【完結】訳あり追放令嬢と暇騎士の不本意な結婚

丸山 あい

文字の大きさ
上 下
230 / 247
天つ通い路

君影草と受難な龍騎士 Ⅱ

しおりを挟む


 扉を開けてボス部屋に入っても特に動きは無かった。異変が起こったのは全員が広間に入りきった頃。

 ドシンと地面が揺れた。

 次に広間の奥から巨大な四足歩行のナニカがのっしのっしと歩いてきた。初心者用ダンジョン地下五階のボスにしては禍々し過ぎるというか……。皆も同じ事を思っているのか、ピタリと動きが止まっている。

「あれは——!」
「知っているんですかっ、団長さん!?」

 甲斐先生が締め上げる前に、団長は言い放った。

「皆逃げろ! 此奴はグレータービーストッ、魔王の居城近くに生息するという上級モンスターだ! 今の我々では到底敵わない!!」

 団長のセリフが思いっきり説明セリフな所にツッコミ入れるべきなのか、これ!?

 俺も逃げ出したのだが、いかんせん『すばやさ』が皆とは一回りは違う。あっという間に最後尾になってしまった。

 ――やばい、これは死ぬ!

 焦っていたから色々な事が頭の中からから吹き飛んでいた。周りの注意すらも怠るほどに。そのせいで魔物なんかよりもよほど注意しないと行けない人物への警戒が薄れた。

「――さらばだ、旅人」

 そんな団長の囁き声が聞こえた次の瞬間には、地面とキスするハメになっていた。足を引っ掛けられて転んだのだ。

 そこで疑惑が確信に変わった。


 ——これは罠だ。『旅人』を抹殺するための。


 遠くからクラスメートたちの声と扉の閉まる音が聞こえた。





「気配遮断をモノに出来てなかったらマジでアウトだったぞ、これ」

 気付くのが遅過ぎたが、まあギリギリセーフだったので良しとする。……しっかし、閉じ込められてるのでやることがない。とりあえず魔物——団長はグレータービーストと呼んでたな、確か——でも観察するか。
 その体躯は現状、俺ではどう足掻いても勝てそうに無いとわかる凶悪ないでたち。団長も言っていたがラスダン手前辺りに生息してそうな面構えだ。悔しいが勇者である早乙女でも今は敵わないだろう。

「『旅人』を始末するにしては過剰戦力以外の何者でもねーよ……」

 どこの世界に、役立たずを始末するために勇者すら敵わない魔物をけしかける阿呆がいるのか。……ああ、この世界にいるな。ヤバいヤツ大杉であたまいたい。

 そうしてしばらく。

 扉に力一杯何度もドスンドスンと体当たりをする巨大なグレータービーストを見ていてふと思った。扉、頑丈過ぎねぇ? 開けた時は軽かったよな? 結構保つのな、まるで鍵がかかって……まさか、かんぬき常備!? 用意周到にも程があるだろぉぉぉ! どんだけ『旅人』を抹殺したかったんだよ!!

 合法的に抹殺したかったんだろうなー……ウチのクラス仲良いし。事故に見せかけないと後が大変だもんなー。うんうん、納得——

「——できるかぁぁッ!!」

 ハッと、反射でとっさに口を塞いだ。……グレータービーストさんは——素知らぬ顔で扉へのアタックを続けている。

「壊れスキルなのはありがたいが、心臓には悪いよな……気配遮断」

 俺は割と繊細なのだ。いくら持続時間が無期限と言われても、目の前でこんな凶暴な魔物がドッスンバッタンやってる側に居続けられるほど神経太くない。早くどっか行って欲しい。

 そんな願いが通じたのか——ピュィーという笛のような音が聞こえた。途端に大人しくなるグレータービースト。

「大人しくなった……?」

 まあ、俺への罠である以上コイツ野生の魔物とは違うかも……という考えも頭を掠めてた訳だが、マジか。マジでラスダン手前の魔物を飼い慣らす技術があんのか、この国……。

 ゾッとした。

 そんな国に召喚されてしまった事も恐ろしいが、そんな国のために働かせられるクラスのみんなが心配でならない。だが、今の俺にはそれを打開する術は無い。せいぜい逃げ延びて帰る方法を探すか、援軍を集めるくらいだろうか?


 俺は呆然と立ち尽くすしかなかった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

領地経営で忙しい私に、第三王子が自由すぎる理由を教えてください

ねむたん
恋愛
領地経営に奔走する伯爵令嬢エリナ。毎日忙しく過ごす彼女の元に、突然ふらりと現れたのは、自由気ままな第三王子アレクシス。どうやら領地に興味を持ったらしいけれど、それを口実に毎日のように居座る彼に、エリナは振り回されっぱなし! 領地を守りたい令嬢と、なんとなく興味本位で動く王子。全く噛み合わない二人のやりとりは、笑いあり、すれ違いあり、ちょっぴりときめきも──? くすっと気軽に読める貴族ラブコメディ!

処理中です...