かった。もう終わる」
そう言ってリーヌスの後穴から張型を引き抜く。
戸惑いを隠せないリーヌスを気まずそうに見下ろして、テオフィルは身を引いた。
思わず引き止めかけて、やめた。何を言えばいいのかわからなかった。
寝室に一人残されたリーヌスは、体を丸め掛け布を引き寄せた。責め苦から解放された体は宙に浮いているようで落ち着かない。快感の残滓が体から抜けなかった。
翌朝。ついに式は明日に迫っていた。
初夏に行われる披露宴のほうが盛大になるとは言われたものの、邸内の装飾はあまりに美しく煌びやかで、やはり眩しいほどだった。ここからさらに、当日の朝になると生花も飾られるらしい。
中庭では使用人たちが忙しなく動き回っている。リーヌスものんびりしてはいられなかった。来賓への挨拶の作法の復習、玄関から中庭への客の動線の確認を行う。
「公子さまからご指示をいただく局面はございませんが、旦那さまから把握していただくようにとお言付けを預かっております」
「わかった」
使用人に巻かれた羊皮紙を手渡される。
把握していただくように、など、テオフィルは言わないだろう。頭に入れさせておけと言い放つ姿が容易に想像できた。
客の入場順の書かれた羊皮紙を広げると、爵位の序列が低い家から順に名前が並んでいた。一つ一つ目を通し、問題がないことを確認する。
「__順調か?」
当日のための資料が広げられた応接室に、テオフィルが顔を出した。リーヌスは紙を置いて、椅子から立ち上がった。
「明日の流れは覚えた。招待した家も大体は」
「それはいい。当主か嫡子の顔を知っている家は何割だ?」
「七割くらいかな」
「悪くない」
テオフィルが眉を持ち上げ、昨日のことなどさっぱり忘れたように頷く。リーヌスはテオフィルの顔から目を逸らし、机上の紙を見つめた。自分だけ気にしているのが情けなくもあり、癪でもあった。
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