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帝都の大学
イノリノ面影
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龍帝従騎士団の建物を囲うように広がる庭は、手入れされていないようでされている、ある種の風景式庭園の様相だった。
その植生は豊か。
木々の合間を縫うようにしてのびる獣道のような土の道の脇から、すでにそれは伺い知れる。リュディガーが言うに、あるものをそのまま生かすように手入れするのが、昔からの伝統なのだそう。
中々踏み入ることが許されない一苑だから、キルシェは見落とさないよう視線を巡らした。
幸か不幸か、彼はいつもより歩みは遅いから存分に観察できるのはありがたいのだが、建物からひとつ道の弧に差し掛かったところで、歩みが著しく遅くなるからそれどころではなくなってきた。
終には、木を支えに足を止めて、呼吸を整える始末。
大丈夫か尋ねれば、引きつった顔で頷くのが精一杯と言った様子。
「__戻りますか?」
いや、と即座に迷いなく首を振る彼は、深呼吸をしてしっかり前を見据える。それはどこか、睨みつけるようにも見受けられた。
「__ラエティティエルがそれを許すとは思えない」
「そんなことは、無いと思いますけど」
「……君は、彼女の恐ろしさを知らないんだ。彼女は、龍騎士には厳しい。特に自分が仕えている相手には、な」
「中隊長だから……?」
「そう。中隊長だから。自分が仕える中隊長が不甲斐ないのは、許せないんだそうだ」
よし、と気合を入れるように声を出し、リュディガーは手を放して歩みを再開する。
「ありがたいよ……諫言してくれる存在というものは」
「それは、そうね」
気づかせてくれる存在という者は、中々に得難いものだ。
「__少々手厳しいが」
自嘲するリュディガーに、キルシェは小さく笑う。
そうして、ところどころで木々に手を置いて足を止めていた彼は、東屋へ至ったときには息も絶え絶えだった。
ぜぇ、はぁ、と体全体で呼吸をするリュディガーに、キルシェはあたふたとしていた。
「__だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ……。こんなに、遠かったか……?」
東屋は開けた場所にあり、来た道を振り返れば、木々の合間から建物もそれほど離れていないことがわかる。窓に佇む人影がわかるし、その顔も判別しようと思えばできるような距離。
白い大理石でできた東屋の柱を伝って、どうにか樽のような形に削った石の椅子へと腰を下ろしたリュディガーは、膝に手をついてうつむき、石の床に向かって大きくため息を零した。
「……先が思いやられるな……これほどとは」
呼吸を整えながら徐にリュディガーは羽織りを脱ぐと、軽く畳んで隣の椅子の上へ置く。
「服が汚れるからそこへ。東屋といったって、雨曝しに近い」
「ありがとう」
彼の厚意を素直に受け、キルシェもまた大理石の椅子に腰掛ける。
「身体は痛んだりしていない?」
「内臓に響くな……それで苦しくなって、呼吸しにくい感じだ」
言いながら、リュディガーは姿勢を戻し、鳩尾を押さえて苦笑する。
「まあ、予想の範囲だ。他はそこまで痛くはない」
「骨が見えるほどの怪我をした、と……さっき聞こえたけれど……それも?」
「ああ」
頷いて、左の二の腕を擦る。そこは、先程半裸になった際、包帯で覆われていた場所のひとつだった場所。
「この程度で済んだのは、ありがたかった。痺れもないし」
ほら、と言って、大きな手を数回、結んで開いてみせるリュディガー。
__この程度……なの……。
やはり彼らの尺度はわからない__が、それでも、驚くべき早さで快復しつつあるのは、本当に安心する。
キルシェの目から見ても、今日来たばかり__彼は寝ていたが__の頃と今とでは、嘘のような回復ぶりなのだ。
__本当に、よかった……。
しみじみ、と安堵が心の底から再び滲み出てきて、それを噛みしめようと、キルシェは俯いた。
「キルシェ、どうした?」
「いえ、本当によかったな、と。……私、そんなに信心深くはないのに、心の底から祈っていました」
__こういうときだけ、都合よく……。
あれ程祈ったことはない。
かつて修道院の寄宿学校でもなかった。__否あったはあった。病床に伏せていた人の回復は祈ったことはある。
「無事に帰ってきますように、と。任務についたと聞いたあと、ふとした時には必ず」
照れくさくて視線を落とした先にあった手の指を弄る。
「__祈って頂けるぐらいに、人望があってよろしゅうございました」
ふたりは弾かれるように声の方を振り返った。
声は東屋からそう離れていない場所、木々が切れて、開けた場所に差し掛かったあたりから。そこには、ラエティティエルがお茶を手に歩み寄ってくるところだった。
「きっと、そのお陰ですよ、リュディガー」
「何が?」
「昨夜__というよりも、未明ですね。言っていたじゃないですか。魔穴から出るときのこと」
ラエティティエルは言いながら東屋へ至ると、お茶を手際よく配していく。
彼女は、茶器は勿論、焼き菓子を数種類用意してくれて、しかも小さな花瓶まで添えられている。花瓶には、深い青の矢車菊が蕾のものと合わせて二輪生けられていた。
矢車菊は此処へ至る道すがら、所々咲いていた。特別贖うものでもないから、そこから手折ってきたのだろう。
「彷徨っているとき、白い影を見た、と」
「__あ」
思い至ったような声を上げたリュディガーに、キルシェは首をかしげる。
「あれは、君だったのか……」
「なんです?」
なおさら、わからない、と首をひねってしまった。
「白い影をみた。近づいていくと消えて、さらに先に移動していて……。不思議と嫌な気配はなかったし、キルシウム__私の龍だが、あれが勝手に行ってしまうものだから、もう御すとかそういう次元ではなかった……。何者なのかわからなかったが、今思い出すと、君だったように思う……。__面影があった」
「……どういう……?」
至極真面目な顔で言われるが、得心いかなかった。困惑していれば、ラエティティエルがくすり、と笑う。
「祈りは面影を宿す、と耳長族では言います。念ずれば通ず、という言葉もありますでしょう? あれと同じ類ですね」
「でも……まさか……」
彼は混濁していたという話だ。何かを見間違い、都合よく解釈しただけかもしれない。
神子などの神官職ならいざしらず、自分のような普通の、それもそこまで信心深くない者の祈りが届くとは到底思えなかった。
「お父様ではなく?」
「それもあったように思う。あやふやとしているんだがな……」
「なら__」
「お疑いでしょうが、キルシェ様の祈りもあったと思います。確信に近いものが、耳長なりにございますので。__恐らく、“翠雨の谷”のレナーテル様も同じことを仰せになるかと。あの方は、よく不可知を読み解きますから」
「不可知、ですか」
「祈りも不可知ですので」
不可知__もの、アニマという類の、視認するのは困難なものを総じて呼称する。視えないが、確実にあるとされるものだ。
「……よくわからないですが、私の祈りのお陰とかそうしたことよりも、とにかく、リュディガーが戻ってきたことが一番です」
ラエティティエルは、穏やかに目元を緩め頷く。
「左様でございますね。__では、ごゆっくり。申し訳ありませんが、暫くリュディガーをお願い致します」
「はい」
「何かあれば、この呼び鈴を」
最後に呼び鈴を置き、彼女は丁寧な一礼を取ると建物の方へと去っていった。
その植生は豊か。
木々の合間を縫うようにしてのびる獣道のような土の道の脇から、すでにそれは伺い知れる。リュディガーが言うに、あるものをそのまま生かすように手入れするのが、昔からの伝統なのだそう。
中々踏み入ることが許されない一苑だから、キルシェは見落とさないよう視線を巡らした。
幸か不幸か、彼はいつもより歩みは遅いから存分に観察できるのはありがたいのだが、建物からひとつ道の弧に差し掛かったところで、歩みが著しく遅くなるからそれどころではなくなってきた。
終には、木を支えに足を止めて、呼吸を整える始末。
大丈夫か尋ねれば、引きつった顔で頷くのが精一杯と言った様子。
「__戻りますか?」
いや、と即座に迷いなく首を振る彼は、深呼吸をしてしっかり前を見据える。それはどこか、睨みつけるようにも見受けられた。
「__ラエティティエルがそれを許すとは思えない」
「そんなことは、無いと思いますけど」
「……君は、彼女の恐ろしさを知らないんだ。彼女は、龍騎士には厳しい。特に自分が仕えている相手には、な」
「中隊長だから……?」
「そう。中隊長だから。自分が仕える中隊長が不甲斐ないのは、許せないんだそうだ」
よし、と気合を入れるように声を出し、リュディガーは手を放して歩みを再開する。
「ありがたいよ……諫言してくれる存在というものは」
「それは、そうね」
気づかせてくれる存在という者は、中々に得難いものだ。
「__少々手厳しいが」
自嘲するリュディガーに、キルシェは小さく笑う。
そうして、ところどころで木々に手を置いて足を止めていた彼は、東屋へ至ったときには息も絶え絶えだった。
ぜぇ、はぁ、と体全体で呼吸をするリュディガーに、キルシェはあたふたとしていた。
「__だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ……。こんなに、遠かったか……?」
東屋は開けた場所にあり、来た道を振り返れば、木々の合間から建物もそれほど離れていないことがわかる。窓に佇む人影がわかるし、その顔も判別しようと思えばできるような距離。
白い大理石でできた東屋の柱を伝って、どうにか樽のような形に削った石の椅子へと腰を下ろしたリュディガーは、膝に手をついてうつむき、石の床に向かって大きくため息を零した。
「……先が思いやられるな……これほどとは」
呼吸を整えながら徐にリュディガーは羽織りを脱ぐと、軽く畳んで隣の椅子の上へ置く。
「服が汚れるからそこへ。東屋といったって、雨曝しに近い」
「ありがとう」
彼の厚意を素直に受け、キルシェもまた大理石の椅子に腰掛ける。
「身体は痛んだりしていない?」
「内臓に響くな……それで苦しくなって、呼吸しにくい感じだ」
言いながら、リュディガーは姿勢を戻し、鳩尾を押さえて苦笑する。
「まあ、予想の範囲だ。他はそこまで痛くはない」
「骨が見えるほどの怪我をした、と……さっき聞こえたけれど……それも?」
「ああ」
頷いて、左の二の腕を擦る。そこは、先程半裸になった際、包帯で覆われていた場所のひとつだった場所。
「この程度で済んだのは、ありがたかった。痺れもないし」
ほら、と言って、大きな手を数回、結んで開いてみせるリュディガー。
__この程度……なの……。
やはり彼らの尺度はわからない__が、それでも、驚くべき早さで快復しつつあるのは、本当に安心する。
キルシェの目から見ても、今日来たばかり__彼は寝ていたが__の頃と今とでは、嘘のような回復ぶりなのだ。
__本当に、よかった……。
しみじみ、と安堵が心の底から再び滲み出てきて、それを噛みしめようと、キルシェは俯いた。
「キルシェ、どうした?」
「いえ、本当によかったな、と。……私、そんなに信心深くはないのに、心の底から祈っていました」
__こういうときだけ、都合よく……。
あれ程祈ったことはない。
かつて修道院の寄宿学校でもなかった。__否あったはあった。病床に伏せていた人の回復は祈ったことはある。
「無事に帰ってきますように、と。任務についたと聞いたあと、ふとした時には必ず」
照れくさくて視線を落とした先にあった手の指を弄る。
「__祈って頂けるぐらいに、人望があってよろしゅうございました」
ふたりは弾かれるように声の方を振り返った。
声は東屋からそう離れていない場所、木々が切れて、開けた場所に差し掛かったあたりから。そこには、ラエティティエルがお茶を手に歩み寄ってくるところだった。
「きっと、そのお陰ですよ、リュディガー」
「何が?」
「昨夜__というよりも、未明ですね。言っていたじゃないですか。魔穴から出るときのこと」
ラエティティエルは言いながら東屋へ至ると、お茶を手際よく配していく。
彼女は、茶器は勿論、焼き菓子を数種類用意してくれて、しかも小さな花瓶まで添えられている。花瓶には、深い青の矢車菊が蕾のものと合わせて二輪生けられていた。
矢車菊は此処へ至る道すがら、所々咲いていた。特別贖うものでもないから、そこから手折ってきたのだろう。
「彷徨っているとき、白い影を見た、と」
「__あ」
思い至ったような声を上げたリュディガーに、キルシェは首をかしげる。
「あれは、君だったのか……」
「なんです?」
なおさら、わからない、と首をひねってしまった。
「白い影をみた。近づいていくと消えて、さらに先に移動していて……。不思議と嫌な気配はなかったし、キルシウム__私の龍だが、あれが勝手に行ってしまうものだから、もう御すとかそういう次元ではなかった……。何者なのかわからなかったが、今思い出すと、君だったように思う……。__面影があった」
「……どういう……?」
至極真面目な顔で言われるが、得心いかなかった。困惑していれば、ラエティティエルがくすり、と笑う。
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「でも……まさか……」
彼は混濁していたという話だ。何かを見間違い、都合よく解釈しただけかもしれない。
神子などの神官職ならいざしらず、自分のような普通の、それもそこまで信心深くない者の祈りが届くとは到底思えなかった。
「お父様ではなく?」
「それもあったように思う。あやふやとしているんだがな……」
「なら__」
「お疑いでしょうが、キルシェ様の祈りもあったと思います。確信に近いものが、耳長なりにございますので。__恐らく、“翠雨の谷”のレナーテル様も同じことを仰せになるかと。あの方は、よく不可知を読み解きますから」
「不可知、ですか」
「祈りも不可知ですので」
不可知__もの、アニマという類の、視認するのは困難なものを総じて呼称する。視えないが、確実にあるとされるものだ。
「……よくわからないですが、私の祈りのお陰とかそうしたことよりも、とにかく、リュディガーが戻ってきたことが一番です」
ラエティティエルは、穏やかに目元を緩め頷く。
「左様でございますね。__では、ごゆっくり。申し訳ありませんが、暫くリュディガーをお願い致します」
「はい」
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