微熱でさよなら

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入り口に張型の先が当たって、思わず身を硬くする。
テオフィルは見かねたのか、リーヌスの体を起こして自分の膝の上に引き寄せた。

「掴まってろ」

向き合うような体制で、リーヌスはテオフィルの肩にしがみついた。アルファの香り__何物にも例えがたい甘美な香りが、くらりとリーヌスの鼻腔を刺激する。厳密には鼻で感じる香りとは少し違う感覚だが、どう表現すればいいのかわからない。とにかく、蠱惑的な感覚に体が囚われるようだった。
ふたたび、テオフィルの指先が頑なな蕾に触れ、ゆるやかに解きほぐしていく。

「ぁ……ッ、や、ぁあ……っ」

知らずのうちに甘やかな吐息が漏れ、力が抜けていった。テオフィルの広い肩にしなだれかかって体重を預けたまま、がくがくと腰を揺らす。
張型が後穴に触れても、先ほどのような拒絶感はない。むしろこれで奥をもっと突いてほしいとすら思ってしまう。

「入れるぞ」
「あ、あああ……っ」

蕩け、開き始めた蕾に男根を模した棒が沈んでいく。
リーヌスは悲鳴を上げたが、その悲鳴が痛みではなく快楽に拠るものであることは、誰の耳にも明らかだっただろう。
体をゆっくりと持ち上げられ、テオフィルの膝から降ろされる。支えられながら枕の上に横たえられたリーヌスは、深く呼吸を繰り返した。
呼吸が落ち着くと、中に収まった張型が圧迫感とは違う違和感を主張しはじめる。むずむずした感覚を解消しようと内腿を擦り合わせてみるが、消えることはない。むしろますます気になってたまらない。
そんなリーヌスを尻目に、テオフィルが寝台から出ていった。リーヌスの中に張型を残したまま。

「どこに……」
「仕事が終わっていない」

唖然として、寝台を離れるテオフィルの背中を眺める。そのまま出ていくのかと思えば、扉を開けて廊下にいる誰かから書類を受け取り、寝台近くの椅子に腰掛けた。
こんな状態で置いていかれるのかと思ったが、流石にそこまで非情ではないようだ。

「さして時間はかからない。それを入れたまま待っていろ」

確かに、張型に慣れるまでは時間が必要そうだった。それにしたって薄情ではないかと思うが、合理的ではある。
リーヌスは寝台に横たわったままテオフィルの横顔を見つめた。燭台の灯りに照らされ、瞳に火が揺らいでいるように見えた。手元の書類をじっと眺めては、机に置かれた紙に何かを書き込む。
どんな仕事をしているのか聞きたかったが、邪魔になってはよくないと思い、リーヌスは口を噤んだ。

しばらくじっとしていると、下腹が次第に甘い疼きを増していく。快いところを押しっぱなしにされているせいで、どうしても欲情が抑えきれない。

テオフィルの言った通り、作業が片付くまでにそれほどの時間はかからなかった。書類をまとめると椅子から立ち、また寝台に乗り上げる。

「慣れたか?」

熱い呼吸を繰り返すリーヌスを見下ろし、テオフィルが張型に手を伸ばす。

「っあ、んん……!」

入り口を広げるように張型を動かされ、リーヌスは体を捩った。絶頂の予感が重く滞留している。追い立てられたらすぐに達してしまいそうだった。
逃げて揺れる腰をテオフィルが押さえる。

「動くな。やりづらい」
「でも、う、動かされると」
「出したいなら出していい」
「く、ぁ……ッ、」

ぐい、と少し強い突き上げで、リーヌスは吐精していた。快感が腰から全身に波及し、体がこわばる。次いで、ぐったりと力が抜けていく。
張型が動かされ、弛緩した穴をゆるゆると広げる。絶頂に達したばかりの体には刺激が強すぎた。

「も、もういい……っ、やめて、」

腕を押し返すと、テオフィルは意外にも素直に引いた。リーヌスは自身の尻に手を伸ばし、張型を慎重に引き抜く。身を苛む責め具から解放されて、ようやく息をついた。

「ここまでにしておこう」

テオフィルが寝台から立ち上がる。リーヌスも湯浴みのために身を起こした。
しかし、夜着を羽織り、靴を爪先につっかけて歩こうとしたところでぐらりと体が傾く。

「わっ……」

膝にうまく力が入らないまま傾いたリーヌスの体を、厚い胸が受け止めた。体が密着し、テオフィルの香りを間近に感じる。
そして、あることに気づく。

「た、勃ってる……?」
「あれだけ近づいておいて、勃たない方がおかしいだろう」
「……その、……してあげようか」

純粋な善意で、リーヌスは問いかけた。

「僕だけしてもらったし、疲れてそうだし……」
「してあげるとは、どんなふうに?」
「ええと、手で」

しどろもどろになりながら小さく呟くと、テオフィルは疲れたように笑った。無防備にも見えるその笑みに、なぜか胸が掴まれるような心地がした。

「やってみろ」

リーヌスを椅子に座らせ、テオフィルが立ったままスラックスの前をくつろげる。張り詰めた下着をリーヌスがずらすと、リーヌスのものとは比較にならないほど大きな竿が姿を見せた。
躊躇いつつも、ゆるゆると両手で扱き始める。確かに、これは慣らさないと入らないだろう。怖気付く指先に、自慰のときと同じくらいの力を入れて擦り上げる。

「弱いな」
「もう少し強く?」
「ああ」

力を強くして動かすが、テオフィルは納得いかない様子で、焦れたように歯の隙間から息を吐き出した。

「立て」

テオフィルがリーヌスの腕を引いて立ち上がらせる。
困惑しているうちに、肩に顔が埋められた。

「な、何……っ」

すう、と首元で空気を吸い込む音が聞こえた。匂いを嗅がれているのだと気づく。リーヌス自身も、テオフィルの匂いを強く感じていた。欲情によって、先ほどよりもさらに香りは濃い。
緊張と羞恥でこわばる手を、テオフィルの手が掴む。

「あ……」

完全に勃起した性器に手を導かれ、リーヌスは真っ赤になりながらふたたびそれを握った。その上にテオフィルの大きな手が添えられる。
肉棒に浮き出た血管が脈打つのを生々しく手のひらに感じて、腹の奥が熱く疼く。

「ふ……、」
「……っ」

首にかかる熱い息が、リーヌスの体温まで引き上げていく。アルファの、雄の芳香が、甘く体を包む。狂おしいほどの劣情が腹に蟠っていた。

手が肉棒を扱きあげるうちにテオフィルの息は次第に荒くなり、やがて絶頂に達する。勢いの良い精液の奔出はすべてテオフィル自身の手のひらに受け止められたが、もしこれが自分の中で為されたら、と思うと、たまらなかった。

「ぅ、ああ……っ、ぁ、……!」

下腹の切ない疼きが、破裂したように全身に波及する。
リーヌスは訳もわからぬまま、その場に崩れ落ちた。
自分が果てたのだ、と理解したのは、体を襲った痺れのような快感がようやく引き始めた頃だった。
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