ファイブダラーズ~もう一つの楽園 囚われの少女と伝説の秘宝 夏への招待状シリーズ①

二廻歩

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カウントゼロ 闇に消えた翼

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カウントダウン。

「……ファイブ、フォー、スリ…… 待て。中止。発射中止」

「どうしました? 」

「ははは…… この俺としたことが何も考えずに情けない。冷静になろうぜ。

焦る必要はない。もう少し下がって距離をとれ。巻き添えを喰らうぞ」

「了解しました」

直前で我に返る翼。

そう、このまま行けば確実にマウントシーの館は崩壊する。

近づき過ぎれば巻き込まれる恐れも。なるべく離れて発射すべきだ。

もしバック出来るならそのまま下がればいいが生憎ヘリはそんな作りになってない。

方向転換するにしても時間がかかる。

すぐに崩壊するとも限らないが不測の事態に備えるのがプロと言うもの。

ヘリは向きを変え館から遠ざかる。

そして十分な距離をとると向きを戻し再び館に照準を合わせる。

こうして準備は完了。

再びカウントダウンを始める。


「ファイブ、フォー、スリー、トゥー、ワン…… 」

うごおおお

その瞬間何者かが館の前を横切る。訳が分からぬまま発射。

「何だ。一体どうした? 」

「分かりません。何が何だかまったく」

非常事態に混乱する。

「報告しろ。いいから報告するんだ」

パイロットに全幅の信頼を置く翼。自ら動くことに抵抗を感じている節がある。

「ああ。あれは…… 巨大な化け物。化け物が。化け物が…… 」

何とか口に出して説明しようとするが要領を得ない。

パイロットはもはや正気を失っている。

「どうした? 答えろ。答えるんだ」


ヘリと館の間に突如現れた獣によって目標が狂い館は崩壊を免れた。

弾は右をかすめ命拾い。だがもちろんその威力や半端ない。

かすめた程度だと言うのに大きな傷跡が。

これは早く修理しなければ危険だ。

あと少しずれていたら……

館の者たちは全員無事。

中央に配置していたおかげで被弾することはなかった。

結果的に一か所に集まったのが功を奏した。


「うわああ…… 」

「翼さん? 落ち着いてください」

パイロットが正気に戻ると今度は翼がおかしくなる。

「大丈夫ですか? 」

「済まん。ちくしょう化け物が邪魔しなければきれいな花火が上がったと言うのに」

「どうします? とっておきの一発が…… 」

何とか冷静さを取り戻した翼は悔しそうに立ち塞がった獣を見る。

「慌てるな。威力は落ちるが化け物を退治するぐらい何とかなるだろう。

撃て。撃ちまくれ。撃ち続けるんだ」

弾が尽きるまで乱射を命じる。


ダッダダ バババ ドン
ダッダダ バババ ドン
ドン バババ ダッダダ
ダン ダダン バババ バババ
ダッダダ ダッダッダ バババ

「撃て。もっと撃て。もっとだ。もっと。早くしろ」

どんどんエキサイトしていく。

乱射を続けるがまったく手応えがない。

苛立った翼はもっとだと煽るばかり。

「撃て。撃てと言ってるだろ? なぜ撃たん? なぜ当たらん? 」

恐れ戦くパイロット。

だが非情命令は続く。

「全弾撃ち尽せ。怯むな。行け。行け。もっと行け。もっとだ。もっと」

「はい、分かってます。撃ってます。撃ちまくってます。撃って……

全弾撃ち尽しました。もう弾がありません。どういたしましょう? 」

連射を続けたものだから弾は空。これでは突っ込むぐらいしか手がない。

それでは自分たちも助からない。ここは撤退するしかない。

「馬鹿め。退却だ。急げ。早くしろ」

ヘリは方向転換をし退却準備にかかった。

しかし獣によって退路を塞がれてしまう。


「どけ化け物。どけ」

いくら吠えても獣に分かるはずがない。

仕方なく再び方向転換。

徐々に追い詰められていく。

「何をしてるんだノロマ。早く。早く」

焦るがどうにもならない。

「ダメです。進行方向は崖。もう後がありません。燃料もあまりありません。

早く。早く着陸しないと墜落します。これは非常事態だ」

ついに追い込まれる。

「分かっている。だがどうしようもないだろう? 」

「謝りましょう。降伏しましょう」

パイロットは戦意を喪失した。

「今更遅い。それに化け物に言葉が通じるはずないだろ」

「お願いです翼さん。早くご決断を」

こんな状況でも指示を待つ。あくまで翼が上でパイロットが下。

「しかし今すぐにでも着陸しないと。ああ…… ダメだ。ああ止めて。

止めてくれ。止めてくれ。頼む。止めてくれ。頼む。お願いします」

ついには命乞いをする始末。

だがどんなに頼み込んでも獣には通じない。


マウントシーの守り神はマウントシーの危機に現れた。

マウントシーを守る為果敢に襲い掛かる。

「うわ止めろ。止めろ。止めるんだ」

逃げ惑うヘリは成す術なく崖に追い詰められ強制的に押し出される。

こうして崖の下へと墜落していった。

獣は戦い方を熟知しておりどうすれば追い詰められるか計算していたようだ。


うごおおおお

獣は雄たけびを上げる。

「ああああ――― 」

「た――― す――― け――― 」

抵抗虚しくヘリは遥か下の闇へと消えていった。


                 続く
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