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第一話 ~巻き込まれた異世界召喚~

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 異世界召喚というものを皆様はご存知だろうか。
 よく、ラノベなどで使われるファンタジー要素前回の設定で、突然主人公の足元に光り輝く魔法陣が浮かび上がり、そのまま異世界へと連れて行かれる!とかそういう、最近流行りのあれ。
 そんなの、異世界ものを題材としている作品で作られたただの設定。
 現実では起こりえない事。皆様もそう思っているだろう。     現に俺もそう思っていた。


 これを見るまでは、


「お願い! 助けて!」
「暴れないで下さい! 腕がもたない!」



 偶に通る道に大きな穴が開き、その周りを囲う様にして光り輝く模様が浮かび上がっている。
 そして、今まさに、目の前で連れて行かれそうになっているスーツを身に纏った美青年リーマンと、それを助けようとして穴に落ちそうになっている高校生、二人の姿がある。
 それを珈琲片手に眺める僕、八乙女昌斗、23歳。


 
 何故僕が助けに行かないのか。
 そんなの理由は一つしか無い。
 近づいたら、確実に巻き込まれることが分かっているからだ。
 

 ついでに言えば、僕が行った所で助けにもなれない。
 身長155センチ。 細身で筋肉も人並み以下の僕が、あの二人を助けられると思うか? 
 答えは、ノーだ。
 美青年リーマンを捨て置き、あの力の強い高校生だけなら何とか可能性はあるだろうが、わざわざ見知らぬ人を己の身を挺して助けようとしている正義感の強い青年だ。 
 僕が「彼は捨て置け!」と屑みたいな台詞を吐いたところで訊きはしないだろう。
 それなら最初から手を出さないのが先決だ。
 なので僕は、この道が通れるようになるまで、此処で大人しく珈琲を飲みながら待とうと思う。


 
 屑だって?
 何とでも言ってくれ。 僕は出来ないと分かっている無駄な事はしない主義だ。
  


#####

「もう腕の力が・・・・」
「諦めないで下さい! 俺が何とかしますから、もう少し耐えて!」


 目の前で繰り広げられる感動的な救出劇を眺め始めてから、一体どれくらい経っただろうか。


 あぁ、早く諦めて異世界召喚でも何でもしてくれないかな。
 絶体絶命の危機に直結している二人を前に、そんな事を思う僕は本当に屑だと思う。 


 けれど、皆が楽しい大学生活を送っているなか、奨学金で専門学校に通いICTの知識を学んで、死に物狂いで勉強し、それと両立でバイトをしながら一人暮らし、その後大手企業に就職して、今は社会人として働いている。
 そんな青春もクソもない生活を続けていれば、純粋だった学生の頃よりも擦れてしまうのは当たり前。
 


 大学に行く金が家に無かった訳じゃない。
 というか逆に、僕の家は人が羨むほど裕福な家庭だ。
 医者の父と弁護士をしている母。
 表向きは仲睦まじい夫婦として近所でも有名な二人だったけれど、蓋を開ければずっと喧嘩をしている家庭崩壊前の最悪な夫婦。

 プライドの高い二人は絶対に互いの意見を曲げない。
 だから広い家の中で何時も飛び交うのは、暴言ばかり。
 自分達の見栄えばかりを気にして、着飾っている様な人達の間に出来た”出来損ないの息子”
 それが、僕だ。
 あの人達と、この先ずっと一緒に暮らす何て考えられなくて、僕は高校を卒業したタイミングで一人暮らしを始めた。



 自分のした選択に後悔はない。
 けれどやっぱり、



「青春って大事だ」



 同級生の楽しそうなSNSを見て「クソパリピ共め。 召されろ」とか呟くようになったら終わりだよ。
 周りは社会人として働いている僕をカッコいいというけれど、無駄に早く大人に何てなるものじゃない。
 こうやって、中身が腐るのがオチだ。


 そんな事を考え、少し僕が悲観的になりながら二人を眺めていると、やがて17時を知らせる夕暮れの曲が流れ始める。
 空は茜色に染まり、それを見て僕は溜息をついた。
 もう此処で立ち往生してからに20分が経ってしまった。
 後どれくらいかかるのだろうか。
 検討も付かないので、一旦休憩がてら電柱の影に腰を降ろしてみる。



「この道しか辿りつかない本屋に何て、どうして予約したんだよ。」



 過去の自分がした選択に後悔をし、頭を抱えたその時だった。
 突然、さっきまで一定の光で輝いていた魔法陣に変化が起きたのは。
 辺りが真っ白な煙に覆われ、それと同時に目を開けていることさへ出来ない光を放ち始める。
 僕も咄嗟に光を遮断する為、目を閉じた。
 

 それから程なくして「うわぁあああ!!!」と高い叫び声の様なものが聞こえてき、僕は状況を察し、安堵した。
 

 漸く行ったか・・・・。
 

 目を開き、先程まで彼らが居た場所に視線を向けると、穴が大きく広がっている事に気が付く。


 何だろう、何故か凄く嫌な予感がする。


 ゆっくりと視線を己の足元へと移動させると、さっきまで無かった見覚えの無い輝く模様が目に入る。
 安堵するには早かった。
 僕の勘が言っている。 これは確実にマズイことになっていると。
 だが、逃げようと足を動かすにも全てが遅かったようで・・・・。
 気が付けば、足元に穴が開き、浮遊感が全身を包む。
 


「最悪だ」


 
 なすすべもない僕は、抗うことなく目を閉じた。


 今日は本当に散々な日だな。
 会社では嫌いな上司に仕事を押し付けられて、
 同期のミスの尻拭いをさせられて、
 早めに打ち合わせが終わり、浮足立った気持ちで半年前から楽しみにしていた漫画を買いに行こうとしたとことで、異世界召喚とかいう現実味の無いイベントに巻き込まれて、


 何なの? 僕って神様に嫌われる様なこと何かしましたか?
 あぁ、神が今此処に居たなら一発ぶん殴ってやりたい気分だ。


 こんな時考えることは普通の人ならこんな事じゃないだろう。
 自分はこれからどうなるのだろう、とか。
 この状況は一体なんなんだろう、とか。
 かけがえのない家族の事、とか。
 大事にしている友達の事、とか。
 大切な恋人の事、とか。


 きっと、そんなロマンチックな事を考えるべきなんだろう。
 だが残念な事に、酷く冷静な僕は、この状況を考えた所で答えが出せないのは分かっているし、思い残す程の大切な人だって持ち合わせていない。




 けれど今は兎に角、



「漫画の続きが気になるんだってばぁぁあああ!!」
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