ファイブダラーズ~もう一つの楽園 囚われの少女と伝説の秘宝 夏への招待状シリーズ①

二廻歩

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何人救えたのか?

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「大河さんお疲れ様」

目の前にはハッピー先生。

最後の戦いを終え残すはお祭り本番。

ここからが本当の試練。祭りまでの僅かな時間にすべてを賭ける。

俺にとっても少女たちにとっても明日がタイムリミットだ。


ハッピー先生と長かった一日を振り返り健闘を称えあう。

「もうへとへとです。ミス・マーム」

「それは本当に大変でしたね」

笑顔で労いの言葉を掛けるハッピー先生。見ているとなぜか落ち着く。

「他人事みたいに…… あなただって当事者でしょう? 」

「ははは…… そうですね」

表情を変えずに優しく微笑みかける。


「それで…… こんなところに呼び出して何の用ですか? 」

夜遅く。正確には次の日を迎えていた。

二人は夜遅くにマウントシーの別館で対峙する。

「仕方ありません。館の方は今修復中です。

落ち着かないでしょうからこちらに来てもらいました」

「はいそれはもちろん…… 」

「もう儀式は必要ありませんよね」

そう言うとハッピー先生は蝋燭等の道具を片付け始める。

仕方なく手伝うことに。

これがハッピー先生が呼び出した理由? そんなはずないか。

前置きはこれくらいで話し始めることに。


「大河さん。私は皆を…… 」

いつものように明るくはきはきと話すハッピー先生とは違い妙に真剣で暗い。

「ブリリアントさん、シンディーさん、ドルチェさん、エレンさんにアリアさん…… 

ではなくフラジールさんを助けようと薬や儀式で鎮める選択をしました。

ですがあなたはまったく違うやり方で彼女たちを救おうとした。

そして見事に彼女たちの苦しみを取り除いてくれましたね。

どちらが正しいのか一概には言えません。

ただ私のやり方も決して間違っていたとは思いません。

もちろんあなたの力で彼女たちを解放したのは事実です。

しかしやり方を間違えれば悪化させてしまうお恐れもありました。

決して無理に心の扉を開けてはならなかった。今でもそう思います」


ハッピー先生から強烈なお叱りを受ける。

だが俺には時間がなかった。これがベスト。

限られた時間の中で最高の仕事が出来たと考えている。

「ハッピー先生。俺にも正直この強引なやり方が正しかったか判断がつきません。

しかし限られた時間の中で彼女たちから信頼を得るにはこれしか方法がなかった」

こちらの苦悩も理解して欲しい。ハッピー先生ともあろうお方が責めるのか?

「果たして本当にそうでしょうか? 」

胸に刺さるお言葉。ハッピー先生は懐疑的だ。

「それは…… 自信がありません」

指摘されれば俯くしかない。


「あなたが落ち込んでどうするんですか? これは注意喚起のつもりです。

大河さんが元気がないとこちらが困ってしまいますよ」

「ハッピー先生。俺…… 俺…… 」

「すべてうまくいった。それでよろしいですね? 」

落ち込んだ俺を励ます。

だが俺はどう答えていいか分からなくなっている。

「その…… まだ自信がありません。俺は彼女たちを救えたのでしょうか?

一体何人救うことが出来たのでしょう? そう思うと何かこう…… 」

自信がなくつっかえてしまう。

「ユー君…… ああ、いえその…… 大河さんはよくやったと…… 」

ハッピー先生までしどろもどろになる。


「そうそう。フラジールからの頼みごと。

確かユー君をと。本当に驚きました。彼女が結婚して息子までいたなんて。

しかもあの翼の子だなんて。俺はもう何が何だか」

話題がフラジールの息子に。

「どうする気ですか大河さん? 」

一呼吸あけてから答える。

「祭りが終わり次第探し出したいと思います」

「どうやって? あなたはもうこの島から逃れられないんですよ。

副村長との約束を思い出してください」

確かにハッピー先生の言う通りだ。俺はこの島に閉じ込められた。

囚われの少女たちと同じように。だがそれは俺が自ら望んだこと。

今更撤回もできないし後悔しても遅い。


「分かってます。でも少しぐらい構わないでしょう? 」

ハッピー先生は鋭い目つきに変わる。

「大河さん。そうやって約束や慣習を軽々しく見ないでください。

あなたたちの未来がかかってるんですよ」

確かにそうだ。俺としたことが何も考えずに軽口をたたいてしまった。

出来ることと出来ないことがある。

堪らず反省の弁を述べる。

「はいそれはもちろん…… 自分の役割を果たすつもりです」

「よろしい。それでこそ大河さんです」

ようやく褒められる。

これ以上言われたら自信喪失するところだった。


「でも…… やっぱり自信がなあ…… 特にエレンに関してはまだ特に何も…… 」

「今はもうそんな時間も余裕もないのではありませんか?

全力でぶつかってそれでもだめならその時はその時ですよ。

私も微力ながらお手伝いさせてもらうつもりです。自信を持ちましょう。大河さん」

諭され励まされる。

さすがは人生の先輩。


「そうですよね。全力で当たるのみ」

もう迷う必要もないだろう。

さあ明日だ。明日すべての運命が決まる。

「その意気です大河さん。自信を持ってください」

「ではまた明日」

「はい決戦の日ですね。正確には今日ですけどね。大河さん」

「もう細かいな。ハッピー先生は」

ははは……

笑い合った。


マウントシーに希望の明日が訪れるのか?


                エピローグに続く
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