子籠もり

柚木崎 史乃

文字の大きさ
上 下
2 / 3

第2話

しおりを挟む
「久しぶり。元気だったか?」

「うん。じいちゃんのこと、残念だったね」

「……そうだな」

 しんみりしながら、聡太と話をする。

「そういえば、円架。お前、学校はちゃんと行ってるのか?」

「え?」

 祖母と同じことを聞かれ、私は一瞬言葉に詰まる。

「何言ってるの? とっくの昔に卒業して、今は社会人だよ」

「あー、そうだったか。なんかごめん、忘れてたわ……」

 聡太はそう言って苦笑する。
 その表情からは、本当に私の年齢を忘れているらしいことが伺える。

(仕方がないのかな……)

 田舎から離れた人間に関する記憶は、次第に薄れてゆく。それは、仕方のないことなのだろう。
 とはいえ、少し不可解だった。というのも、聡太は自分と同い年なのだ。小さい頃、一緒に遊んだこともある。
 そんな彼から年齢を忘れられてしまっているのは、正直悲しかった。
 ──そして、火葬は無事終了し、祖父は骨となって戻ってきた。

「これで、じいちゃんもようやく落ち着けるね」

「あぁ……そうだな」

 聡太はそう答えると、祖父の遺骨を見つめていた。
 家に帰ると、祖母は居間で一人ぼんやりとしていた。その姿はまるで抜け殻のようだ。
 無理もないだろう。長年連れ添った伴侶を失ったのだ。その悲しみは計り知れない。

 夕食後、私は祖父の部屋へと向かった。
 そこで、祖父の遺品を整理しようと思ったのだ。
 本棚を整理していると、アルバムが出てきた。

「うわぁ……懐かしいなぁ」

 写真に写っているのは、幼き日の自分と祖父。
 そのままペラペラとページをめくっていくと、ふとあることに気づいた。

「あれ……? なんで中学生以降の写真がないんだろう?」

 私の記憶が正しければ、祖父とは田舎を出る直前まで一緒に写真を撮っていたはずだ。
 それなのに、どのアルバムを見ても中学生以降の写真はない。

「なんで……?」

 首を傾げながらも、私は暫く遺品整理を続けた。
 机の中を整理するために、引き出しを開ける。すると、日記らしきものが出てきた。

「じいちゃんの日記かな……? でも、人の日記を読むのは良くないよね」

 一瞬躊躇ったが、結局好奇心に負けて読んでみることにした。
 日記には、こんなことが書かれていた。

『円架。お前が生まれた時、わしは本当に嬉しかった。お前が生まれてからというもの、毎日が幸せだった。でも、お前はわしを置いて逝ってしまった。なぜだ? なぜ、わしより先に死んでしまったんだ?』

(え……?)

 私は祖父の日記の内容に困惑する。
 一体、どういうことなのだろうか。
 次の瞬間、不意に祖母と従兄の言葉が頭をよぎる。

『お前、学校はちゃんと行っているのか?』

 彼らは、まるで子供に話しかけるようにそう尋ねてきた。
 最初はただ単に、しばらく帰っていないから年齢を忘れられているのかと思っていたけれど……。
 そこまで思い至った瞬間、全てが繋がった。全身の血が一気に引いていくような感覚に襲われる。

(もしかして、私、死んでいるの……?)

 もしそうなら、祖母や従兄が言っていた「学校はちゃんと行っているのか?」という言葉にも合点がいく。
 仮に、彼らに幽霊になった私の姿が見えているのなら、きっと子供のままに見えているはずだ。
 でも──私は確かに高校を卒業して、田舎を出て、都会で就職をした。もし自分が死んでいるのなら、今までの人生は一体何だったのだろうか。

(駄目だ、わからない……)

 そんなことを考えていると、段々と具合が悪くなってきた。

「うっ……」

 頭がくらくらする。意識が遠のいていく。
 そして──私は、ついにその場に倒れた。



 気が付くと、私は畳の上に横たわっていた。

「……?」

 上半身を起こした途端、ふと周囲に違和感を覚える。

「牢屋……?」

 私がいるのは、いわゆる座敷牢だった。
 気づけば、捕らわれの身となっていたのだ。

「え? なんで……?」

 わけがわからず、困惑する。
 格子を手で掴んで揺すってみるが、びくともしない。

「誰か! 誰か、いませんか!?」

 大声で叫んでみるも、返事はない。
 どうやら、誰もいないようだ。
 絶望に打ちひしがれていると、誰かが襖を開けて部屋に入ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『盆綱引き』

篠崎俊樹
ホラー
福岡県朝倉市比良松を舞台に据えた、ホラー小説です。時代設定は、今から5年前という設定です。第6回ホラー・ミステリー小説大賞にエントリーいたします。大賞を狙いたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

怪談実話 その3

紫苑
ホラー
ほんとにあった怖い話…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【短編】怖い話のけいじばん【体験談】

松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。 スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

処理中です...