42 / 57
封土の屋敷 Ⅶ
しおりを挟む
ホルトハウスを見送ったリュディガーは、門までということだったからだろう。そう経たずして戻ってきた。
扉を小さくあけて、寒風とともに滑り込んでくる姿に、キルシェは手を止めて立ち上がり、新しく温かなお茶を淹れにかかる。
リュディガーは、外套を脱いで暖炉の直ぐそばの壁に掛けようと居間を進み、お茶を新たに淹れていたキルシェに礼を言いながら外套をかけた。
そのまま、暖炉で手を翳してしばらく温まっているリュディガーを見、キルシェは席へ戻って針子を再開する。
「__明日は、屋敷の部屋を整えることから取り掛かる」
「でも、それは、一日でどうにかなるのですか?」
手を結んでは開いてを繰り返し、相変わらず暖炉で温まっているリュディガーは、キルシェへと首を向けた。
「ホルトハウスさんが寝泊まりするための、な。ホルトハウスさんには、あちらでもう寝泊まりできるようにしたほうがいいから」
「なるほど。確かにそうですね」
「それから、他にも使用人部屋を。使えそうな部屋から、使えるようにしておく。それは、まぁ、半日もいらないだろう。屋敷をみてまわって……庭も見て、それで時間があれば、近隣を見て回って終わりになるか」
「わかりました。所領を見て回るのは、明後日ですかね?」
「そうなるな。遠方は、帰る日に上から見つつになる」
上、とキルシェがつぶやくと、リュディガーは人の悪い笑みを浮かべた。
「ああ。寒くて、眩しいだろうがな」
ならば龍に乗って、ということなのだろう。
キルシェが苦笑を浮かべて頷くと、リュディガーは暖炉へと顔を戻すので、キルシェは手元に視線を戻した。
そうしてややあってから、リュディガーはぬらり、と立ち上がって、新しく淹れたお茶が置かれた席へと腰を降ろす。
湯呑を持って、一つ口に運んでから、ため息を零して両手で握り込むリュディガー。
「__それと、ホルトハウスさんに見送っているとき言われて気づいたんだが……」
「何です?」
いくらか運針していたのを止め、キルシェは顔を上げた。
リュディガーは、湯呑を見つめたままであった。
「……リュディガー?」
思い詰めた表情でもないが、つい今しがたまでの雰囲気と変わったために、キルシェは怪訝にしながら名を呼ぶ。
「ナハトリンデンでよいのか、コンバラリアでよいのか」
「それは……どちらが、どちらの籍へ入るか、ということ?」
リュディガーは頷きながら、肩をすくめる。
「君がやんごとない生まれであることは、ホルトハウスさん、ご存知だからな。それで、どちらがどちらに入るのか、と聞かれたんだ」
「どちらが、どちらか……」
「決まっていない、と言ったら、信じられないという目でみられたよ。それで気づいた。そうか、そこはやはり大事な部分か、と」
お家柄__爵位がかかわってくるのだから、執事として仕える彼にすれば、当たり前のように重要なことである。自分が帰属するところの、基であり、矜持とするもの。
「で、私はといえば、ナハトリンデンについて拘りはない。この姓は、預かっているというか……ありがたく使わせてもらっているだけと言えばそんなかんじだから」
奇縁で名乗ることになった__そう彼は言いたいのだろう。
__それを言ってしまったら、私だって……。
「__だから、コンバラリア籍へ私が入ればいいか、と思っている」
__リュディガー・コンバラリア……?
キルシェは軽く顎に手を添えて、視線を落としながらその名を内心で反芻する。
__リュディガー・フォン・ナハトリンデン……リュディガー・フォン・コンバラリア……には、ならないわよね、この場合。
ナハトリンデン男爵であって、コンバラリア男爵ではない。
あくまで、男爵位はリュディガーの功績によってナハトリンデン家に与えられた爵位。貴族を表すフォンは、世襲が可能と定められている。
__だから、婿入りをする場合はフォンとはならないはずよね。なるとしたら、リュディガー・フォン・ナハトリンデン・コンバラリア……?
コンバラリア家のナハトリンデン男爵、とは認められない姓のはずだ。
ややこしい__とキルシェは小さくうめいた。
「どうした。そんな難しい顔をして」
いくらか笑いを含んだ声音に、キルシェははっ、として苦笑を浮かべる。
「その……どのような姓になるのか、と考えていて……」
「ほう」
「なんだか、コンバラリアが残るのはおかしい気がします」
「そうか?」
「ええ。私は、ナハトリンデンになるのだと思っていました。陛下から貴方へ下賜された爵位がありますし、同時に下賜された封土へ住むのですから。それが筋だと思います」
「君の系譜は、私のそれより遥かに優れているじゃないか。それを止めてしまっていいのか?」
「拘りはないですし、やんごとない立場だという自覚もないですよ。父祖をないがしろにするつもりはないですけれど……。その血胤は、伝えていくだけでいいと思います。お役目はもうないですから」
「それは……まぁ、そうだが……」
「考えても見てください。ナハトリンデン家へ与えられた爵位と封土なのに、その主がコンバラリアというのは、筋違いというか……傍からみれば、功績を掠め取っているようにしか見えません。心象はよくないのでは?」
うーむ、と唸るリュディガーは腕を組む。
「リュディガーは、ナハトリンデン姓を名乗るのを憚っている気持ちがあるの?」
「……」
小さく、リュディガーの眉が動いたのをキルシェは見逃さなかった。
__やはり……。
「ナハトリンデン姓を預かっているだけに過ぎないのに、それを貶めたからな……」
「……自分は外つ国出身者で、先の任務ではナハトリンデンのまま任務にあたって、血も凍った『氷の騎士』の異名を持つほどに畏れられたから?」
湯呑を見つめたままの彼は、眉間に深い皺を寄せた。
「__でも、それは、糺すためだった。貴方は、事実、糺したでしょう? 糺して、くれた……私ができなかったことを、してくれた」
リュディガーは目を伏せる。
__負い目……責任を感じて、ナハトリンデンを返上したいと思っていたの……。
キルシェは、リュディガーの父、ローベルトをそれなりに知っている。それに、リュディガーの家族のことも、リュディガー自身から聞いている。彼にとってナハトリンデン姓を貶めたことは、彼の性格を考えるととてつもない負い目であることは想像できた。
「……負い目を感じるなら、ナハトリンデンと聞いたら、名手の代名詞といえるぐらいにするのはどう?」
目を伏せていたリュディガーが、目を開けた。そしてその視線は、キルシェへと向けられる。
「陛下のお墨付きを与えられたとはいえ、男爵位では釣り合わないだろう、と言わしめるぐらいにするの」
どうですか、と笑みを浮かべて視線で問えば、面食らったような彼は、やがて小さく笑って穏やかな表情になる。
「なるほどな……その発想はなかった」
「評価が低いなら、上がっていくのは楽ですよ。上がるだけですから。あれ、ナハトリンデンさんは、噂に聞いていた御仁とは別人? と思われるのも簡単ですよ」
「低いから、期待値も低いものな」
湯呑を持つ手とは別の手で顎を擦るリュディガーは、ふと、人の悪い笑みを浮かべる。
「君、本当に先生に似てきたな。先生なら、間違いなく言うと、ふと思った」
「それは、光栄ですね」
くすり、とキルシェは笑うと、リュディガーはやれやれ、と首を振る。
そして、湯呑を口に運ぶと、ため息を吐くとともに湯呑をテーブルへと置いた。
「__そうすべきだな、たしかに」
自嘲気味に笑うリュディガーに、キルシェは笑みを深める。
キルシェはお針子の道具を置くと、角を挟んだ場所の籍に腰を据えるリュディガーへ、長椅子を移動して身を寄せる。そして、湯呑を持ったままの無骨な手の、その手首に手をおくようにして優しく握った。
「__私も、いますから」
リュディガーは目を見開いて、驚きを隠せないでした。
一度彼は目を閉じて、空いているもう一方の手でキルシェの手を覆うように包むと、目を開けて見つめてきた。
そうして、口を開く。
「__ああ。ありがとう」
扉を小さくあけて、寒風とともに滑り込んでくる姿に、キルシェは手を止めて立ち上がり、新しく温かなお茶を淹れにかかる。
リュディガーは、外套を脱いで暖炉の直ぐそばの壁に掛けようと居間を進み、お茶を新たに淹れていたキルシェに礼を言いながら外套をかけた。
そのまま、暖炉で手を翳してしばらく温まっているリュディガーを見、キルシェは席へ戻って針子を再開する。
「__明日は、屋敷の部屋を整えることから取り掛かる」
「でも、それは、一日でどうにかなるのですか?」
手を結んでは開いてを繰り返し、相変わらず暖炉で温まっているリュディガーは、キルシェへと首を向けた。
「ホルトハウスさんが寝泊まりするための、な。ホルトハウスさんには、あちらでもう寝泊まりできるようにしたほうがいいから」
「なるほど。確かにそうですね」
「それから、他にも使用人部屋を。使えそうな部屋から、使えるようにしておく。それは、まぁ、半日もいらないだろう。屋敷をみてまわって……庭も見て、それで時間があれば、近隣を見て回って終わりになるか」
「わかりました。所領を見て回るのは、明後日ですかね?」
「そうなるな。遠方は、帰る日に上から見つつになる」
上、とキルシェがつぶやくと、リュディガーは人の悪い笑みを浮かべた。
「ああ。寒くて、眩しいだろうがな」
ならば龍に乗って、ということなのだろう。
キルシェが苦笑を浮かべて頷くと、リュディガーは暖炉へと顔を戻すので、キルシェは手元に視線を戻した。
そうしてややあってから、リュディガーはぬらり、と立ち上がって、新しく淹れたお茶が置かれた席へと腰を降ろす。
湯呑を持って、一つ口に運んでから、ため息を零して両手で握り込むリュディガー。
「__それと、ホルトハウスさんに見送っているとき言われて気づいたんだが……」
「何です?」
いくらか運針していたのを止め、キルシェは顔を上げた。
リュディガーは、湯呑を見つめたままであった。
「……リュディガー?」
思い詰めた表情でもないが、つい今しがたまでの雰囲気と変わったために、キルシェは怪訝にしながら名を呼ぶ。
「ナハトリンデンでよいのか、コンバラリアでよいのか」
「それは……どちらが、どちらの籍へ入るか、ということ?」
リュディガーは頷きながら、肩をすくめる。
「君がやんごとない生まれであることは、ホルトハウスさん、ご存知だからな。それで、どちらがどちらに入るのか、と聞かれたんだ」
「どちらが、どちらか……」
「決まっていない、と言ったら、信じられないという目でみられたよ。それで気づいた。そうか、そこはやはり大事な部分か、と」
お家柄__爵位がかかわってくるのだから、執事として仕える彼にすれば、当たり前のように重要なことである。自分が帰属するところの、基であり、矜持とするもの。
「で、私はといえば、ナハトリンデンについて拘りはない。この姓は、預かっているというか……ありがたく使わせてもらっているだけと言えばそんなかんじだから」
奇縁で名乗ることになった__そう彼は言いたいのだろう。
__それを言ってしまったら、私だって……。
「__だから、コンバラリア籍へ私が入ればいいか、と思っている」
__リュディガー・コンバラリア……?
キルシェは軽く顎に手を添えて、視線を落としながらその名を内心で反芻する。
__リュディガー・フォン・ナハトリンデン……リュディガー・フォン・コンバラリア……には、ならないわよね、この場合。
ナハトリンデン男爵であって、コンバラリア男爵ではない。
あくまで、男爵位はリュディガーの功績によってナハトリンデン家に与えられた爵位。貴族を表すフォンは、世襲が可能と定められている。
__だから、婿入りをする場合はフォンとはならないはずよね。なるとしたら、リュディガー・フォン・ナハトリンデン・コンバラリア……?
コンバラリア家のナハトリンデン男爵、とは認められない姓のはずだ。
ややこしい__とキルシェは小さくうめいた。
「どうした。そんな難しい顔をして」
いくらか笑いを含んだ声音に、キルシェははっ、として苦笑を浮かべる。
「その……どのような姓になるのか、と考えていて……」
「ほう」
「なんだか、コンバラリアが残るのはおかしい気がします」
「そうか?」
「ええ。私は、ナハトリンデンになるのだと思っていました。陛下から貴方へ下賜された爵位がありますし、同時に下賜された封土へ住むのですから。それが筋だと思います」
「君の系譜は、私のそれより遥かに優れているじゃないか。それを止めてしまっていいのか?」
「拘りはないですし、やんごとない立場だという自覚もないですよ。父祖をないがしろにするつもりはないですけれど……。その血胤は、伝えていくだけでいいと思います。お役目はもうないですから」
「それは……まぁ、そうだが……」
「考えても見てください。ナハトリンデン家へ与えられた爵位と封土なのに、その主がコンバラリアというのは、筋違いというか……傍からみれば、功績を掠め取っているようにしか見えません。心象はよくないのでは?」
うーむ、と唸るリュディガーは腕を組む。
「リュディガーは、ナハトリンデン姓を名乗るのを憚っている気持ちがあるの?」
「……」
小さく、リュディガーの眉が動いたのをキルシェは見逃さなかった。
__やはり……。
「ナハトリンデン姓を預かっているだけに過ぎないのに、それを貶めたからな……」
「……自分は外つ国出身者で、先の任務ではナハトリンデンのまま任務にあたって、血も凍った『氷の騎士』の異名を持つほどに畏れられたから?」
湯呑を見つめたままの彼は、眉間に深い皺を寄せた。
「__でも、それは、糺すためだった。貴方は、事実、糺したでしょう? 糺して、くれた……私ができなかったことを、してくれた」
リュディガーは目を伏せる。
__負い目……責任を感じて、ナハトリンデンを返上したいと思っていたの……。
キルシェは、リュディガーの父、ローベルトをそれなりに知っている。それに、リュディガーの家族のことも、リュディガー自身から聞いている。彼にとってナハトリンデン姓を貶めたことは、彼の性格を考えるととてつもない負い目であることは想像できた。
「……負い目を感じるなら、ナハトリンデンと聞いたら、名手の代名詞といえるぐらいにするのはどう?」
目を伏せていたリュディガーが、目を開けた。そしてその視線は、キルシェへと向けられる。
「陛下のお墨付きを与えられたとはいえ、男爵位では釣り合わないだろう、と言わしめるぐらいにするの」
どうですか、と笑みを浮かべて視線で問えば、面食らったような彼は、やがて小さく笑って穏やかな表情になる。
「なるほどな……その発想はなかった」
「評価が低いなら、上がっていくのは楽ですよ。上がるだけですから。あれ、ナハトリンデンさんは、噂に聞いていた御仁とは別人? と思われるのも簡単ですよ」
「低いから、期待値も低いものな」
湯呑を持つ手とは別の手で顎を擦るリュディガーは、ふと、人の悪い笑みを浮かべる。
「君、本当に先生に似てきたな。先生なら、間違いなく言うと、ふと思った」
「それは、光栄ですね」
くすり、とキルシェは笑うと、リュディガーはやれやれ、と首を振る。
そして、湯呑を口に運ぶと、ため息を吐くとともに湯呑をテーブルへと置いた。
「__そうすべきだな、たしかに」
自嘲気味に笑うリュディガーに、キルシェは笑みを深める。
キルシェはお針子の道具を置くと、角を挟んだ場所の籍に腰を据えるリュディガーへ、長椅子を移動して身を寄せる。そして、湯呑を持ったままの無骨な手の、その手首に手をおくようにして優しく握った。
「__私も、いますから」
リュディガーは目を見開いて、驚きを隠せないでした。
一度彼は目を閉じて、空いているもう一方の手でキルシェの手を覆うように包むと、目を開けて見つめてきた。
そうして、口を開く。
「__ああ。ありがとう」
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
結婚式の日取りに変更はありません。
ひづき
恋愛
私の婚約者、ダニエル様。
私の専属侍女、リース。
2人が深い口付けをかわす姿を目撃した。
色々思うことはあるが、結婚式の日取りに変更はない。
2023/03/13 番外編追加
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる