ファイブダラーズ~もう一つの楽園 囚われの少女と伝説の秘宝 夏への招待状シリーズ①

二廻歩

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フラジールからの手紙

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再びマウントシーへ。

「ただいまブリリアント。待っていてくれたのか? 」

「当たり前じゃないですか大河さん。でも帰ってこないんじゃないかと…… 」

主人の帰りを待つ子犬のように尻尾を振る。

「馬鹿な…… 俺を信じろ」

つい抱きしめたくなるが堪える。

「私…… いえ何でもありません」

「済まないブリリアント。心配かけたな」

寂しそうな表情につい堪えきれず抱きしめる。

「大河さん…… 私まだ…… 」

「済まん。つい…… 」

気まずい雰囲気。

「助手だから…… 助手だから待っていてくれたのか? 」

「はい」

無邪気だ。ただ無理に明るく振る舞ってる気がして辛い。


「それで何か分かったか? 」

一応は成果を聞いてみる。

これが俺とブリリアントの日常。

こうすることで落ち着くようだ。それは俺も変わらない。

「そうですね。館内ではこれと言って特に動きは…… 」

引っ掛かる言い方だが慎重なのだろう。彼女らしい。

もう脅威は去った。それは間違いない。

元々裏切者だったフラジールももういない。

元凶の翼も闇の中。

あそこに落ちては助からない。

奇跡的に助かったとしても守り神の住処。

生き残る確率は限りなくゼロに近い。

俺たちは勝利したんだ。

マウントシーを魔の手から守ったのだ。

もちろん俺たちは非力で勝機は無かった。

守り神が味方しなければどうなっていたか……

こうしてマウントシーに再び平穏が訪れた。

今更何があると言うのか。

フラジールの件は残念だがそれはまた別問題。


「もう調べる必要もないしな…… 」

「いえ大河さん。それがまだ…… 不穏な動きがあります」

ブリリアントの情報は正確。だとすればまたこの地に危機が迫っていることになる。

だが果たしてそんなこと有り得るのか?

明日はもう祭り本番。これ以上のゴタゴタがあってたまるか。

「何だって…… それは本当か? 」

「副村長反対派によるマウントシー襲撃計画をキャッチしました。

情報によると今夜。ですから早く大河さんに知らせようと…… 」

「今夜? まさか冗談だろ」

「はいもう間もなくかと。とにかくお伝えしなければと帰りを待っていた次第です。

本当にもう時間がありません。すぐにでも準備願います」

「一応確認するが事実なのか? 」

「はい、残念ながら確かな情報です。何と言っても反対派の一人から聞いた話。

これ以上ない情報。信憑性はかなりのものかと」

「うん? 聞いたってどういうことだ」

「実はハッピー先生に相談に来たんですよ。それをちょっと耳にしまして」

罪の意識からか恥ずかしそうに下を向く。

「ああ盗み聞きね。まったくお前って奴は…… 俺にはするなよな」

「はい」

元気に答えるが守る気はさらさらないな。


「そうだハッピー先生が…… 何でも至急話しておきたいことがあるそうです」

「分かった。他の者は? 」

少女たちが気がかりだ。

ブリリアントアは意外にもタフ。

今回だって冷静に情報収集をしている。

特に心配なのはエレン。まだ立ち直れてない気がする。

「やはり気になりますか。もう皆さん寝てしまいましたよ」

遅すぎたか。まあ今日は疲れただろうからゆっくり眠るといいさ。

明日は祭り本番。さすがに出席しない訳にはいかないだろう。

俺も早くゆっくりしたい。残念ながら出来そうにないが。


「そうか。ご苦労だったなブリリアント」

「ああ待ってください。大河さんから預かっていた手紙をお返ししないと」

慌てた様子のブリリアント。

「手紙って…… フラジールのか? 気が重いな。代わりに読んでくれないか」

「はい。では会議室に行きましょう」

気が乗らないがじっくり聞くことに。

「いいか感情を込めずに淡々と読んでくれ」

注文を付ける。

「はあ…… 」


大河へ。

許してほしい。

もうそれだけしかありません。

許してほしい。

あなたを利用したことを。

許してほしい。

あなたを苦しめたことを。

許してほしい。

皆に嘘をついたことを。

許してほしい。

ハッピー先生を騙していたことを。

許してほしい。

ブリリアント、シンディー、ドルチェ、エレンにアリアを裏切り続けたことを。

大河。あなたとの関係はあの時証明されたと思います。

二人が愛し合った事実は変わらない。

たとえあなたにその気がなかったとしても私は嬉しかった。

それだけで本当に本当に幸せでした。

最後に私の息子のユー君を頼みます。

マウントシーに平和と希望を。

あなたの岬アリアより。

前野フラジール。


「アリア…… 」

「大河さん? 」

「済まない。フラジール…… 」

「大河さん。大丈夫ですか大河さん? 」

「ああ…… 行くぞ」

「まさか…… どこへ? 」

「決戦の舞台へ」

「はい」

こうして最後の戦いへ。


                  続く
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