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27.王太子からの手紙
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その日の作業を終えた私は、窓際で考え事をしながらぼんやりと外を眺めていた。
(ランプが売れるのは嬉しいけど……このままだと生産が追いつかないわ)
クレイグの店で委託販売を始めるようになってからというもの、領内で瞬く間にランプの噂が広まったため客が殺到し始めていた。
嬉しい反面、客が殺到しすぎるのは問題があった。なぜなら、肝心な魔蛍石に魔力を込める人員が足りないからだ。
時々、ジェイドが仕事の合間を縫って手伝ってくれてはいるものの、彼のように絶妙なさじ加減で鉱石に魔力を注ぎ込める人間は限られているため人材の確保が難しいのが現状である。
──そんな時、レヴァイン王国の王太子であるユリアンから一通の手紙が送られて来た。
(ユリアン王太子殿下が、私宛に手紙を……? ジェイド様にじゃなくて……?)
不思議に思いつつも、私は手紙の封を切った。
その手紙を読んだ瞬間、私は驚愕のあまり言葉を失った。
というのも、私が考えたランプのことを小耳に挟んだユリアン王太子が「もし差し支えなければ、宮廷魔導士を何名かそちらに派遣したい」と申し出てきたのだ。
宮廷魔導士──それは、この国における最高位の魔導士たちのことである。
そんな彼らの力を借りられるなんて、願ってもない話だった。
(でも……本当にいいのかしら?)
ふと、私はそんなことを考えてしまう。
ジェイド曰く、ユリアン王太子は信頼のおける人物らしい。ジェイドがそう言うのだから、本当にそうなのだろう。
しかし、彼は王太子であると同時に姉──ビクトリアの婚約者でもある。彼女がもしそのことを知ったら、反対するのは目に見えている。
下手をすると、妨害してくる可能性すらある。だから、私としては不安でならなかったのである。
そして、手紙の後半にはさらに驚くべきことが書かれていた。
半年後に王都で開催される予定の舞踏会に私とジェイドを招待したい、という旨が記されていたのだ。
なんでも、その舞踏会はユリアン王太子の誕生日パーティーを兼ねたものらしく、後日招待状を送るから是非とも参加してほしいとのことだった。
私が考案したランプに相当興味を持ったようで、「もし、良ければその時に詳しい話を聞かせてほしい」とまで書いてあった。
勿論、私もジェイドもその招待を受けない理由なんてない。
けれど、やはり気がかりなのは家族の存在だ。
ユリアン王太子の誕生日パーティーに、ラザフォード家が参加しないはずがない。
そうなると、高確率で彼らと鉢合わせをすることになるだろう。
(……大丈夫よね?)
私は自分に言い聞かせるように、心の中でそう呟く。
(とりあえず、ジェイド様に相談しよう)
届いた手紙を手に持ちながら、私はジェイドがいる執務室へと向かった。
「──というわけで、ユリアン王太子殿下から申し出を受けたのですが……どうしましょう?」
私はジェイドに尋ねてみる。すると、彼は顎に手を当てて考え込んだ後、静かに呟いた。
「そうか、殿下がそんなことを……」
ジェイドはそう言うと、黙り込んでしまった。
恐らく、私と同じように今後のことを考えているのだろう。それからしばらくして、彼は顔を上げた。
「しかし、殿下からのせっかくの申し出だ。ここはありがたく受けることにしよう。舞踏会についても、我々はあくまで客人として招かれたわけだし問題はあるまい」
「はい、それは勿論なのですが……」
私は頷いた。断る理由なんてどこにもない。寧ろ願ってもない話なのだから、本来ならば喜んで受けるべきだ。
しかし問題は、ラザフォード家の面々が今後どう出るかである。
そんな私の心情を察してか、ジェイドは「大丈夫だ」と言って微笑んだ。
「もし、ラザフォード家の人間から何か言われたとしても、俺が上手く話をつけておく。だから、何も心配はいらない」
ラザフォード家の名を口にした途端、ジェイドは少し表情を曇らせた。
そのことが気になりつつも、私はお礼を言う。
「ありがとうございます……。その、すみません。私が家族と上手くいっていないばかりに……」
私がそう返すと、彼は首を横に振ってみせた。
「いや、気にしなくていい。それに、コーディには何の罪もないだろう? 寧ろ、血の繋がった家族なのに髪や目の色が珍しかったり、魔力に恵まれないというだけで冷遇する彼らの方がどうかしている」
そう言って眉根を寄せたジェイドは、どこか怒気を孕んだような声色でそう言った。
(ジェイド様……もしかして、怒ってる?)
ジェイドがラザフォード家の面々をよく思っていなかったのは確かだ。
以前、私が実家で冷遇されていたことを打ち明けて以来、彼はまるで自分のことのように心を痛めてくれていた。
けれど、普段は穏やかな彼がここまで強い感情を露わにするのは珍しい。
不穏に思いながらも、私はそれ以上追及することはできなかった。
ただ、黙って次の言葉を待っていると──
「君が謝る必要なんてどこにもないさ」
ジェイドはそう言いながら、優しく微笑みかけてくれたのだった。
***
夕食を終え、寝室に戻ろうと廊下を歩いていると、不意に背後から声をかけられる。
「コーデリア様!」
振り向けば、サラがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「あの、先ほどジェイド様から伺ったのですが……王都で開かれる舞踏会にご出席されるというのは本当ですか!?」
サラはなぜか目を爛々と輝かせながらそう尋ねてきた。
「え? ええ……」
戸惑いつつも、私は頷く。
すると、サラは興奮したように鼻息を荒くしながら言った。
「それなら、ドレスが必要ですよね! 早速、用意しなくては! それから、装飾品も見繕わないと!」
「え、えっと……」
気圧されていると、サラは私の手を取って微笑んだ。
「というわけで、コーデリア様! 近いうちに街に出向いて必要なものを買いに行きましょう!」
「あ、あの……サラさん? 私、あまり高いものは……」
そう断ろうと思ったのだが、どうやらサラの耳には届いていないらしく、ああでもないこうでもないとぶつぶつ独り言を呟きながらドレスの候補を考えているようだった。
その様子に、私は思わず苦笑する。
(でも、いずれにせよ舞踏会に出席するならドレスは必要よね。それなら、サラさんに任せてもいいのかしら……?)
私は少し悩んだ末、結局彼女の提案を受け入れることにしたのだった。
(ランプが売れるのは嬉しいけど……このままだと生産が追いつかないわ)
クレイグの店で委託販売を始めるようになってからというもの、領内で瞬く間にランプの噂が広まったため客が殺到し始めていた。
嬉しい反面、客が殺到しすぎるのは問題があった。なぜなら、肝心な魔蛍石に魔力を込める人員が足りないからだ。
時々、ジェイドが仕事の合間を縫って手伝ってくれてはいるものの、彼のように絶妙なさじ加減で鉱石に魔力を注ぎ込める人間は限られているため人材の確保が難しいのが現状である。
──そんな時、レヴァイン王国の王太子であるユリアンから一通の手紙が送られて来た。
(ユリアン王太子殿下が、私宛に手紙を……? ジェイド様にじゃなくて……?)
不思議に思いつつも、私は手紙の封を切った。
その手紙を読んだ瞬間、私は驚愕のあまり言葉を失った。
というのも、私が考えたランプのことを小耳に挟んだユリアン王太子が「もし差し支えなければ、宮廷魔導士を何名かそちらに派遣したい」と申し出てきたのだ。
宮廷魔導士──それは、この国における最高位の魔導士たちのことである。
そんな彼らの力を借りられるなんて、願ってもない話だった。
(でも……本当にいいのかしら?)
ふと、私はそんなことを考えてしまう。
ジェイド曰く、ユリアン王太子は信頼のおける人物らしい。ジェイドがそう言うのだから、本当にそうなのだろう。
しかし、彼は王太子であると同時に姉──ビクトリアの婚約者でもある。彼女がもしそのことを知ったら、反対するのは目に見えている。
下手をすると、妨害してくる可能性すらある。だから、私としては不安でならなかったのである。
そして、手紙の後半にはさらに驚くべきことが書かれていた。
半年後に王都で開催される予定の舞踏会に私とジェイドを招待したい、という旨が記されていたのだ。
なんでも、その舞踏会はユリアン王太子の誕生日パーティーを兼ねたものらしく、後日招待状を送るから是非とも参加してほしいとのことだった。
私が考案したランプに相当興味を持ったようで、「もし、良ければその時に詳しい話を聞かせてほしい」とまで書いてあった。
勿論、私もジェイドもその招待を受けない理由なんてない。
けれど、やはり気がかりなのは家族の存在だ。
ユリアン王太子の誕生日パーティーに、ラザフォード家が参加しないはずがない。
そうなると、高確率で彼らと鉢合わせをすることになるだろう。
(……大丈夫よね?)
私は自分に言い聞かせるように、心の中でそう呟く。
(とりあえず、ジェイド様に相談しよう)
届いた手紙を手に持ちながら、私はジェイドがいる執務室へと向かった。
「──というわけで、ユリアン王太子殿下から申し出を受けたのですが……どうしましょう?」
私はジェイドに尋ねてみる。すると、彼は顎に手を当てて考え込んだ後、静かに呟いた。
「そうか、殿下がそんなことを……」
ジェイドはそう言うと、黙り込んでしまった。
恐らく、私と同じように今後のことを考えているのだろう。それからしばらくして、彼は顔を上げた。
「しかし、殿下からのせっかくの申し出だ。ここはありがたく受けることにしよう。舞踏会についても、我々はあくまで客人として招かれたわけだし問題はあるまい」
「はい、それは勿論なのですが……」
私は頷いた。断る理由なんてどこにもない。寧ろ願ってもない話なのだから、本来ならば喜んで受けるべきだ。
しかし問題は、ラザフォード家の面々が今後どう出るかである。
そんな私の心情を察してか、ジェイドは「大丈夫だ」と言って微笑んだ。
「もし、ラザフォード家の人間から何か言われたとしても、俺が上手く話をつけておく。だから、何も心配はいらない」
ラザフォード家の名を口にした途端、ジェイドは少し表情を曇らせた。
そのことが気になりつつも、私はお礼を言う。
「ありがとうございます……。その、すみません。私が家族と上手くいっていないばかりに……」
私がそう返すと、彼は首を横に振ってみせた。
「いや、気にしなくていい。それに、コーディには何の罪もないだろう? 寧ろ、血の繋がった家族なのに髪や目の色が珍しかったり、魔力に恵まれないというだけで冷遇する彼らの方がどうかしている」
そう言って眉根を寄せたジェイドは、どこか怒気を孕んだような声色でそう言った。
(ジェイド様……もしかして、怒ってる?)
ジェイドがラザフォード家の面々をよく思っていなかったのは確かだ。
以前、私が実家で冷遇されていたことを打ち明けて以来、彼はまるで自分のことのように心を痛めてくれていた。
けれど、普段は穏やかな彼がここまで強い感情を露わにするのは珍しい。
不穏に思いながらも、私はそれ以上追及することはできなかった。
ただ、黙って次の言葉を待っていると──
「君が謝る必要なんてどこにもないさ」
ジェイドはそう言いながら、優しく微笑みかけてくれたのだった。
***
夕食を終え、寝室に戻ろうと廊下を歩いていると、不意に背後から声をかけられる。
「コーデリア様!」
振り向けば、サラがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「あの、先ほどジェイド様から伺ったのですが……王都で開かれる舞踏会にご出席されるというのは本当ですか!?」
サラはなぜか目を爛々と輝かせながらそう尋ねてきた。
「え? ええ……」
戸惑いつつも、私は頷く。
すると、サラは興奮したように鼻息を荒くしながら言った。
「それなら、ドレスが必要ですよね! 早速、用意しなくては! それから、装飾品も見繕わないと!」
「え、えっと……」
気圧されていると、サラは私の手を取って微笑んだ。
「というわけで、コーデリア様! 近いうちに街に出向いて必要なものを買いに行きましょう!」
「あ、あの……サラさん? 私、あまり高いものは……」
そう断ろうと思ったのだが、どうやらサラの耳には届いていないらしく、ああでもないこうでもないとぶつぶつ独り言を呟きながらドレスの候補を考えているようだった。
その様子に、私は思わず苦笑する。
(でも、いずれにせよ舞踏会に出席するならドレスは必要よね。それなら、サラさんに任せてもいいのかしら……?)
私は少し悩んだ末、結局彼女の提案を受け入れることにしたのだった。
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