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帝都の大学
いつぞやの約束
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歩く帝都の夜は、先日の夏至祭で騒ぎ尽くしたように静かに感じる。
団欒のぬくもりが溢れる住宅街を歩いていると、自身の足元に影がくっきりと落ちていていることに気づき、もしや、と思って空を仰いだ。
左右にそびえる住宅が切り取る夜空。そこには銀砂を振りまいた空があるはず__だが、生憎と満月の今夜は、月のあかりに照らされてしまって、黒塗りの空はわずかに光の薄絹が覆っているようで星は少なく感じてしまう。
しばらく石造りの家の間の道を進み、住宅街を抜けて視界が開けたところで、改めて夜空を見上げた。
先程よりは、家々の明かりも遠ざかったからだろうか、星が多く感じられる。
その星空を横切る満月は、南に向けて高度を上げているところだ。
しかしながら、今度はその視界を揺れるように陰らすものの存在が際立った。並んで歩くリュディガーである。
「ありがとう、キルシェ」
川沿いの道は、満月とは言え住宅街に比べれた少しばかり暗い。カンテラで足元を照らしながら、リュディガーが穏やかに、そして静かに言った。
「いえ。でも、だいぶお待たせしてしまって……」
苦笑を浮かべて返せば、彼はゆるく首を振る。
「いや、そんなことはない。寧ろ、忘れてしまってくれていてよかったのに……父の思いつきの我儘みたいなものだったのだから」
川を滑るようにして流れる風は、涼やかで心地が良い。それを吸い込んで、キルシェは笑う。
「……約束は約束ですもの」
初めて彼の父に会った日の約束。
弦楽器を扱えるとわかり、何か一曲、とリュディガーの所望した父ローベルト。
肺を患い、足も不自由していた彼の父に聞かせるには、手慰みとして弾いていたから恥ずかしく、練習をしてから改めて、と約した。
いよいよ明後日から冬至に向け、矢馳せ馬に時間を割くことになっていくし、いい加減待たせすぎてしまったことも気がかりであったから、夏至祭の最終日__大学への帰路で、彼に提案したのだ。
__それを今夜果たせた。
民族楽器は間違いも風合いだとキルシェは思うが、それにしても限度はある。聞くに堪えないようなものは披露できないから、今日まで練習してきた何曲かは自信をもって披露できた。
その達成感が、こそばゆい。
社交辞令でも喜んでくれた彼の父の姿を思い起こせば、ほっこり、と心が和む。
「招いたはずが、食事まで作るのも手伝ってもらってしまって……寧ろ、ほぼ君だったな」
「意外でしたか?」
「……それほど驚いては__いや、すまない」
言葉をつまらせたリュディガーは、顔を振った。
「作れるだろうことは予想の範疇だったが、あれほどの味だとは思ってはいなかった……まったくもって偏見を抱いていた」
食事を一口食べた彼は、一瞬動きを止めていた。そして何事もなかったかのように、ゆっくりと食事を再開していたことをキルシェは見ていた。
「昔、叩き込まれたので」
そう笑えば、リュディガーの顔に、僅かに難しい色が浮かぶ。
修道院の寄宿学校で習得した料理の技術__それだけ聞けば、たしかに質素清貧を重んじる生活だから、食事は代わり映えはほとんどせず、食卓はにぎやかではないだろうと誰しもが思い描くはずだ。
実際そうであった。だが、それでも、ささやかな楽しみのそれを疎かにはしたくなかった者もいて、しかもその修道院は、療養施設も兼ねていたから、一般的な家庭に比べ質素であるものの、なるべく家庭での料理に似たような食事で味も美味しいものが継承されていた。
故にキルシェは、それを教えてもらい、身につけた。
「あ、勘違いしないでくださいね。お家でも習ったというか、聞いたこともありましたから」
「それは……」
「料理人のバルドさんに」
さらに家に戻ってからは、外へ出ることが滅多に許されることがなかったから、日々の数少ない楽しみとなった食事。それを料理人も承知で、創意工夫をしてくれていたのである。
料理人に直接会うことはできなかったものの、使用人伝に美味しかった旨と気になった料理の味付けなどをそれとなく聞いていたのだ。
無論、料理人が作る料理は、とても手間暇がかけられているものだから、それを今日できたわけではない。ただ味付けで利用できそうなものを作ったにすぎない。
「__それに、私はビルネンベルク先生のお供で、色々と美味しいお店でご相伴に預からせていただきましたから、舌が肥えていたのですよ、きっと」
「……思うんだが、舌が肥えていても、それを再現できるとか、応用できるとかはまた別のことだろう」
リュディガーの指摘に、キルシェは首を傾げる。
「そう……でしょうか?」
「そういうものだろう。以前、君に出した食事が申し訳なく感じるな」
「リュディガーのお料理、とても美味しかったですよ」
リュディガーは肩をすくめて首を振る。
「昔から作っていたの?」
「……手伝ってはいたな」
一瞬、リュディガーの歩みが遅くなった。それは本当に気の所為かもしれない、と思える程度の緩慢さ。ただ、よく一緒に行動をするキルシェには違和感を覚えるような、動きの変化だった。
内心、疑問に思いながらも、それを話題にはしなかった。
何か思う所があれば言う__それが暗黙の付き合い方になっていた。
親しき中にも礼儀はある。不躾に、相手が言い出さないことを深追いしすぎない。
無論、尋ねれば答えてはくれるだろうが、なんとなく追求してはならない事について察せられるのが、彼とはお互いにできていた。
「__こっちだ」
彼の家と大学との往復の道は、ぼんやりしていても迷うことがない。それほどしっかり定着している。
今もまさに、無意識に、西へ向かう道に登るため、階段に足をかけたところだったのだ。だのに、リュディガーだけは、川辺の道を直進して数歩先にいた。
「あら……リュディガー、道が違うでしょう?」
「いや、あっている」
「え……ですが……」
その先は、北へとゆるく向かっている。
遠回りして行けなくはないだろうが__とそれが表情に出ていたのだろう。リュディガーかくすり、と笑った。
「私も、約束を果たそうと思ってな」
「約束?」
思わず眉を潜めるキルシェ。
「忘れたのか。君のご所望だったろう」
「……?」
ますますわからない、と更に眉を潜めれば、やれやれ、という顔で片足に体重をのせるリュディガー。
「__蛍」
__蛍……。
ああ、とキルシェは目を見開いて手を打った。
それもまた、いつぞやの約束だ。
団欒のぬくもりが溢れる住宅街を歩いていると、自身の足元に影がくっきりと落ちていていることに気づき、もしや、と思って空を仰いだ。
左右にそびえる住宅が切り取る夜空。そこには銀砂を振りまいた空があるはず__だが、生憎と満月の今夜は、月のあかりに照らされてしまって、黒塗りの空はわずかに光の薄絹が覆っているようで星は少なく感じてしまう。
しばらく石造りの家の間の道を進み、住宅街を抜けて視界が開けたところで、改めて夜空を見上げた。
先程よりは、家々の明かりも遠ざかったからだろうか、星が多く感じられる。
その星空を横切る満月は、南に向けて高度を上げているところだ。
しかしながら、今度はその視界を揺れるように陰らすものの存在が際立った。並んで歩くリュディガーである。
「ありがとう、キルシェ」
川沿いの道は、満月とは言え住宅街に比べれた少しばかり暗い。カンテラで足元を照らしながら、リュディガーが穏やかに、そして静かに言った。
「いえ。でも、だいぶお待たせしてしまって……」
苦笑を浮かべて返せば、彼はゆるく首を振る。
「いや、そんなことはない。寧ろ、忘れてしまってくれていてよかったのに……父の思いつきの我儘みたいなものだったのだから」
川を滑るようにして流れる風は、涼やかで心地が良い。それを吸い込んで、キルシェは笑う。
「……約束は約束ですもの」
初めて彼の父に会った日の約束。
弦楽器を扱えるとわかり、何か一曲、とリュディガーの所望した父ローベルト。
肺を患い、足も不自由していた彼の父に聞かせるには、手慰みとして弾いていたから恥ずかしく、練習をしてから改めて、と約した。
いよいよ明後日から冬至に向け、矢馳せ馬に時間を割くことになっていくし、いい加減待たせすぎてしまったことも気がかりであったから、夏至祭の最終日__大学への帰路で、彼に提案したのだ。
__それを今夜果たせた。
民族楽器は間違いも風合いだとキルシェは思うが、それにしても限度はある。聞くに堪えないようなものは披露できないから、今日まで練習してきた何曲かは自信をもって披露できた。
その達成感が、こそばゆい。
社交辞令でも喜んでくれた彼の父の姿を思い起こせば、ほっこり、と心が和む。
「招いたはずが、食事まで作るのも手伝ってもらってしまって……寧ろ、ほぼ君だったな」
「意外でしたか?」
「……それほど驚いては__いや、すまない」
言葉をつまらせたリュディガーは、顔を振った。
「作れるだろうことは予想の範疇だったが、あれほどの味だとは思ってはいなかった……まったくもって偏見を抱いていた」
食事を一口食べた彼は、一瞬動きを止めていた。そして何事もなかったかのように、ゆっくりと食事を再開していたことをキルシェは見ていた。
「昔、叩き込まれたので」
そう笑えば、リュディガーの顔に、僅かに難しい色が浮かぶ。
修道院の寄宿学校で習得した料理の技術__それだけ聞けば、たしかに質素清貧を重んじる生活だから、食事は代わり映えはほとんどせず、食卓はにぎやかではないだろうと誰しもが思い描くはずだ。
実際そうであった。だが、それでも、ささやかな楽しみのそれを疎かにはしたくなかった者もいて、しかもその修道院は、療養施設も兼ねていたから、一般的な家庭に比べ質素であるものの、なるべく家庭での料理に似たような食事で味も美味しいものが継承されていた。
故にキルシェは、それを教えてもらい、身につけた。
「あ、勘違いしないでくださいね。お家でも習ったというか、聞いたこともありましたから」
「それは……」
「料理人のバルドさんに」
さらに家に戻ってからは、外へ出ることが滅多に許されることがなかったから、日々の数少ない楽しみとなった食事。それを料理人も承知で、創意工夫をしてくれていたのである。
料理人に直接会うことはできなかったものの、使用人伝に美味しかった旨と気になった料理の味付けなどをそれとなく聞いていたのだ。
無論、料理人が作る料理は、とても手間暇がかけられているものだから、それを今日できたわけではない。ただ味付けで利用できそうなものを作ったにすぎない。
「__それに、私はビルネンベルク先生のお供で、色々と美味しいお店でご相伴に預からせていただきましたから、舌が肥えていたのですよ、きっと」
「……思うんだが、舌が肥えていても、それを再現できるとか、応用できるとかはまた別のことだろう」
リュディガーの指摘に、キルシェは首を傾げる。
「そう……でしょうか?」
「そういうものだろう。以前、君に出した食事が申し訳なく感じるな」
「リュディガーのお料理、とても美味しかったですよ」
リュディガーは肩をすくめて首を振る。
「昔から作っていたの?」
「……手伝ってはいたな」
一瞬、リュディガーの歩みが遅くなった。それは本当に気の所為かもしれない、と思える程度の緩慢さ。ただ、よく一緒に行動をするキルシェには違和感を覚えるような、動きの変化だった。
内心、疑問に思いながらも、それを話題にはしなかった。
何か思う所があれば言う__それが暗黙の付き合い方になっていた。
親しき中にも礼儀はある。不躾に、相手が言い出さないことを深追いしすぎない。
無論、尋ねれば答えてはくれるだろうが、なんとなく追求してはならない事について察せられるのが、彼とはお互いにできていた。
「__こっちだ」
彼の家と大学との往復の道は、ぼんやりしていても迷うことがない。それほどしっかり定着している。
今もまさに、無意識に、西へ向かう道に登るため、階段に足をかけたところだったのだ。だのに、リュディガーだけは、川辺の道を直進して数歩先にいた。
「あら……リュディガー、道が違うでしょう?」
「いや、あっている」
「え……ですが……」
その先は、北へとゆるく向かっている。
遠回りして行けなくはないだろうが__とそれが表情に出ていたのだろう。リュディガーかくすり、と笑った。
「私も、約束を果たそうと思ってな」
「約束?」
思わず眉を潜めるキルシェ。
「忘れたのか。君のご所望だったろう」
「……?」
ますますわからない、と更に眉を潜めれば、やれやれ、という顔で片足に体重をのせるリュディガー。
「__蛍」
__蛍……。
ああ、とキルシェは目を見開いて手を打った。
それもまた、いつぞやの約束だ。
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