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天つ通い路
燻る思い出 Ⅲ
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「私は、君に何度助けられたんだろうな」
抱きしめられたまま聞く彼の声は、穏やかだった。
大きく拍動する心臓の音は、ぬくもりとともに安堵を抱かせる。
紛れもなく彼が生きていることの証。
「君が見つけた影身玉、今回の鏡のこと、そして、昔にもらった食べ物」
どれもこれも、自覚がないままの出来事だ。
それが巡り巡って、彼の人生の生き死にに関わっていたという。
「君が死んだと聞いて……私が取り逃した魔物のせいだったから、君を殺したようなものだ、と。だから、あの時の少女にはせめて礼を、と……考えていた。州侯がいたから、不可解な行動をするわけにはいかず、あの子の消息を追うことはできなかった。色々一区切りついたら、あそこを尋ねてみよう、と思っていたんだ。__その必要は、なくなったな」
そんなことを考えていたのか__。
忘れず、わざわざ訪れようとしていた。
マイャリスは驚きながらも、彼らしいな、と思えて、顔を上げる。
無表情といえばそうだが、それでもどこか穏やかな表情のリュディガーは、腕を緩めた。
大学時代よりも、間諜としての気苦労からか頬が痩けた印象があるものの、体躯は武官のそれで頼もしい存在となった彼。
あの当時の、がりがりに痩せこけていた姿は、見る影もない。
食べ物を後生大事そうに抱えて、立ち去ったあの子供の様子は、鮮明に脳裏に焼き付いている。。
「リュディガー、その……お母様は……」
リュディガーのいくらか表情が曇る。
「……亡くなった」
マイャリスの予想内の言葉だったが、面と向かって彼の口から言われると、さすがに胸が詰まった。
「以前、朽ち果てた村に寄ったのを覚えているか?」
「ええ。確か……」
マイャリスは、リュディガーから身を離して遠望を見つめた。
ここからは自分とリュディガーが、不本意な挙式を上げた教会も見える。
そこと修道院とを起点にして、あたりを目を細めて見れば、その教会へと伸びる細い道の彼方に、黒く、貧相な印象を覚える地域。
村という規模。草木も茂り、文字通り打ち捨てられた印象のそこ。
「あのあたりですよね」
言って示すと、横に佇むリュディガーが頷く。
「もう来ない、と手紙を置いて去ってからそう経たず、魔物があの辺りに出没した。火を吹くものもいて……それで、ああなった」
マイャリスは、はっ、とした。
「あの頃、沢山、修道院に人が運ばれてきた……。今でならわかるけれど、皆、残穢があって……」
「おそらく、それだ」
自分が初めて目の当たりにしていた、残穢。知識もないまま看病をさせられた人々。
「母を助けに行こうとした。だが、すでに炎が家を覆い始めていて……それでも入ろうとしたところで、魔物が飛び出してきて……」
ぐっ、と一瞬言葉をつまらせたリュディガーに、マイャリスは彼を見た。
村を見つめているだろう彼の目元に力が入り、睨みつけている。
「腕を……咥えていたんだ。やせ細った、母の腕に違いなかった……」
あんな小さい子が、そんなことに直面していた事実にマイャリスは目眩を覚え、頭を抱える。
「立ち尽くしていたら、近所の非番だった州軍の人が、抱えるようにその場から連れ出してくれて……あとは、逃げるしかなかった」
看取れただけましだ、と彼は言っていたことがあるのをマイャリスは思い出した。
まさか、実の母親がそれほどの非業の死を遂げていたなどと思いもしなかったマイャリスは、彼の心中を察して余りある。
彼は、その母を弔うことさえ出来ずに今日までいるのだ。
実の父親は殺されて、その亡き後も遺体を利用されるという、尊厳を踏みにじられることをされていた。
涙が溢れてきて、マイャリスは慌てて目元を強く拭う。
リュディガーはその一帯へ視線を向けながら、腕を組む。
「君から、昔にもらった果物__李があっただろう」
「李?」
「……あれを食べて……種が出るだろう?」
マイャリスは、きょとん、としてしまった。
非業の死の話から、あまりにも内容が変わったからだ。しかも、明るい方へ。
何故そんな話題をするのだろう、と首をかしげる。
「もっと食べられたらいいのに、と思った」
「そ、そう……」
リュディガーの視線は、いつのまにか睨みつけるそれではなく、過去を懐かしむような穏やかな遠い視線になっているようにマイャリスには見えた。
「どのぐらいで育つか、実りを得られるのか、なんて知らなかったからな……。これが大きくなったら……実ったら、あの子にお礼であげよう、と、その種を当時、住んでいた家の庭に植えた」
え、とどこかで聞いた話に、マイャリスは困惑していれば、リュディガーは肩をすくめた。
「それも先日、すでに叶えられたな」
__叶えられた……?
何のことだろう__と思い起こしてすぐに思い当たったのは、挙式の日の出来事。
朽ち果てた村に寄ったとき、彼が馬車に戻ってきて、礼装の飾り袖から取り出して渡してきた李。
「あの、李……」
「そう」
「じゃあ、あの長屋は……」
「ああ。当時住んでいた借家だ」
見上げるほど、屋根よりも高くそびえる木。果樹。
あれは、彼が植えておいた種が芽吹いたものだったのか。
「まさか……種を蒔いている、と以前言っていたのは……」
「あの種は駄目だっただろうから……引き取られてから、そういうようにしていた」
「そう、だったの……」
わざわざ種を小物入れに仕舞って、蒔く、と言っていた彼。
実ははなったのか、と尋ねると彼の顔に影がさしたのを思い出す。
その後は引っ越したから知らない、と答えていた当時は、確か養子だったことを彼が明かす前だったはず。
やせ細っていたリュディガーを引き取ったローベルトが、てっきりくれた李だと思っていた。
__そういう、ことだったの……。
種を蒔く行動の起源を知り、マイャリスは胸が苦しいほどに詰まるのを自覚した。
「ありがとう、リュディガー。__とても、美味しかったです」
涙を拭い、笑顔で言う声は、思いの外震えてしまっていた。
過去を忘れることなく、だからといって打ち明けることもなく、直向きにその時々でできることをこなしていた彼。龍騎士にまでなったあの子供。
そんな彼、自分は大学時代、何をした。
嘘を付きつづけていた。
気にかけてもらった厚意を踏みにじった。
みるみるうちに、彼の顔が歪んでくる。
「なんて顔をしているんだ」
彼のその言葉が留めとなり、一気に苦しさが爆ぜた。
「__ごめんなさい……」
耐えかねて顔を覆いながら、嗚咽に紛れて出た言葉は、ちゃんと彼の耳に届いただろうか。
抱きしめられたまま聞く彼の声は、穏やかだった。
大きく拍動する心臓の音は、ぬくもりとともに安堵を抱かせる。
紛れもなく彼が生きていることの証。
「君が見つけた影身玉、今回の鏡のこと、そして、昔にもらった食べ物」
どれもこれも、自覚がないままの出来事だ。
それが巡り巡って、彼の人生の生き死にに関わっていたという。
「君が死んだと聞いて……私が取り逃した魔物のせいだったから、君を殺したようなものだ、と。だから、あの時の少女にはせめて礼を、と……考えていた。州侯がいたから、不可解な行動をするわけにはいかず、あの子の消息を追うことはできなかった。色々一区切りついたら、あそこを尋ねてみよう、と思っていたんだ。__その必要は、なくなったな」
そんなことを考えていたのか__。
忘れず、わざわざ訪れようとしていた。
マイャリスは驚きながらも、彼らしいな、と思えて、顔を上げる。
無表情といえばそうだが、それでもどこか穏やかな表情のリュディガーは、腕を緩めた。
大学時代よりも、間諜としての気苦労からか頬が痩けた印象があるものの、体躯は武官のそれで頼もしい存在となった彼。
あの当時の、がりがりに痩せこけていた姿は、見る影もない。
食べ物を後生大事そうに抱えて、立ち去ったあの子供の様子は、鮮明に脳裏に焼き付いている。。
「リュディガー、その……お母様は……」
リュディガーのいくらか表情が曇る。
「……亡くなった」
マイャリスの予想内の言葉だったが、面と向かって彼の口から言われると、さすがに胸が詰まった。
「以前、朽ち果てた村に寄ったのを覚えているか?」
「ええ。確か……」
マイャリスは、リュディガーから身を離して遠望を見つめた。
ここからは自分とリュディガーが、不本意な挙式を上げた教会も見える。
そこと修道院とを起点にして、あたりを目を細めて見れば、その教会へと伸びる細い道の彼方に、黒く、貧相な印象を覚える地域。
村という規模。草木も茂り、文字通り打ち捨てられた印象のそこ。
「あのあたりですよね」
言って示すと、横に佇むリュディガーが頷く。
「もう来ない、と手紙を置いて去ってからそう経たず、魔物があの辺りに出没した。火を吹くものもいて……それで、ああなった」
マイャリスは、はっ、とした。
「あの頃、沢山、修道院に人が運ばれてきた……。今でならわかるけれど、皆、残穢があって……」
「おそらく、それだ」
自分が初めて目の当たりにしていた、残穢。知識もないまま看病をさせられた人々。
「母を助けに行こうとした。だが、すでに炎が家を覆い始めていて……それでも入ろうとしたところで、魔物が飛び出してきて……」
ぐっ、と一瞬言葉をつまらせたリュディガーに、マイャリスは彼を見た。
村を見つめているだろう彼の目元に力が入り、睨みつけている。
「腕を……咥えていたんだ。やせ細った、母の腕に違いなかった……」
あんな小さい子が、そんなことに直面していた事実にマイャリスは目眩を覚え、頭を抱える。
「立ち尽くしていたら、近所の非番だった州軍の人が、抱えるようにその場から連れ出してくれて……あとは、逃げるしかなかった」
看取れただけましだ、と彼は言っていたことがあるのをマイャリスは思い出した。
まさか、実の母親がそれほどの非業の死を遂げていたなどと思いもしなかったマイャリスは、彼の心中を察して余りある。
彼は、その母を弔うことさえ出来ずに今日までいるのだ。
実の父親は殺されて、その亡き後も遺体を利用されるという、尊厳を踏みにじられることをされていた。
涙が溢れてきて、マイャリスは慌てて目元を強く拭う。
リュディガーはその一帯へ視線を向けながら、腕を組む。
「君から、昔にもらった果物__李があっただろう」
「李?」
「……あれを食べて……種が出るだろう?」
マイャリスは、きょとん、としてしまった。
非業の死の話から、あまりにも内容が変わったからだ。しかも、明るい方へ。
何故そんな話題をするのだろう、と首をかしげる。
「もっと食べられたらいいのに、と思った」
「そ、そう……」
リュディガーの視線は、いつのまにか睨みつけるそれではなく、過去を懐かしむような穏やかな遠い視線になっているようにマイャリスには見えた。
「どのぐらいで育つか、実りを得られるのか、なんて知らなかったからな……。これが大きくなったら……実ったら、あの子にお礼であげよう、と、その種を当時、住んでいた家の庭に植えた」
え、とどこかで聞いた話に、マイャリスは困惑していれば、リュディガーは肩をすくめた。
「それも先日、すでに叶えられたな」
__叶えられた……?
何のことだろう__と思い起こしてすぐに思い当たったのは、挙式の日の出来事。
朽ち果てた村に寄ったとき、彼が馬車に戻ってきて、礼装の飾り袖から取り出して渡してきた李。
「あの、李……」
「そう」
「じゃあ、あの長屋は……」
「ああ。当時住んでいた借家だ」
見上げるほど、屋根よりも高くそびえる木。果樹。
あれは、彼が植えておいた種が芽吹いたものだったのか。
「まさか……種を蒔いている、と以前言っていたのは……」
「あの種は駄目だっただろうから……引き取られてから、そういうようにしていた」
「そう、だったの……」
わざわざ種を小物入れに仕舞って、蒔く、と言っていた彼。
実ははなったのか、と尋ねると彼の顔に影がさしたのを思い出す。
その後は引っ越したから知らない、と答えていた当時は、確か養子だったことを彼が明かす前だったはず。
やせ細っていたリュディガーを引き取ったローベルトが、てっきりくれた李だと思っていた。
__そういう、ことだったの……。
種を蒔く行動の起源を知り、マイャリスは胸が苦しいほどに詰まるのを自覚した。
「ありがとう、リュディガー。__とても、美味しかったです」
涙を拭い、笑顔で言う声は、思いの外震えてしまっていた。
過去を忘れることなく、だからといって打ち明けることもなく、直向きにその時々でできることをこなしていた彼。龍騎士にまでなったあの子供。
そんな彼、自分は大学時代、何をした。
嘘を付きつづけていた。
気にかけてもらった厚意を踏みにじった。
みるみるうちに、彼の顔が歪んでくる。
「なんて顔をしているんだ」
彼のその言葉が留めとなり、一気に苦しさが爆ぜた。
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