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煌めきの都
顕現スルもの Ⅰ
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魔穴から飛び出し、元の__外の世界へ戻る。
しかしながら、至ったのはあの神殿のような空間ではなかった。
「__庭……何故……」
そこが州城の最上にある庭だとわかったのは、少し前まで自身が手入れをしてきた慣れ親しんだ数少ない場所だったから。
空中庭園と呼ばれている庭は、州都にあって最も冷たい空気にさらされる場所。先んじて徐々に閉じていく時期へ向け、木々が色づき始めていた。
物悲しさ、郷愁__返事であれば、そんな感傷に浸り、その情景を見ながら散策をしていただろう。しかし言うまでもなく、それどころではない。
「__いくらか歪が広がって、口の境界があやふやになっているとは思ったが、よもやこれほどとは」
空に棚引く雲の、不気味なまでの黒さ。どうしてこれほど黒いのか。そこに緋色の差し色が、ことさらに凶兆だと示している。合間合間に見える星星は、あまりにも少なく、そこを飛び交う、異形の姿に息を呑む。
最も目を引く色は、赤金の月。
マイャリスは、アンブラに促され、眼下が最もよく見える場所へと足を向けた。
露台から見下ろす州都は、いつになく明るかった。それは、所々で燃え盛る炎があるから。
その炎は篝火というには、あまりにも大きく、また広く。
州都に見える、黒い靄は瘴気だろうか。これほどはっきり視認できる濃さは、初めてだ。
遠く響き渡るのは、風の音などではなく、異形の咆哮。
見下ろすところ、様々な場所で、家屋が崩れていく様が見える。舞い上がる火の粉。膨れ上がった炎に照らされる、逃げ惑う人々の姿。それを追い立てるのは、まさしく異形の影だった。
きゅっ、と心臓が縮こまる感覚に、思わず抱えている鏡を自身に押し付ける。
「州兵はどうしているのです」
思った以上に上ずった声だった。
「訓練という名目で、数日前に州境へと向けて動かされている。リュディガーが理由をつけていくらか留めさせたが、州都にはわずかしか残されていなかった」
「近衛は」
「生ける者は、リュディガー以外数名を残すのみ。それもおそらく、スコルをはじめ、死者らがすでに屠ったに違いない。魔穴へ入る前、亡骸を見かけた」
全員ではないが、と添える言葉は、冷たいほど静かだった。
「……龍帝従騎士団は__」
「月蝕は、見える範囲で効果を発する。此度は、首都州でも被害が予想されていた」
「では……首都州に」
是、と素っ気なく言い放った狐は、ふわり、と音もなく地面へと降り立った刹那、その姿は人の成へと変容した。
「……私の見立てでは、首都州でも規模は小さいが、魔穴が生じているだろう」
「魔穴……ですか」
「開いていても、おかしくはない」
「そんな。では、すぐにでもここの魔穴を塞がないと。これを、どうすればいいのですか。とりあえずは、先程の場所へ__」
「今は、どうすることもできぬ」
予想外の言葉が、マイャリスの言葉の先を奪った。
え、と固まってしまったマイャリスをよそに、アンブラは、喰まれた月を見、目を細める。
「……月はまだ染まったままのようだが、流石に時間はいくらか経過していたか。あの清浄な空間が砕けて、我々は、魔穴に放り出されたようなものだから当然だろうが。……半刻も経っていないな」
ひとりごちたアンブラは、周囲を見渡して、手近な枝に触れる。
そして、何事かを口の中で呟いて、その枝にふぅ、と息を吹きかけた。途端に、枝が蠢いて__ちぎれた。
手折ったのでなく、紛れもなくちぎれたそれ。ぎょっ、とマイャリスは目を見開く。
アンブラはそれをもう一方の手で受け止めた。
ちぎれた枝は、蛇のようにねっとり、と掌で動きはじめた。アンブラの腕を這い、その拳に握られると、まるで翼を広げるようにして腕から持ち上がり、弧を描いて動きを止める。
それは、どこからどう見ても、弓だった。原始的な、ただ弧を描くだけの弓。だが、弦はない。
アンブラは徐に自身の頭に手を持っていき、長い優美な黒髪を数本抜いて、弓の端にくくりつけながら、口の中でまたも呟く。そして、反対側へと軽く指先で撚りを掛けるような仕草をしながら引っ張って、端へとくくりつけた。
出来上がったそれを、軽く舐めるように見てから、マイャリスへと視線を向ける。
「リュディガーから、託されたものを」
一瞬、何のことかがわからず怪訝にしてしまったが、すぐに思い出して、懐にしまっていたそれを取り出した。
一指分の大きさの、銀で出来ている筒状のもの。
それを優美な指が取り上げ、軽く上から下へと振る__途端に、しゃなり、と風が鳴って、光の粒が飛び散った。
そして示された彼の手には、一糸の矢。
鏡を下ろすように言われ、代わりに弓と矢をそれぞれ持たされた。
弓は、ただの素朴な弓。軽くもなく重くもなく。
矢の篦は漆黒で、矢羽は白。精緻な彫金が施された銀の鏃の先端は二股に別れた形状で、鏃の根本の銀の一部が口を開いていて、マイャリスは怪訝にした。
すると、すい、とアンブラが月を示す。
「あの月を射掛ける」
彼の言葉に、マイャリスは固まった。
「さぁ」
「待って、何を言っているの」
「この天変地異は、待ってなどくれません」
しれっ、と言い放つアンブラに戸惑う。
「いえ、そう……でしょうけど、そういうことではなく」
「なら、射掛けるように。__貴女様は、弓の扱いが上手なのでしょう」
こちらに戻ってきて弓など扱っていない。そう。扱わなくなって久しいのだ。
__腕があれば届くというものでもないでしょう。
空の遥か彼方に浮かぶ月だ。
「さっさと、射掛けなされ」
ぴしゃり、と言われ、自分では計り知れない何かなのだ、と無理やり飲み込んで、マイャリスは矢を番えた。
まっすぐ見据える赤金の月。
これまで__この夜、嫌というほど見てきた血のような赤。
引き結び、満を持す。幸い、弦は強い張りではない__が、これで果たして届くのだろうか。
いかばかりかの疑念を払拭するように首を振り、ままよ、とマイャリスは矢を放った。
心地よく、韻韻と響く弦の音は、静謐なそれを体現したよう。その音を引っ張って、夜陰にきらり、と銀の鏃が光り、軌跡を追うことは容易だった。
想像以上に矢は高く高く飛び、やがて彼方へと飛び去った__否、軌跡から考えて、落ちていった。
マイャリスは、ばくばく、と心臓が早鐘を打つ。
当然の動きだ。
この弓の具合にしては、むしろよく高く、力強く、飛んだ方。
至極、当たり前の、矢をやや高く射掛けた時の__弧を描く、軌跡。
__何……で。
呪い師が特別に作り出した弓で、特殊な見た目の矢だ。
期待していた。寄越したのは、他ならぬ呪い師で、人の姿に転変できる狐でもあるのだ。そうしたことを施してあるに違いない。途中からまじないの類で、月まで飛翔するのだと。
そうして、月を射掛けられたら、月蝕が収まるのだとか、そうしたことが起こるのだろう__そんな期待。
これで正しいのか。失望していないだろうか。呆れてはいないだろうか__ぎこちなく、アンブラを見る。彼は、ただ飛び去った矢の行方を見つめるばかり。
「あ、あの__」
しばらくそのままなものだから、思わず声を掛ける__そこで、ふわり、と背後から風が吹き抜けた。
あまりにも場違いな、まるで春の穏やかな風。
「__アンブラ、待っていましたよ」
ふわり、と風が起きた。その風がきた方が、俄に明るく輝いて、マイャリスはそちらを反射的に振り返る。
そこには、法衣に身を包んだフルゴルが歩み寄ってくるところだった。
マイャリスの姿を見て、微笑みかける彼女。
彼女の存在に、マイャリスは身体から力が抜けそうになるぐらい、安堵をもたらした。
しかしながら、至ったのはあの神殿のような空間ではなかった。
「__庭……何故……」
そこが州城の最上にある庭だとわかったのは、少し前まで自身が手入れをしてきた慣れ親しんだ数少ない場所だったから。
空中庭園と呼ばれている庭は、州都にあって最も冷たい空気にさらされる場所。先んじて徐々に閉じていく時期へ向け、木々が色づき始めていた。
物悲しさ、郷愁__返事であれば、そんな感傷に浸り、その情景を見ながら散策をしていただろう。しかし言うまでもなく、それどころではない。
「__いくらか歪が広がって、口の境界があやふやになっているとは思ったが、よもやこれほどとは」
空に棚引く雲の、不気味なまでの黒さ。どうしてこれほど黒いのか。そこに緋色の差し色が、ことさらに凶兆だと示している。合間合間に見える星星は、あまりにも少なく、そこを飛び交う、異形の姿に息を呑む。
最も目を引く色は、赤金の月。
マイャリスは、アンブラに促され、眼下が最もよく見える場所へと足を向けた。
露台から見下ろす州都は、いつになく明るかった。それは、所々で燃え盛る炎があるから。
その炎は篝火というには、あまりにも大きく、また広く。
州都に見える、黒い靄は瘴気だろうか。これほどはっきり視認できる濃さは、初めてだ。
遠く響き渡るのは、風の音などではなく、異形の咆哮。
見下ろすところ、様々な場所で、家屋が崩れていく様が見える。舞い上がる火の粉。膨れ上がった炎に照らされる、逃げ惑う人々の姿。それを追い立てるのは、まさしく異形の影だった。
きゅっ、と心臓が縮こまる感覚に、思わず抱えている鏡を自身に押し付ける。
「州兵はどうしているのです」
思った以上に上ずった声だった。
「訓練という名目で、数日前に州境へと向けて動かされている。リュディガーが理由をつけていくらか留めさせたが、州都にはわずかしか残されていなかった」
「近衛は」
「生ける者は、リュディガー以外数名を残すのみ。それもおそらく、スコルをはじめ、死者らがすでに屠ったに違いない。魔穴へ入る前、亡骸を見かけた」
全員ではないが、と添える言葉は、冷たいほど静かだった。
「……龍帝従騎士団は__」
「月蝕は、見える範囲で効果を発する。此度は、首都州でも被害が予想されていた」
「では……首都州に」
是、と素っ気なく言い放った狐は、ふわり、と音もなく地面へと降り立った刹那、その姿は人の成へと変容した。
「……私の見立てでは、首都州でも規模は小さいが、魔穴が生じているだろう」
「魔穴……ですか」
「開いていても、おかしくはない」
「そんな。では、すぐにでもここの魔穴を塞がないと。これを、どうすればいいのですか。とりあえずは、先程の場所へ__」
「今は、どうすることもできぬ」
予想外の言葉が、マイャリスの言葉の先を奪った。
え、と固まってしまったマイャリスをよそに、アンブラは、喰まれた月を見、目を細める。
「……月はまだ染まったままのようだが、流石に時間はいくらか経過していたか。あの清浄な空間が砕けて、我々は、魔穴に放り出されたようなものだから当然だろうが。……半刻も経っていないな」
ひとりごちたアンブラは、周囲を見渡して、手近な枝に触れる。
そして、何事かを口の中で呟いて、その枝にふぅ、と息を吹きかけた。途端に、枝が蠢いて__ちぎれた。
手折ったのでなく、紛れもなくちぎれたそれ。ぎょっ、とマイャリスは目を見開く。
アンブラはそれをもう一方の手で受け止めた。
ちぎれた枝は、蛇のようにねっとり、と掌で動きはじめた。アンブラの腕を這い、その拳に握られると、まるで翼を広げるようにして腕から持ち上がり、弧を描いて動きを止める。
それは、どこからどう見ても、弓だった。原始的な、ただ弧を描くだけの弓。だが、弦はない。
アンブラは徐に自身の頭に手を持っていき、長い優美な黒髪を数本抜いて、弓の端にくくりつけながら、口の中でまたも呟く。そして、反対側へと軽く指先で撚りを掛けるような仕草をしながら引っ張って、端へとくくりつけた。
出来上がったそれを、軽く舐めるように見てから、マイャリスへと視線を向ける。
「リュディガーから、託されたものを」
一瞬、何のことかがわからず怪訝にしてしまったが、すぐに思い出して、懐にしまっていたそれを取り出した。
一指分の大きさの、銀で出来ている筒状のもの。
それを優美な指が取り上げ、軽く上から下へと振る__途端に、しゃなり、と風が鳴って、光の粒が飛び散った。
そして示された彼の手には、一糸の矢。
鏡を下ろすように言われ、代わりに弓と矢をそれぞれ持たされた。
弓は、ただの素朴な弓。軽くもなく重くもなく。
矢の篦は漆黒で、矢羽は白。精緻な彫金が施された銀の鏃の先端は二股に別れた形状で、鏃の根本の銀の一部が口を開いていて、マイャリスは怪訝にした。
すると、すい、とアンブラが月を示す。
「あの月を射掛ける」
彼の言葉に、マイャリスは固まった。
「さぁ」
「待って、何を言っているの」
「この天変地異は、待ってなどくれません」
しれっ、と言い放つアンブラに戸惑う。
「いえ、そう……でしょうけど、そういうことではなく」
「なら、射掛けるように。__貴女様は、弓の扱いが上手なのでしょう」
こちらに戻ってきて弓など扱っていない。そう。扱わなくなって久しいのだ。
__腕があれば届くというものでもないでしょう。
空の遥か彼方に浮かぶ月だ。
「さっさと、射掛けなされ」
ぴしゃり、と言われ、自分では計り知れない何かなのだ、と無理やり飲み込んで、マイャリスは矢を番えた。
まっすぐ見据える赤金の月。
これまで__この夜、嫌というほど見てきた血のような赤。
引き結び、満を持す。幸い、弦は強い張りではない__が、これで果たして届くのだろうか。
いかばかりかの疑念を払拭するように首を振り、ままよ、とマイャリスは矢を放った。
心地よく、韻韻と響く弦の音は、静謐なそれを体現したよう。その音を引っ張って、夜陰にきらり、と銀の鏃が光り、軌跡を追うことは容易だった。
想像以上に矢は高く高く飛び、やがて彼方へと飛び去った__否、軌跡から考えて、落ちていった。
マイャリスは、ばくばく、と心臓が早鐘を打つ。
当然の動きだ。
この弓の具合にしては、むしろよく高く、力強く、飛んだ方。
至極、当たり前の、矢をやや高く射掛けた時の__弧を描く、軌跡。
__何……で。
呪い師が特別に作り出した弓で、特殊な見た目の矢だ。
期待していた。寄越したのは、他ならぬ呪い師で、人の姿に転変できる狐でもあるのだ。そうしたことを施してあるに違いない。途中からまじないの類で、月まで飛翔するのだと。
そうして、月を射掛けられたら、月蝕が収まるのだとか、そうしたことが起こるのだろう__そんな期待。
これで正しいのか。失望していないだろうか。呆れてはいないだろうか__ぎこちなく、アンブラを見る。彼は、ただ飛び去った矢の行方を見つめるばかり。
「あ、あの__」
しばらくそのままなものだから、思わず声を掛ける__そこで、ふわり、と背後から風が吹き抜けた。
あまりにも場違いな、まるで春の穏やかな風。
「__アンブラ、待っていましたよ」
ふわり、と風が起きた。その風がきた方が、俄に明るく輝いて、マイャリスはそちらを反射的に振り返る。
そこには、法衣に身を包んだフルゴルが歩み寄ってくるところだった。
マイャリスの姿を見て、微笑みかける彼女。
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