103 / 104
エピローグ後編 カナの意味
しおりを挟む
「彼女の名は風見鶏渚。名家風見鶏一族の一人娘。
幼い頃に母が家政婦をしていた関係でよく遊んでいた。
母と二人暮らしだった俺は借家のボロからお屋敷に行き来する毎日だった。
そのうち母が住み込みで働くようになると俺も当然屋敷で。
母が亡くなると彼女の家に引き取られることに。
一人娘のサポートとして養子になったのは理解してるが恩人に変わりない。
彼女との仲も良好。
カナが年上なものだからよく弟みたいに接するが俺としては複雑。
隠さずに言えばカナへの想いは常にあった。
だが彼女がそれをよしとしなかった。
恋愛関係になればいい面も悪い面も見えてくる。
だからこのままでいいとカナが。いやお嬢様がそう言えば俺は従うしかない。
ある日カナが自分の母の故郷に興味を持ちなぜか里帰りがしたいと言い出した。
止めたが頑なだった。
一度も、少なくても物心ついてから行ったことのない場所。
しかも急に親しくなった男との二人旅。
いわゆる恋人とのバカンス。
当然旦那様は猛反対。それでも行きたいと譲らない。
彼女は俺を引き連れることを条件に何とか許しを得る。
こうして俺はカナお嬢様のお守り役を任された。
要するに監視役だ。監視役として二人に同行。
そこがグリーズ島さ。覚えてるだろドルチェ? 」
一年前の惨劇。
これが島に辿り着くまでの俺たちの動き。
翼がカナを唆したのは間違いない。
秘宝『聖女の涙』に取りつかれた哀れな男。
その男の野望を見破れなかった世間知らずのお嬢様。
「大河さん。あなたはやはり…… 」
「ああ俺はカナが好きだった。でもそれを彼女がよしとせず他の男へ。
よりによってあの翼を愛してしまった。と勝手にそう思っている。
ただ真実は俺には分からない。直接カナに聞けば分かる。
だがそれが俺にはできない。怖すぎる。怖すぎるんだ。
「それで大河さんとカナさんは結局どのような関係でしょうか? 」
ブリリアントが話を元に戻す。
「関係? 昔はどうか分からないが義理の姉弟で仲良くやっているよ」
「お姉さんですか? 」
「そうだな。恥ずかしい話カナはお姉ちゃん。
俺にとって彼女はただのお姉ちゃんなのかもしれないな」
なぜか皆の前で告白する。
これでは公開処刑ではないか。
恥ずかしくてやってられない。
「だからカナさんの為に? でも名前で呼んでいたし……
まるで恋人の様だってドルチェがそう言うから」
シンディーがドルチェに擦り付ける。
「私? すべて私が悪いの? 親密にしていた大河が悪いんでしょう」
結局俺が悪いことになるらしい。
「カナか…… 誤解させたみたいだな。あれは愛称と言うか……
彼女の母の故郷では名前にカナをつけるらしいんだ。
俺もそれに慣れてつい渚カナって。そのうちカナだけで呼ぶように。
カナもその方がいいって言うからそのまま直さずに現在まで。
実はカナにはもう一つ意味が…… 」
つい下を向く。
「恥ずかしいのは分かるけどさちゃんと話しなよ大河。
あーちゃんに笑われるよ」
そう一人だけ俺に気を許してない女エレン。
彼女さえ意のままに操れれば俺の計画が完遂する。
残念だがもはや彼女の頭の中はあーちゃんのことだけ。
俺が入る余地がない。
だがそれでは彼女は不幸になってしまう。
何として振り向かせる。いや無理にでも振り向いてもらう。
「ははは…… エレンもきついな」
時間を稼ぎ態勢を立て直す。
「カナには愛しき人よって意味もあるんだ。
だから俺もカナって呼ぶし彼女もそう呼ぶ。
二人の関係を確認する為に…… このことは少し余計だったかな」
まったくなぜこんな話をしなくてはならない。
どれだけ恥ずかしいと思ってるんだ。
「大河さん。あなたのフルネームは? 」
突然ブリリアントのカウンター。
「何だそれ? 」
「大河さん自己紹介では名前しか言ってませんでしたしいつも大河だったから」
ブリリアントの鋭い指摘。
このさえ聞いておけってか?
さすがは我が助手。恐れ入る。
「ああ、言ってなかったか」
「はい」
「知りたいか? 」
「ふざけないでしっかり答えて大河」
エレンは一貫して厳しい。
「俺の名は風見鶏大河だ」
「風見さん…… 」
いつの間にかハッピー先生の姿が。
隠れて俺たちの会話を盗み聞きしていたらしい。
お節介なミス・マーム。お節介が過ぎるよハッピー先生。
「ハッピー先生。どこにいたんですか? 姿を見せないで心配したんですよ。
それと俺の名前は風見鶏です。間違えないでくださいよ。風見鶏大河」
「分かりました大河さん。どうやら告白は始まったようですね。
私も見守るとしましょう。では続けてください」
そう言うと腰を下ろした。
「改めて皆。俺と結婚してくれ」
一番最初に反応したのはエレン。困った様子。
「私は自分の運命を受け入れたい。大河の気持ちは嬉しいけど決めたこと」
分かり切っていたことだがエレンは頑なに意見を曲げようとしない。
「しかし…… このまま行くとどうなるか分かってるのかエレン? 」
「分かってる。それにあーちゃんのこともあるし…… 」
エレンはすべて理解した上で選んだ。そこに後悔はないらしい。
エレンを動かせない。これでは失敗も同然。
「分かってないじゃないかエレン。俺をなぜ信じない? 」
強く訴えかけるも決して届きはしない。
こんなにも近いと言うのにまるで世界が違う。
「私から申しましょう」
ハッピー先生が立ち上がり少女たちの置かれている状況を説明する。
「ブリリアントさん、シンディーさん、ドルチェさん、エレンさん。
あなた方四人は今日祭りが終わるまでに婚約しなければなりません。
それを過ぎると規定通り島長である副村長と契りを結ばなければなりません。
そもそもマウントシーの館に来る者はその場で副村長と契りを結ぶ決まり。
それを副村長自らが猶予を与えるよう指示したのです。
意外かもしれませんが副村長はあなた方の意思を尊重したのです。
その期限が今日という訳です。大河さんは知らされてましたよね」
「ええ。初日に聞かされショックで…… 俺はどうしたらいいか迷いました。
祭りまでに彼女たちを振り向かせられたら撤回すると。そして俺に後を任せると。
冗談かとも思いましたが副村長の真剣なまなざしから本心だと悟りました。
そして何より俺を信用してくれたことが嬉しかった」
「そう『聖女の涙』捜索の条件としてあなた方を幸せに導くようにと。
副村長もその重責に耐えられなかったのでしょう」
ハッピー先生が補足する。
ついにすべてが明らかになった。
もう時間がない。それは大河ではなく彼女たちの方なのだ。
最終回に続く
幼い頃に母が家政婦をしていた関係でよく遊んでいた。
母と二人暮らしだった俺は借家のボロからお屋敷に行き来する毎日だった。
そのうち母が住み込みで働くようになると俺も当然屋敷で。
母が亡くなると彼女の家に引き取られることに。
一人娘のサポートとして養子になったのは理解してるが恩人に変わりない。
彼女との仲も良好。
カナが年上なものだからよく弟みたいに接するが俺としては複雑。
隠さずに言えばカナへの想いは常にあった。
だが彼女がそれをよしとしなかった。
恋愛関係になればいい面も悪い面も見えてくる。
だからこのままでいいとカナが。いやお嬢様がそう言えば俺は従うしかない。
ある日カナが自分の母の故郷に興味を持ちなぜか里帰りがしたいと言い出した。
止めたが頑なだった。
一度も、少なくても物心ついてから行ったことのない場所。
しかも急に親しくなった男との二人旅。
いわゆる恋人とのバカンス。
当然旦那様は猛反対。それでも行きたいと譲らない。
彼女は俺を引き連れることを条件に何とか許しを得る。
こうして俺はカナお嬢様のお守り役を任された。
要するに監視役だ。監視役として二人に同行。
そこがグリーズ島さ。覚えてるだろドルチェ? 」
一年前の惨劇。
これが島に辿り着くまでの俺たちの動き。
翼がカナを唆したのは間違いない。
秘宝『聖女の涙』に取りつかれた哀れな男。
その男の野望を見破れなかった世間知らずのお嬢様。
「大河さん。あなたはやはり…… 」
「ああ俺はカナが好きだった。でもそれを彼女がよしとせず他の男へ。
よりによってあの翼を愛してしまった。と勝手にそう思っている。
ただ真実は俺には分からない。直接カナに聞けば分かる。
だがそれが俺にはできない。怖すぎる。怖すぎるんだ。
「それで大河さんとカナさんは結局どのような関係でしょうか? 」
ブリリアントが話を元に戻す。
「関係? 昔はどうか分からないが義理の姉弟で仲良くやっているよ」
「お姉さんですか? 」
「そうだな。恥ずかしい話カナはお姉ちゃん。
俺にとって彼女はただのお姉ちゃんなのかもしれないな」
なぜか皆の前で告白する。
これでは公開処刑ではないか。
恥ずかしくてやってられない。
「だからカナさんの為に? でも名前で呼んでいたし……
まるで恋人の様だってドルチェがそう言うから」
シンディーがドルチェに擦り付ける。
「私? すべて私が悪いの? 親密にしていた大河が悪いんでしょう」
結局俺が悪いことになるらしい。
「カナか…… 誤解させたみたいだな。あれは愛称と言うか……
彼女の母の故郷では名前にカナをつけるらしいんだ。
俺もそれに慣れてつい渚カナって。そのうちカナだけで呼ぶように。
カナもその方がいいって言うからそのまま直さずに現在まで。
実はカナにはもう一つ意味が…… 」
つい下を向く。
「恥ずかしいのは分かるけどさちゃんと話しなよ大河。
あーちゃんに笑われるよ」
そう一人だけ俺に気を許してない女エレン。
彼女さえ意のままに操れれば俺の計画が完遂する。
残念だがもはや彼女の頭の中はあーちゃんのことだけ。
俺が入る余地がない。
だがそれでは彼女は不幸になってしまう。
何として振り向かせる。いや無理にでも振り向いてもらう。
「ははは…… エレンもきついな」
時間を稼ぎ態勢を立て直す。
「カナには愛しき人よって意味もあるんだ。
だから俺もカナって呼ぶし彼女もそう呼ぶ。
二人の関係を確認する為に…… このことは少し余計だったかな」
まったくなぜこんな話をしなくてはならない。
どれだけ恥ずかしいと思ってるんだ。
「大河さん。あなたのフルネームは? 」
突然ブリリアントのカウンター。
「何だそれ? 」
「大河さん自己紹介では名前しか言ってませんでしたしいつも大河だったから」
ブリリアントの鋭い指摘。
このさえ聞いておけってか?
さすがは我が助手。恐れ入る。
「ああ、言ってなかったか」
「はい」
「知りたいか? 」
「ふざけないでしっかり答えて大河」
エレンは一貫して厳しい。
「俺の名は風見鶏大河だ」
「風見さん…… 」
いつの間にかハッピー先生の姿が。
隠れて俺たちの会話を盗み聞きしていたらしい。
お節介なミス・マーム。お節介が過ぎるよハッピー先生。
「ハッピー先生。どこにいたんですか? 姿を見せないで心配したんですよ。
それと俺の名前は風見鶏です。間違えないでくださいよ。風見鶏大河」
「分かりました大河さん。どうやら告白は始まったようですね。
私も見守るとしましょう。では続けてください」
そう言うと腰を下ろした。
「改めて皆。俺と結婚してくれ」
一番最初に反応したのはエレン。困った様子。
「私は自分の運命を受け入れたい。大河の気持ちは嬉しいけど決めたこと」
分かり切っていたことだがエレンは頑なに意見を曲げようとしない。
「しかし…… このまま行くとどうなるか分かってるのかエレン? 」
「分かってる。それにあーちゃんのこともあるし…… 」
エレンはすべて理解した上で選んだ。そこに後悔はないらしい。
エレンを動かせない。これでは失敗も同然。
「分かってないじゃないかエレン。俺をなぜ信じない? 」
強く訴えかけるも決して届きはしない。
こんなにも近いと言うのにまるで世界が違う。
「私から申しましょう」
ハッピー先生が立ち上がり少女たちの置かれている状況を説明する。
「ブリリアントさん、シンディーさん、ドルチェさん、エレンさん。
あなた方四人は今日祭りが終わるまでに婚約しなければなりません。
それを過ぎると規定通り島長である副村長と契りを結ばなければなりません。
そもそもマウントシーの館に来る者はその場で副村長と契りを結ぶ決まり。
それを副村長自らが猶予を与えるよう指示したのです。
意外かもしれませんが副村長はあなた方の意思を尊重したのです。
その期限が今日という訳です。大河さんは知らされてましたよね」
「ええ。初日に聞かされショックで…… 俺はどうしたらいいか迷いました。
祭りまでに彼女たちを振り向かせられたら撤回すると。そして俺に後を任せると。
冗談かとも思いましたが副村長の真剣なまなざしから本心だと悟りました。
そして何より俺を信用してくれたことが嬉しかった」
「そう『聖女の涙』捜索の条件としてあなた方を幸せに導くようにと。
副村長もその重責に耐えられなかったのでしょう」
ハッピー先生が補足する。
ついにすべてが明らかになった。
もう時間がない。それは大河ではなく彼女たちの方なのだ。
最終回に続く
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/mystery.png?id=41ccf9169edbe4e853c8)
それは奇妙な町でした
ねこしゃけ日和
ミステリー
売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。
バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。
猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる