ファイブダラーズ~もう一つの楽園 囚われの少女と伝説の秘宝 夏への招待状シリーズ①

二廻歩

文字の大きさ
上 下
100 / 104

振り返らずの橋の悲劇

しおりを挟む
このままでは引き下がれないと未だに現実を受け入れない哀れな敵将。

仲間が負傷しそれどころではないと言うのに周りが見えてない。

出直すのも一つの手だと思うが。自分のプライドを優先させてしまう。


「分かった。分かった。考えてやらんこともない」

執拗に喰らいつくのでつい根負けしてしまう。

「やったぜ。ほら早くしろ」

調子に乗るがまだ良いとは一言も…… 本当に困った奴。

「どうする大河? お前に判断を任せる」

「構いませんが」

「分かった。お主の願い聞いてやろうではないか。大河今一度勝負してやれ」

「分かりました。それで方法は? 」

「そうだな。では橋を抜け先にマウントシーに着いた者を勝ちとしよう。

お主もそれでいいな? 」

「上等だぜ爺さん。どんな手を使ってでも先についてやる。もうやけだ」

男はやる気満々。当然自分から求めたもの。断ることはない。

正々堂々と戦うつもりはないのが気になるが悪党とは基本こんなもの。


「最終確認だ。今すぐここから立ち去り逃げても構わない。

だが勝負が始まれば引き返せない。それでよいな?

ここで立ち止るのが賢い者だと思うがな。命の保障はせん。好きにするがよい」

何とか思いとどまらせようと説得するも効果なし。

「ははは…… とにかく先に着けばいいんだろ? 楽勝じゃねえか」

まだ本当の恐ろしさに気付いてない。

こんな真夜中に僅かな光で橋を渡るのがどれだけ無謀で危険か分かりそうなもの。

この手の輩は放っておくに限る。


「それでは二人とも松明を手に前へ進め」

スタートラインに立つ。

「どけ」

「そっちこそ」

ベストポジションを巡って熾烈な戦い。

もうすでに駆け引きが始まっている。

「どけと言ってるだろうが」

「待て…… 」

「お先に。ははは…… 」

フライング気味に男が駆け出す。

慌てずに後ろにつく。

「邪魔なんだよお前は。どうなっても知らんぞ」

後にぴったりついたものだから離れるように脅しをかける。

だが今のところ風よけにもなるし体力温存にも持って来い。だから離れない。

相当嫌がってるようで男は小走りから一気にペースを上げ引き離しにかかる。

そこまで気になるか? 常に後ろに張り付く作戦。

だが他には思いつかないだけで嫌がらせするつもりはない……

「どけ邪魔だと言ってるだろ」

それでもなお後ろに引っ付くものだから嫌がりついにはペースを下げる。

先に行くように松明を揺らす男。

こうして難なくお先に行くことに。


そろそろ橋だ。

「早く行け」

もたついてるものだから促す始末。

「危ないだろう」

「うるさい。早く行けばいいんだ。早くしろ」

「ほらもう橋だ。騒ぐなって」

いくら注意しても聞かない自分勝手な男に一苦労。

「うるさい。あーもう暗いな」

走りを止め歩き出す。もはや競歩。

この状況で走れば橋から真っ逆さま。慎重にもなる。

「おい危ない。あぶなーい」

「うわあ」

手間取っている男がロープを揺らす。

「大丈夫か? 先に行くぞ」

引き離す。

真夜中の恐怖マラソンで一歩リード。

副村長も味な真似をする。これではただの度胸試し。

怖気づき立ち止った者の負け。

以外にもただ戦うよりも白熱する。


「待ちやがれ」

だが待てと言って待つ馬鹿はいない。

徐々に距離を引き離していく。

「くそ。まだだ。負けて堪るか」

意地のぶつかり合い。

「お先に」

「くそ。待て。待ちやがれ。うおおお」

慎重に…… 慎重に…… 急げ。急げ。

「くそ。うおー待て」

「うん。何? 」

「うおーうおー。待て。待て」

慎重に。もう少しだ。

「うおーはあはあ」

もうそろそろゴール。橋の終着点が見えてくる頃。

「くそ。早く。全力だ。うおおお…… 」
 
うん?
 
「うおおお…… うおおお…… はあはあ…… 」
 
「うん? 大丈夫かお前? 」

随分離してしまったかな。

「先に行くな。待ってくれ。待ってくれ」

後から懇願される。

「うん大丈夫か? お前…… 気をつけ…… 」

ゴール直前。橋を渡り切ろうかと言う時に男が気になり振り向いてしまう。


振り返らずの橋。

翼の命令で橋の由来を書き換えたドルチェ。

言い伝えや伝説も意図せずに間違って伝わることがある。

この橋も当初は帰らずの橋だったが今は……

いつの間にか定着し信じられるように。

特に観光客の間ではより刺激的な方が採用される。

『あのーここは振り返らずの橋と言いまして…… 』


タブーを犯してしまった大河。

「うわああ」

後を行く男がマウントシーに辿り着くことはなかった。

男がその後どうなったかは誰も知らない。


                  続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

聖女の如く、永遠に囚われて

white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。 彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。 ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。 良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。 実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。 ━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。 登場人物 遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。 遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。 島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。 工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。 伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。 島津守… 良子の父親。 島津佐奈…良子の母親。 島津孝之…良子の祖父。守の父親。 島津香菜…良子の祖母。守の母親。 進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。 桂恵…  整形外科医。伊藤一正の同級生。 秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...